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4 ◇過去が急ぎ足で崩れ去ろうとしていた
その頃、温子の夫の哲司は自分の部屋に逃げ込み、すでに
そこにはいなかったのである。
泣いて謝るのかと思えば挑戦的な物言いで強気な態度を取る妹の言動に
むしゃくしゃしながら温子は寝室へと向かう。
夫から謝罪はあるのだろうか。こんなことが起きるまで自分の両親と同居
してくれて、自分や子供にはいつもやさしくしてくれていた夫。
勿論両親のことも気遣ってくれ娘と自分そして夫と両親の5人仲良く
暮らしてきたというのに。
部屋に入ると夫は向こうを向いてすでに寝ていた。
謝罪はしないと決めて開き直るつもりなんだろうか?
すでに妹とは出来心を飛び越し、何らかの将来の約束でもしているのだろうか。
無言を貫く夫を前に途方に暮れる温子の姿があった。
そして……まんじりともせず夜を過ごし、夜が明けた。
夫が動いたのを機に温子は声を掛けた。
********
「今夜、なるべく早く帰ってください。お話があります」
「分かった」
何もなかったことにしようとでもいうのか。
昨夜の今朝だというのに「分かった」の一言のみ。
今まで互いに仲睦まじく暮らしてきた相手とは到底思えないような
目の前の人の態度に温子は酷く傷ついた。
◇ ◇ ◇ ◇
妻の温子の妹である凛子が嫁ぎ先を追い出されて出戻ってきてから
しばらくの間気まずさはあるものの、彼女の事を哲司は義妹として冷静に
対応していた。
だが、時として色っぽい視線を向けてくる凛子に……
若さと危うさを併せ持つ凛子に……いけないことと知りつつ徐々に哲司は
惹かれていくのを止められなかった。
最初は、ただ話を交わすだけだった。
読んでいる小説について語り合い、文明開化の風潮について
語り合ってみたりと……。
だが、ある夕暮れ、残業で帰りが遅くなった妻、親戚へ出掛けていない
義両親、友だちの家へ遊びに行ったきりの娘、自分と凛子だけになる時が
訪れてしまい、そのような状況に哲司は後押しされる形で流されてしまう。
そう……
人気のない奥の離れ座敷で、ふとしたはずみから? 2人は一線を越えてしまった。
『ふとしたはずみ?』本当にそうだったのだろうか? 随分前からふたりの
潜在意識の中ではそのような時の訪れるのを密かに待っていたのかもしれなかった。
その日からふたりの睦み合いは家族の目を盗んで何度も重ねられるように
なっていった。
だが隠し通せるはずもなかった。
こともあろうに一番見つかってはいけない相手に……予定より早く帰宅した妻に
……見つかってしまったのである。