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第一夜:角の生えた青年
その晩、【Fleur】のドアが開くと、一人の若い男性が足早に店内に入ってきた。彼の頭には、大きな角が生えており、その姿はまるで古い伝説の中の怪物のようだった。しかし、その目はどこか憂いを帯び、彼が抱える悩みの深さを物語っていた。
リュカが笑顔で出迎える。「いらっしゃいませ。お席にどうぞ。」
青年は少し戸惑いながらも、リュカの優しい声に安心して席に着く。「こんばんは…」
カインはカウンターの後ろで、すでにカクテルグラスを磨きながら静かにその様子を見守っていた。リュカが声をかける。
「今日はどんなことでお悩みですか?」
青年は少し言葉を詰まらせた後、ゆっくりと話し始めた。「実は…僕、最近、周りとの接し方がわからなくなってきて。人々が僕を見て、恐れているのがわかるんです。それで、だんだんと心が閉じていって、誰とも話せなくなってしまって…」
リュカは静かに頷きながら、その話を聞いていた。そして、カインに目を向ける。
「カイン、君がいいかもしれない。」
カインは軽く肩をすくめると、無言でカクテルを作り始めた。手際よく、冷静に材料を揃えていく。少しすると、金色の液体がグラスに注がれ、そこにキラキラとした光が舞い降りた。
「このカクテル、Golden Echo。あなたの内面に響く声を聞くための一杯です。無理に話さなくてもいい。飲んでみて。」
青年はカクテルを手に取り、慎重に一口飲んでみた。その瞬間、彼の顔に一瞬の光が差し込んだ。柔らかな表情が浮かび、彼は少し深呼吸した。
「すごい…。何か、心が少し軽くなった気がします。」
リュカは微笑んだ。「このカクテルは、あなたの心の声を聞くために作ったものです。恐れずに、周りの人と話してみてください。あなたの角を恐れる人もいるかもしれませんが、あなたの本当の姿を理解してくれる人も必ずいます。」
青年はうなずき、少し目に涙を浮かべながら、深く感謝の言葉を口にした。「ありがとう…。勇気が出ました。」
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