テラーノベル
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あるところに、不思議なドームがあった。
星そのものと言ってもいいほど巨大で、透明なドームだ。
その内部には、さらに小さなドームが無数に存在していた。
外側のドームと比べれば遥かに小さいが、その一つ一つの中には、大きな島が浮かび、周囲には海が広がっている。十分すぎるほどに、ひとつの世界として成立しているドームだった。
そして、それらの無数のドーム達の中央に、ただ一つだけ高くそびえる塔があった。
塔の内部では、四人の男女が慌ただしく作業をしていた。
「うん……やっぱりNo.1〜540も、もう手遅れみたいだね」
眼鏡をクイッと押し上げながらそう言ったのは、知性の溢れる爽やかな青年だった。
さらりとした黒髪がさらに爽やかさを際立たせている。
肩から下げたタスキには、↑のマークが縦に並んでいた。
「No.541〜1080も、すでに崩壊済み」
透明感のある声の主は、神秘的な雰囲気を持つ少女だった。
美しさと可愛らしさを併せ持ち、いわゆる“不思議ちゃん”と呼ばれそうな存在だ。
真っ白なロングヘアを揺らしながら、彼女は淡々と告げる。
タスキには✝︎のマークが、同じように縦に並んでいる。
「えー……もう全然残ってないじゃん! No.1081〜1620もだよ!」
少し驚いたように声を上げたのは、明るい雰囲気の少女だった。
茶髪に赤いメッシュが入り、柔らかく人懐っこい印象を与える。
優しい陽キャ、そんな言葉がよく似合う。
彼女のタスキには♡のマークがあった。
「本当にそうだよな……急にこんなことになるなんて」
やや低く、沈んだ声で言ったのは、もう一人の青年だった。
サッカー部でボールを蹴っていそうな、陽キャの雰囲気を纏っている。
鳩羽鼠色の髪を揺らしながら、彼は続ける。
「1620〜2160も……と言いたいところだが」
「え、何かあったのか? まさか、生き残りの境目を見つけたのか!?」
↑の青年が即座に振り返り、椅子から身を乗り出す。
「ああ。2142より後が生存域だ。それより奥には、崩壊したユートピアは存在しない」
そう言って、彼は自慢げに親指を立てた。
いつもなら呆れられる仕草だが、今日は違った。
「やったね! メルト、ナイス〜!」
♡の少女が嬉しそうに声を弾ませる。
どうやら♢の青年の名はメルトらしい。
「本当によくやった。これで一歩前進だな」
↑の青年も、素直に称賛を送った。
「いや、最初に異常に気づいたのはカイだろ。
カイがいなければ、被害はもっと広がっていた」
メルトはそう言って、↑の青年を見る。
彼の名はカイというらしい。
カイは一瞬だけ照れたように視線を逸らし、軽く息を吐いてから冷静さを取り戻した。
「境目より先に崩壊例がないなら、時間の問題だね。
ミラは崩壊済みユートピアの住民感情を安定させて。
カイは、生存ユートピアの時間を止めて」
的確に指示を出したのは✝︎の少女だった。
ミラと呼ばれた♡の少女は、両手を器のように合わせる。
すると、黒い光の球がその中に浮かび上がった。
「……やっぱり、混乱してるみたいだね」
黒は混乱や恐怖の象徴なのだろう。
ミラは状況を即座に理解し、指先を動かして光を赤色へと変化させた。
「これで、ひとまずは落ち着くかな?」
カイは懐から時計を取り出した。
「Beyond2142、時封」
命令のようなことを言いボタンを押す。
カチッという乾いた音が、静かな塔の中に響いた。
「うん。時は止めたよ。これで進行は抑えられるはずだ」
「的確な指示を、ありがとう。エリス」
✝︎の少女はエリスという名らしい。
彼女は褒め言葉にも表情を変えず、こっくりと静かに頷いた。
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