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日付が変わって午前二時
オフィスビルには、冷たい空調の音と、僕たちの疲れ切った足音だけが響いていた。
「……やっと終わったな。今週はもう勘弁してほしいよ」
高橋が重い溜息をつきながら、エレベーターのボタンを押す。
金属的な『チーン』という音が響き、扉が開いた。
中には先に乗り込んでいた鈴木と伊藤が、生気のない顔でスマホを眺めている。
僕───佐藤は、最後尾でエレベーターに乗り込んだ。
狭い密室に、4人分の湿った体臭と香水の匂いが混ざり合う。
ボタンが押される。
表示パネルの「12」が淡く光り、エレベーターが緩やかに動き出した。
「……ん?」
違和感は、急激な減速と共に訪れた。
通常なら一階まで止まらずに降りるはずだ。
しかし、エレベーターは明らかに加速を止め、ガクンと強い衝撃を伴って停止した。
「おい、どうしたんだよ」
伊藤が苛立たしげに「1」のボタンを連打する。
しかし、無反応だ。
表示パネルのデジタル数字が、チカチカと不規則に明滅している。
「……13?」
鈴木の小さな呟きに、全員の視線がパネルに集まった。
そこには、赤く点灯した「13」という数字があった。
このビルは地上12階建てだ。
屋上へは階段で行くしかないはずなのに。
重い金属音とともに、扉が開いた。
外の光景を見て、僕は息を呑んだ。
そこにあったのは、無機質なオフィスの廊下ではなかった。
壁紙は剥がれ落ち、湿ったカビの臭いが鼻を突く。
どこか昭和の古い病院を彷彿とさせる
暗く長い廊下。
天井の蛍光灯が、断続的に激しく明滅している。
「ここ、どこだ……?」
高橋が震える足で一歩踏み出そうとした、その時だった。
廊下の先、どこにあるのかわからないスピーカーから、耳障りなノイズが響き渡った。
続いて聞こえてきたのは、機械的に加工されたような、不気味なほど平坦な声だった。
『……ようこそ。罪深き者たちよ』
エレベーターの扉が、背後でゆっくりと、しかし逃げ場を塞ぐように閉まり始めた。
「待て、待てよ! 閉まるな!」
伊藤が必死に扉をこじ開けようとするが、鋼鉄の壁は微動だにしない。
スピーカーの声が、今度は僕たちの脳内に直接響くような音量で叫んだ。
『───過去の罪を告白した者から順に、降ろしてやる』
閉まり切る直前の隙間から、暗闇の廊下を覗き込む。
そこには、見たこともない無数の『影』が、僕たちを獲物のように見つめていた。