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───時は遡り、ルナとアイリスが街へと到着したときのことである。
ルナと共にオリブの街へと戻ってきたアイリスは冒険者ギルドのギルド長へとオルタナたちの現状を伝えるべく急いで彼を探していた。
するとルナが市壁付近で冒険者や兵士たちの指揮を執っていた彼を発見し、二人ですぐにそちらへと向かって飛んでいく。
「ぎ、ギルド長!!」
「ルナと…お、王女殿下!?どうしてこちらに?!オルタナや騎士団長はどうされたのですか?!」
「実は…」
アイリスたちだけで行動していることに疑問を抱いていたギルド長だったが、オルタナとアレグの状況、そして禁魔獣のことをルナが彼に伝えると次第に顔を青ざめていった。
「ま、まさか…あの謎の魔物が昔の勇者と賢者が倒したとされる魔物と同じものだとはにわかには信じがたいな。だが王女殿下と一緒に居ない現状を見てもオルタナが苦戦しているというのは本当の事なのだろうな」
「ですのでギルド長、オルタナ様の元へとすぐに増援を…」
「王女殿下、大変申し訳ありませんがオルタナが苦戦する相手となると応援に行ける者などここには誰もおりません。例え今ここにいるSランク冒険者たちを全員送ったとしても力になるばかりか足手纏いにしかならないでしょう」
「そ、そんな…?!」
アイリスは思わずギルド長の言葉に耳を疑った。
まさかオルタナを助けることを断られるとは思ってもみなかったのである。
しかしよく考えて見てみればギルド長の言う通りである。SSランク冒険者であるあのオルタナでさえ苦戦し、アイリスたちを守り切る余裕がなく逃がした相手に他の冒険者が敵うはずがなかった。
下手に援護に行って足手纏いになっては余計な犠牲者が増えるだけである。
そのことは心配や不安に心を支配されている状態のアイリスであっても理解することは出来ていた。一方のルナもアイリス以上にオルタナを助けることが出来る戦力がここにはないということを重々理解できており、何も言うことが出来なくなっていた。
「我ら警備兵も冒険者と同じく助けにはならんだろう。とりあえず我々の出来ることは、第一に住民の安全を確保することだ。おい、今すぐ領主様に伝令を!そして今すぐ動ける兵士たちをここに集めさせるんだ」
「はっ!直ちに!!」
すぐ隣で彼女たちの話を聞いていた警備兵隊長の命令と共にすぐそばにいた兵士がすぐに動ける状態の兵士たちを呼びに走り去っていった。
そうして数分後、十数人の兵士たちが警備兵隊長の元へと集められた。彼らは領主への伝令と街の住人の避難の準備を命令されてすぐに行動へと移す。
「では、王女殿下も危険ですから領主様の屋敷に向かいましょう」
「いえ、私はここでオルタナ様とアレグの帰りを待ちます。私は二人を信じたいですから」
「ですが…」
「それに私にはルナ様という頼もしい護衛がいますので大丈夫です。ね、ルナ様?」
「は、はいっ!!全力で護衛させていただきます!!」
ルナはアイリスの期待の眼差しに背筋が一直線にピンッと伸び、返事をする声が少し裏返ってしまった。少し頼りなさげな返事にはなってしまったが、今はいつも頼りっぱなしであるオルタナがいない分、自分が頑張らなければとルナは気持ちを引き締める。
アイリスにそれ以上何も言うことが出来なかった警備兵隊長は少し不服そうな顔をしながらも「分かりました」と小さく呟き、彼女に敬礼をして街の中へと入っていった。
「オルタナ様、アレグ。どうか…どうか無事に帰ってきてください」
アイリスはオルタナたちがいる森の方向をじっと見つめて祈りを捧げる。その様子を見たルナも同じ方向を見つめて強敵と戦っているオルタナに想いを馳せる。
するとアイリスが祈りを終えて目を開けると何やら森の方から何かが飛んでくるのが見えた。彼女はまさかオルタナたちが戻ってきたのかと少し笑顔になりかけるが、近づいてくるものがオルタナではないことに気づいた瞬間彼女たちに緊張が走る。
「あれって…敵ではないですよね?」
「あれは…ゴーレム?!飛行魔法を使っているということはオルタナさんのゴーレムだと思います!!ですが、ゴーレムが抱えているのって…」
「……あ、アレグ!!!」
どんどん近づいてくるゴーレムをよく見てみると、血だらけになってボロボロな騎士団長アレグを抱えていることが分かった。
その様子にルナもギルド長も気づき、急いでゴーレムが飛んでくる方向へと向かってアイリスたちは向かい始めた。
「アレグ!!!アレグ!!!」
ついに彼女たちの元へと到着したゴーレムは優しく騎士団長を下ろして仰向けにして寝かせると、その直後に一瞬にして岩石の山となって消えていった。
ゴーレムより騎士団長を渡されたアイリスはすぐに回復魔法をかけようとするが、彼女が使える回復魔法では治せないほど騎士団長は重症を負っていた。
「王女様!代わります!!」
「ルナ様…!お願いします!!!どうかアレグを…」
アイリスの後に続いて駆けつけたルナがすぐに騎士団長に回復魔法をかけ始める。ルナはすぐに騎士団長の傷の様子から少しだけ回復が施されていることに気づき、オルタナが騎士団長の傷を満足に回復すら出来ないほどに切羽詰まっているのだと理解した。
「ルナ、他にも回復魔法が使える者を連れて来た。最低限の治療が終わればその者たちに交代して君は王女殿下の護衛に努めるんだ」
「分かりました!頑張ります!!」
そのまま必死に騎士団長に回復魔法を使い続け、数分後にようやくルナは何とか彼を死の淵から救い出すことに成功した。そうして彼への治療はギルド長が連れて来た医療チームに任せることになった。
「ルナ様、本当にありがとうございます。あなたがいなければアレグは今頃…」
「いえ、オルタナさんがすぐに少しだけ治療をしていたのと急いでゴーレムを使ってここまで運んできてくれたからこそ騎士団長さんは助かったのだと思います。ですが気がかりなのは、あのオルタナさんが騎士団長を完全に治療せずに私たちの元へと送り届けたことですね…」
「まさか、オルタナ様は治療すら出来ない状態なのでしょうか?!」
「分かりませんが、もしかしたらそうかもしれません。普段ならあの傷でも完全に回復できるはずなのに…」
二人はオルタナがもしかしたら非常に不味い状況下に陥っているのではないかと不安が徐々に湧き上がっていった。騎士団長のあのような姿を見てしまっては嫌な想像が尽きなくなってしまったアイリスは居てもたってもいられなくなってしまった。
「ルナ様!私、オルタナ様のところに行きます!!!」
「王女様ダメです!!危ないですよ!!」
「ですが、アレグがあのような状態になるような相手とオルタナ様は今たった一人で戦っているのですよ!?もしオルタナ様に何かあっては…!!」
「待ってください、王女様!!!」
するとアイリスはルナの反対を押し切って飛行魔法で勢いよくその場を飛び去った。慌ててルナも彼女の後を追うために飛行魔法を発動させてその場から飛び立つ。
「…マジか」
そんな二人の姿を見ていたギルド長は何も言葉にすることが出来ずただただその場に佇んで彼女たちが飛んでいくのを見ていくしか出来なかった。
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「王女様!待ってください!!!」
「止めないでください、ルナ様!」
オルタナのいる方へと飛び続けているアイリスを必死に呼び止めようと後を追うルナ。二人の飛行速度は共に同じぐらいでルナがアイリスに追いつこうとスピードを限界まで上げるが二人の距離は全く縮まらない。
ルナは彼女を止めることは出来ないと悟り、呼びかける言葉を変えた。
「王女様!!私も共に戦います!!なのでお一人で先に行かないでください!!!」
「る、ルナ様…!!」
呼び止めるのではなく共に行くことを誓ったルナに嬉しそうな表情で振り返るアイリス。そうして二人は横並びになって一緒にオルタナの元へと向かっていった。
そしてしばらく飛んでいると遠くの森の中から激しい戦闘音が聞こえてくる場所が彼女たちの視界に入ってきた。二人はあの場所でまだオルタナは戦っているのだと分かり少し安堵した。
そのまま二人は彼の元へと一気に飛ばして進んでいった。
「「メガフレア!!!」」
二人は禁魔獣の姿を射程圏内に捉えると同時に火属性の中級魔法を発動し、攻撃を仕掛けた。完全に不意を突く形となって二人の攻撃は禁魔獣に直撃することに成功した。
「オルタナさん!」
「オルタナ様!!!」
着地をした二人は急いでオルタナの元へと駆け寄る。そんなオルタナは今までに見たことがない位にボロボロになっており、禁魔獣のとんでもない強さが窺い知れる。
「な、何で戻ってきたんだ!!」
「す、すみません…」
「申し訳ありません…ですが、アレグがあのような状態になって街に戻ってきたのを見てしまってはオルタナ様はどうなってしまったのかと心配せずにはいられないではないですか!!!」
オルタナに怒られ謝るが、アイリスはそんなことは承知の上だと堅い意志で言葉を投げかける。
そしてルナは傷の治療をしようとオルタナの近くへとさらに寄ってみると、彼の傷口であろう箇所には血も何もついておらず、よく見てみると彼の身体は人のそれとは違うようであった。
「お、オルタナさん…これって、ゴーレム?!」
「えっ、オルタナ様…?!一体どういう…?!」
「…ええ、私の身体は特製のゴーレムです。本体ではありません。今まで黙っていてすみません。ですが今はそのことについて話している場合ではありません!すぐに街に戻ってください!!!」
「で、ですがオルタナ様もボロボロに…」
「ルナ!全力で王女殿下を連れて街へ帰るんだ!!!」
オルタナから衝撃の告白があったが、そのことを詳しく聞けるような状況であるはずがなく、ルナとアイリスの魔法を受けてもピンピンしている禁魔獣がこちらへと迫ってきていた。
それもオルタナではなく新たにやってきたルナとアイリスの二人をターゲットに変更しており、そのことを理解した二人は頭の中に死の予感が流れていた。
「キエエエエエエ!!!!」
「くそっ!!」
オルタナはすぐに禁魔獣と二人の間に入って風魔法で彼女たちを後方へと大きく吹き飛ばした。その直後、そんな二人の目に飛び込んできたのは禁魔獣の拳によって防御したオルタナの両腕が粉々にされる様子だった。
「オルタナさん!」
「オルタナ様!!!」
そのまま大きく吹き飛ばされたオルタナの様子を見て二人は助けに行こうとするが、彼女たちの元へと再び禁魔獣が迫ってきていることに気づき身動きが取れなくなる。
「はああああ!!!」
「キエエエエエエ!!!!!」
オルタナは何とか彼女たちの元へとやってきて魔法障壁を展開し、禁魔獣の強烈な一撃を防御しようとする。しかし何重にも張られた魔法障壁をまるで紙のように一瞬で何枚も破壊していく。
オルタナは追加で何枚も魔法障壁を展開するがその全てを破壊しつくされ、ついには禁魔獣の拳がオルタナの胴体を貫くことになった。
「キエエエエエエ!!!!!!!」
「がっ?!」
「きゃあああああ!!!オルタナ様!!!!」
「お、オルタナさん!!!!」
「に、げろ…はやく…にげ…」
目の前でただのガラクタと化したオルタナの身体が無慈悲にも放り投げ捨てられ、再び禁魔獣の標的が彼女たちへと移った。
「ファイアボール!!」
ルナは何としてもアイリスを守ろうと彼女の前に出て必死に禁魔獣へと攻撃を撃ち続けるが、そんな攻撃に何も反応することなくそのまま近づいてくる。
「キエエエエエエ!!!!!」
「きゃああああ!!!」
何とか禁魔獣の攻撃を防ごうとルナとアイリスが共に魔法障壁を展開するが呆気なく壊され、その衝撃波で大きく吹き飛ばされる二人。
二人とも地面に強く叩きつけられ、衝撃波によるダメージも相まってともに動けるような状態ではなくなった。
「キエエ!!キエエ!!!」
「お、王女様…」
ルナは必至に痛む身体を動かして何としてもアイリスを守ろうと立ち上がる。そんな様子に禁魔獣は大きな口をニヤッとさせる。
(オルタナさん、ごめんなさい…私、もう…)
死を覚悟したルナの元に不気味な笑みを浮かべながら禁魔獣がやってくる。そしてアイリスを庇うルナに禁魔獣の無慈悲な一撃が繰り出された。