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ライラ からぴち・シクフォニ♡
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「ちょ、待って。やっぱおかしいって」
「なんで? 最初にキスしたのはともやでしょ?」
「ムリッ!!!」
きしむベッドの音とともに押し倒されそうになり、俺は必死にりゅうせいの肩を突き放した。狭い部屋に、気まずい空気が張り詰める。
「……ともやって経験ないの? 何がそんなに嫌なの?」
俺の初体験は高一の時だ。一目惚れしたと話す先輩に体育倉庫に連れられ、意味もわからず流されるままだったのが最初。
それ以降の経験は、皆無に等しい。好きな女の子といい雰囲気になっても、いざという肝心なところで、俺の体は冷え切ったように反応しなくなる。だからもう、諦めていた。
「……だって、今日こんなことされるなんて思わないじゃん。俺の全部がびっくりしてんだよ」
「……やっぱともやはかわいいね」
そう言って、りゅうせいはふわりと目を細めると、力が抜けたようにベッドの淵へ腰を下ろした。棚に手を伸ばし、何事もなかったかのように漫画を読み始めるその後ろ姿に、さっきまでの緊張感が、まるで嘘みたいに消えていく。
「……りゅうせいは、俺のこと好きなの?」
「ん? 好きだよ。あほだし可愛いし」
「そういうことじゃなくてさ。もっとこう、心が熱くなって、どうしようもなくなる感じでさ」
「熱くなってぇ~?」
キャハハと無邪気に笑いながら、りゅうせいは袋から出したおせんべいをパリッと噛み砕く。その気の抜けた音を聞いて、俺の心臓はさっきの動揺が冷めやらぬまま、別の意味で波打った。本当に、こいつのペースには敵わない。
「……もういいよ。りゅうせいとまともな話ができると思った俺がアホだった」
「えー、俺はともやと波長が合うと思ってたよ! 女の子の好みだって一緒だし」
「……だったら、なんで俺とキスしようとしてんだよ!!」
りゅうせいとしょうもない話をしている時も、さやちゃんと3人で笑っている時も、めちゃくちゃ楽しい。誰も最後の一歩を踏み込まない絶妙な距離感。そういう「男としての自信」を持てない俺にとっては、これが一番心地いい場所だったはずなのに。
「だってともや、さやちゃんといる時めっちゃ幸せそうじゃん? そしたらその顔で、俺にも話しかけてくるでしょ? じゃあ、俺っちも『ともや可愛いなぁ』ってなるじゃん」
「いや、なんねぇよ。俺はりゅうせいのことそんな風に思ったことないしな」
「……俺にキスしたじゃん」
「だから! あれは若気の至りだよ! 今とは違うじゃん」
「えっ?! ともや、ああいう空気全然余裕なの? 全くドキドキしなかったの?」
「確認させてよ」と、りゅうせいの手が迷いなく俺の膝から太ももへと伸びてくる。嫌だ、そんなの反応してたら、逆にヤバいんだって! どのに好きな女の子の前でも、沈黙を貫いてきたんだから。
「……全然じゃん。拍子抜けなんだけど。俺っちは全然おっけーなんだけどなぁ」
無造作に確かめられ、りゅうせいが心底おかしそうに肩を揺らす。
……セーフ、なのか? 俺のプライドはもう、見る影もなく粉々だが。
「……正直、俺は役立たずだ。だから、俺にそういう目を向けるのは無意味だ。わかったか? りゅうせい、俺たちは友――」
「まぁ役割なんて、どっちがどっちでもいいっしょ」
おいおいおいおい! しれっとその綺麗な顔で絶望的なこと抜かすなよ!
どう見ても逆だろうが。こんなイカつい格好してる俺が、なんで女より細くて綺麗なツラしたお前に組み敷かれなきゃいけねぇんだ。
「りゅうせい、無理に押し倒したら犯罪だからな? ほんとにやったら捕まるからな!」
「え~、ともやってそんな感じなの? もっと楽しく行こうよぉ」
へらへら笑って、自分の生き方押し付けてくんじゃねぇ。俺はダメなんだって、強引に来られるのは。……あの体育倉庫のせいで、恐怖が刷り込まれてんだから。
「とりあえず、今日のことは無かったことにしとくから。誰にも言うなよ」
「……へ~い」
漫画のページをめくりながら、気の抜けた返事が返ってくる。こいつ、本当にわかってんのか。
♢♢♢
月曜日。
朝から仲良しカップルが、にこにこしながら話しかけてきた。
「ともやとりゅうせい、金曜なんで来なかったの?」
「2人で遊んでたの?」
これは上手に嘘をつかないと。……いや、嘘をつくも何もやましいことなんて何もない。元々はさやちゃんに用事ができて、暇になったりゅうせいが「家でダラダラしたい」って言うから、俺の部屋に来ただけだ。
「うん、ちゅーしてた」
「してねぇって!!!!!」
間髪入れずに答えたりゅうせいの肩を掴み、思わず絶叫してしまった。ダメだ、隠しきれない。
「おいおいともや、やっぱりかよ」
「……そんな気はしてたけどね。2人、お似合いだし」
やめてくれ! 「あーあ、あの流れでやっぱりくっついちゃった? やれやれ」みたいなBL脳全開の顔で見るのはやめろ!
「違うんだ、ちょっと聞いて。いっちゃんなら俺の事信じてくれるよね?」
「……俺も信じるよ、ともやのこと」
いっちゃんの半信半疑な鋭い眼光より、今はいつきくんのその垂れ目の優しい笑顔が救いだ。
「……俺っちも信じてる、ともやのこと」
「うるせぇお前は黙っとけ!」
「やだ、ともやめっちゃこわいじゃん」
いつきくんにしがみついて、怯えたフリすんじゃねえ。絶対背中でニヤニヤ笑ってるだろ。俺はお前のほうがよっぽど怖いわ。
とりあえず、ゆうたの所にいたしゅうとにりゅうせいを預け、2人を引き離すように連れて行く。
「何? 珍しいじゃん。2人、仲よかったよね?」
いつきくんの無邪気な問いかけが、今の俺には一番痛かった。