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ライラ からぴち・シクフォニ♡
20
「……ほんと、何があったか知らないけど、あの言い方はダメだと思うよ。あんな感じだけど、りゅうせいって意外とビビりだからね。今頃、どっかで泣いてるかも」
「え、そうなの?」
いっちゃんの言葉に、俺は我に帰る。
「覚えてない? 小学生の時、チームの何人かで夏休みにお化け屋敷行ったじゃん。あん時、りゅうせいが迷子になったんだよ。探しに行ったらさ、腰抜かしたあいつのこと、お化け役の人が介抱してたんだから」
「……ほんと、あれは伝説だよね」
二人がケラケラと笑う横で、俺は笑っている場合じゃなくなった。あんなに飄々としていても、中身はあの時のままなのかもしれない。
「ちょっと、やっぱ行ってくるわ。俺、りゅうせいに謝ってくる」
「うん、それがいいと思う。それでこそともやだよ」
やっと俺に向けて笑ってくれたいっちゃんと、相変わらずおっとり笑っているいつきくんを置いて、俺はりゅうせいの元へ急いだ。
あいつだってモテないわけじゃない。彼女だって何人もいたはずだし、今だって選び放題だ。女子たちがあの美しさに気圧されて遠巻きにしているだけで。そんなあいつが、俺にあんな真似をしたのには、それなりの理由があるはずなんだ。
「……あれ? りゅうせいは?」
一時間目のチャイムが鳴る直前、教室にりゅうせいの姿はなかった。
「お腹痛くなっちゃったから帰るってさ。今行ったから、まだ追いつくんじゃない?」
「そうか、サンキュー、ゆうた!」
自分の鞄をひったくるように掴み、猛ダッシュで階段を駆け降りる。先生に早退を伝えるのを忘れたが、まあいい。こういう時は、いっちゃんが上手くやってくれるはずだ。
「ちょっと待って、りゅうせい!」
昇降口の陰、スニーカーを前にして力なく座り込んでいる背中を見つけ、俺は肩で息をしながら駆け寄った。
「……どうしたの? もう授業始まるよ?」
「……お腹痛くて早退するって聞いて。家まで送るよ」
「……いいよ。さっき保健室で薬もらったから、すぐ治るし」
「そんなん、いつ効くかわかんないだろ。途中で倒れたらどうすんだよ」
俺は急いで靴を履き替えると、りゅうせいの前に背中を向けて屈み込んだ。「ん」と促すが、一向に背中に重みを感じる気配はない。
「……おんぶしてやるから。乗れよ」
もう一度、腕を後ろに回して催促する。すると、背後からクスクスとりゅうせいの忍び笑いが聞こえた。
「……ともやは、変わんないね」
「ん?」
「……俺、もう180センチあるんだけど」
「俺だって同じくらいあるわ。いいから乗れ」
「……体重も、重くなったよ?」
「どう見ても俺の方が重いだろ。……ほら、乗れって!」
「……まぁ、しょうがないなぁ」
これは俺の粘り勝ちだ。あいつの腹痛は、間違いなく俺の拒絶が原因で精神的にきたものだろう。男として、友を見捨てるのは一生の恥だ。
慣れ親しんだ幼馴染の重みを背中に感じながら、俺は一歩を踏み出した。
「……ねぇ、ともやぁ。なんで俺のこと『りゅせ』って呼ばなくなったの?」
校門を出るまで一言も発さなかったりゅうせいが、背中の後ろでポツリと呟いた。
そんなこと、と言いかけて言葉が詰まる。呼び方を変えた理由。そんなの……忘れるわけがない。
「……一緒にいなくなったからじゃない? 俺、いっちゃんにべったりだったし」
「……じゃあ、なんで俺と一緒にいなくなったの?」
「……それは」
答えなんて、一つしかない。
中学の卒業旅行。俺の気まぐれでしてしまったキスが恥ずかしすぎて、どうしていいか分からず、俺はりゅうせいから逃げたんだ。
「……ごめんなさい。俺、昨日のりゅうせいと同じようなことしてたわ」
許可も取らずに勝手にキスをして、自分の欲を満たして、謝りもせずに逃げた。りゅうせいにだって好きな人がいたかもしれない。初めては自分で選びたかったかもしれないのに。……ほんと、最低だ、俺。
「……別に、怒ってないからいいよ。前も言ったじゃん。嬉しかったって」
最後の一言を、りゅうせいはあまりにも恥ずかしそうにむにゅむにゅと喋る。そのギャップに、俺は思わず吹き出してしまった。
「……ねぇ。りゅうせいは、俺のこと、好きなの?」
昨日ははぐらかされたけど、もし本気なら、俺も本気で向き合わないといけない。
期待と不安が混ざった俺の問いに、背中のあいつはケロッと言い放った。
「……ううん、好きじゃない。けど、ともやには興味がある」
「はぁ!? やっぱそうなのかよ!」
結局、俺をおちょくってただけじゃん! 俺、今のめちゃくちゃ真面目なトーン損したじゃん!
思わずおぶっていた手を離して振り返ると、りゅうせいは綺麗に地面に着地して、楽しそうに肩を揺らしていた。
「ねぇ、お腹治った。今から休憩しに行く?」
「ばっか! 行かねぇよ! 俺は意地でもお前をおばさんの所に送り届けるからな!」
「え~!! ともや真面目すぎぃ」
「真面目とかの問題じゃねぇだろ!」
本当に、こいつと喋っていると調子が狂う。あんなに心地よかった友達関係が、指の間からこぼれ落ちていく感覚がする。
「じゃあさ、また『りゅせ』って呼んでよ。そしたら、もういっちゃんたちの前で変なこと言わない。ちゅうも我慢する」
「……ほんとに? それだけでいいの?」
「うん。俺、またともやとあの時みたいに仲良くしたい」
そんなに目をキラキラさせて言われると、断れるはずがない。その呼び方に何の価値があるのかは分からないが、それで元に戻れるなら安いものだ。
「……りゅせ。おぶってやるから、今日は帰ってちゃんと寝てろよ。いいな?」
「はぁい」
しおらしく返事をすると、ぴょん、と背中に飛び乗ってきた。俺が深く屈まなくても乗れるあたり、やっぱりこいつはデカい。
「……ともや、いい匂いするぅ」
首筋に吐息がかかる。耳の裏が熱い。
元に戻ると約束したはずなのに、りゅうせいの腕がさっきより強く俺の首に回された気がして、誤魔化すように言葉を繋げた。
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