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ひとしきりレイブランとヤタールの飛行を見て満足したので、地上に降りることにした。彼女達も私の元に降りてくる。
2羽とも肩に止まってきてくれたので、感謝を伝えて撫でておこう。ふわふわで温かい。幸せ。
「レイブラン、ヤタール、ありがとう。おかげで速く、自在に飛ぶにはどうすればいいかが分かったよ」
〈役に立ったのなら良かったわ!〉〈撫でられると気持ちいいのよ!〉
翼の動かし方は大体分かった。では、次は問題の翼指の検証だ。
この形状は、明らかに何かを放出できそうな形状をしている。そういえば、私が雨雲を消し飛ばすために口からエネルギーを放出したら、かなりの反動が生じたな。
ちょっと相談してみよう。
「今思いついたのだけど、皆は例の雨雲を打ち消した時の光は覚えてる?」
〈勿論よ!そんなに前のことじゃないもの!〉〈凄かったのよ!怖かったけど綺麗だったのよ!〉
〈凄まじい威力だったのは記憶に新しいが、それが翼に関係があるのか?〉
〈姫様、まさかとは思いますが、その翼から…〉
「ラビック、正解だ。どうもこの翼は力を放出するのに適した形をしていてね?あの時放った力の奔流を翼から放出すれば、かなりの推進力を得られると思ったんだ」
〈……主よ、分かっていると思うが、絶対にやらないでくれよ?おそらく、一晩で森が無くなる〉
分かっているとも。そもそもそれは、現状私が思いつく限りのほぼ最大級の破壊をもたらす行動だ。自分のエネルギーをより理解できるようになった今、分かってしまう。
できてしまうのだ。口と翼の計七ヶ所から、あの時のエネルギーの奔流を一斉に照射できることが。
ホーディは一晩と控えめに言っていたが、多分、そんなに掛からない。高速移動しながら”アレ”を六方向にまき散らすとか、一呼吸分行うだけでもこの広場の十倍以上の更地ができあがる気がする。
「勿論、やるつもりは無いよ。ただ、この翼から”アレ”よりも威力がずっと低くてかつ強い反動を得られる事象ならば、どうだろう?」
〈レイブラン達の『風爆』のようなものか?〉
「うん。とは言え、『風爆』では私が望むほどの推力は得られないだろうね。私が望むのは、連続した推進力でね?瞬間的な事象である『風爆』は向いていないと思うんだ」
〈それなら適した事象の図形を作りましょ!どうせなら『風爆』よりも凄いのを作りましょ!〉〈新しい図形を作るのよ!風だけに頼る必要は無いのよ!〉
私が要望を伝えると、嬉々としてレイブランとヤタールが提案を出してきた。
全面的に賛成だ。私達には既にそれを行えるだけの”意味を持った形”を知っているのだ。だが、図形ができたからと言って、直ぐに実行できるわけではないだろう。
「少なくとも、同時に六つの事象を発生させ続ける必要があるね。羽ばたきのための事象のことを考えると、余裕をもって10の事象を同時に扱えるようになっておきたいかな?」
〈…おひいさま。一応、申し上げておきますが…。儂等が事象を起こすことに集中しても、同時に起こせる事象は5つが限界で御座います…〉
私が翼の機能を十全に扱い、自在に飛行をするための計画を語ると、ゴドファンスから待ったが掛かった。
なんてこった。今、私が同時に扱える事象の数が3つだから、同時に10の事象を発生させるのはだいぶ先の話になりそうだ。それとも、現実的ではないのだろうか?
いや、私は意識を覚醒させてからまだ50日にも満たない。それに皆が言うには、私の上達速度はドン引きするほど異常なのだ。できると信じて修業を続けよう。今は無理でも、いつかは届くはずだ。
そもそも、エネルギーを放出するだけなら、問題無くできると思うのだ。
今は検証の時間なのだから、試さないことには始まらない。
「今できない理想を語るよりも、今できることを検証してみよう。力を加減した状態で翼指から圧力をかけて放出、つまりは噴射してみようと思うよ。」
〈主よ、大丈夫なのか?〉
「多分だけど、この翼指は元から何かを放出することで推進力を生み出すための器官だと思うんだ。私のこの予測が正しければ、ほんの少しの消費でそれなりの推進力を得られると思う。それでも念のために、上空で行うことにするよ」
そう皆に伝えて、その場で垂直に飛び上がる。ある程度上昇したところで、今度は水色のエネルギーで『風爆』を上向きに発動させる。生じた風を、翼を羽ばたかせることで受け止め、身体を跳ね上げたのだ。
それだけで私の体は全力で足で跳ぶよりも速く、高く上昇することができた。だが、本番はこれからだ。
翼にエネルギーを送り、翼指の付け根、第二関節の場所でエネルギーをため込む。
軽く(大体鰭剣《きけん》サイズの光の剣を作るのと同じぐらいのエネルギー)、六つの翼指の先端から一呼吸分、私の真後ろへ向けて噴射してみると、噴射している間は、地面を走るのと同じくらいの速度で前進できた。
良い感じだ。一呼吸分でこれなのだ。今度はエネルギーを噴射し続けてみよう。
結果は上々だ。エネルギーを噴射し続けている間はやや直線的な動きになるが、噴射による高速飛行が可能だ。翼の向きを変えることで急停止やホバリング、あらゆる方向への急激な方向転換すら行えた。尋常ではない機動力だ。
ちなみに、それだけの速度で移動していても私の眼には何の影響も無かった。風はもちろん、空気中の僅かな塵や水分が何度も当たっているにも関わらず、だ。本当に、知れば知るほど冗談みたいな存在だよ、私は。
それはそれとして、だ。
正直、とても楽しい。夢中になって日が沈むまで森の上空を飛び回り続けた。そのおかげで、私はこの時になってようやく森の全域を確認できたのだ。
子の翼、実に有用な器官だ。これならば翼指に事象を用いなくとも、十分なのかもしれなかったが、そうはいかなかった。
欠点があるのだ。
まず、馬鹿みたいにエネルギーの消費量が多い。いや、このぐらいの消費エネルギーならば、1日中エネルギーを消費していようが、私は全く問題無いのだ。
だが、周囲はそうはいかない。エネルギーを噴射しているということは、辺り一面に私のエネルギーをまき散らしているということに他ならない。
何も知らない森の住民達からすれば、森の上空を正体不明の化け物が高速であちこちに移動していると捉えるだろう。
以前雨雲を消し飛ばした時も、膨大なエネルギーが森全体に伝わったことによって一時的にとはいえ、森の生態系が乱れてしまったのだそうだ。今回も私が好き勝手に森の上空全域を飛び回ったことで、再び森の生態系に乱れが生じてもなんら不思議はない。
そしてもう一つ。思った以上に噴射したエネルギーが遠くまで影響を及ぼすのだ。
噴射されたエネルギーは、おおよそ樹木二本分の距離まで勢いを失わずに放出されている。今はかなりの上空で使用しているからいいものの、これを森の中で行おうものなら、大災害待ったなしだ。
そんなわけで、不用意にエネルギー噴射による高速移動を行うのはやめておこう。一晩で森が無くなると言っていたホーディの言葉が現実味を帯びてきた。
辺りももう暗くなっているので家の近くに着陸するとしよう。律儀なことに、皆外で待っていてくれたようだ。待たせてしまって済まない。
「ただいま。それと、済まなかったね。自由に空を飛ぶのが楽しくてすっかり暗くなってしまった」
〈構いませんとも。おひいさまが楽しそうで何よりで御座います〉
〈主よ。問題無く飛行できたようだな〉
「実はそうでもなかったりするんだ」
〈凄く高い場所で飛んでいたのに、ノア様の力を感じられたよ。色々な所に飛び回っていたみたいだし、今頃森はまた騒ぎになっているかもしれないね〉
もう暗くなっているからか、ホーディ、ゴドファンス、フレミー以外は眠そうだ。エネルギーの噴射による弊害を説明しながら家の中に入ろう。私が説明する前に、問題の一つはフレミーも分かっていたみたいだ。
「…というわけで、純粋な力の噴射による高速移動はやらないようにしておくよ」
〈せっかく自由に飛べるようになったのに気の毒だわ〉〈明日は一緒に飛び回れると思ったから残念なのよ〉
〈ご主人のこと分かれば、あんまり怖くないんだけどなぁ…ぁふぅ〉
〈……ぷぅ……ぷぅ……〉
眠そうにしている子達は、あまり会話の内容が頭に入っていないようだ。
レイブランとヤタールのテンションは低いし、ウルミラはあくびをしている。二足歩行で家に入ってきたラビックに至っては、立ったままの状態で寝てしまっている。物凄く可愛い。抱きかかえて寝床へ連れて行こう。今日はもう寝るのだ。
今頃気づいたが、寝る時はこの翼、邪魔だ!背中でモフモフが堪能できない!?
まさか、寝る時になって、今日一番の一大事を知ることになるとは…。