テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「……中身をじっくり観察して、バラバラに分解してみたくなります……フフ」
夜の妖界の路地裏。紫色の月光を浴びながら淡々と言い放った星野りのに、遼太は背筋が寒くなるのを感じた。隣の慶介も、風の結界を構えたまま一歩も動かない。
「おい如月……。こいつ、マジで言ってるぞ。心の中のサイコパス度が昼間の図書室より跳ね上がってやがる」
「神代、油断するな。送り狼の追跡術は妖界でも一級品だ。敵に回せば厄介極まりない」
二人が身構えたその時、りのは手元のノートパソコンをパタンと閉じ、和装の袖からコロンと何かを取り出した。それは、人間の世界でもよく見かけるマカロンだった。りのはそれを物静かに口へ放り込み、美味しそうに咀嚼する。
「……安心してください。私は『西の残党』の味方ではありません。あいつら、虫の妖怪を平気で使役するし、ホラーみたいなおぞましい術を使うので、個人的にとても嫌いです」
りのは無表情のまま、少しだけ嫌そうに眉をひそめた。
「それに、辛いものも嫌いです。あいつらのアジト、なぜかいつも激辛の香辛料の匂いがするので近づきたくありません。……グミやアメを噛み砕く音も苦手です」
「嫌いなもののクセが強すぎるだろ」
遼太は思わずツッコミを入れた。りのはそんな遼太をじっと見つめ、静かに言葉を続ける。
「私はただ、面白い本や、パソコンのデータ、そしてあなたたちのような珍しい動物……あ、失礼、珍しい『覚(さとり)』の観察が好きなだけです。……もしよければ、私をお仲間に入れてくれませんか?」
「は? 仲間?」
今度は慶介が怪訝そうな声を上げた。
「俺たちは西の暗殺者や呪具の件で追われているんだぞ。お前みたいな物静かな奴がついてきて、何になる」
すると、りのは感情の読めない瞳をフッと細め、再びノートパソコンを開いてキーボードを高速で叩き始めた。
「私は送り狼です。私の後ろを歩く者は、いかなる妖であれ絶対に私を追い抜くことはできません。つまり、私を背後に配置しておけば、あなたたちは『絶対に後ろから襲撃されない』という、完璧な安全を手に入れられます」
タァン、とリターンキーが小気味よく鳴る。画面を見つめるりのの顔が、怪しく光った。
「それに、私は常盤木の図書室のパソコンから、人間の世界の防犯カメラのデータをハッキングできます。妖界の地理データも、すでにこの中にすべてマッピング済みです。……西の残党がどの路地裏に潜伏しているか、3秒で弾き出せますが……いりませんか?」
「「………………」」
遼太と慶介は顔を見合わせた。物静かで、甘いものが好きで、どこかサイコパス。けれど、その能力は情報戦においても戦闘においても、あまりにも破格だった。
「……神代、どうする」
「どうするって、断る理由がないだろ。後ろから刺されたらその時はその時だ」
「おい」
遼太は苦笑しながら、構えていた手を下ろした。そして、りのに向かって一歩踏み出す。
「わかったよ、星野。歓迎する。……ただし、俺たちの心を勝手に分解しようとするなよ?」
「約束はできませんが、努力します」
りのは淡々と答え、嬉しそうにまたポケットから別の甘いお菓子を取り出した。
「では、契約成立ということで。……霧谷くん、雨河くん。明日の図書室のシフト、一緒にサボって西の連中のアジトをハッキングしましょうね。フフ……」
学校では大人しい図書委員。夜は最強のレーダー。霧谷(神代)と雨河(如月)のイケメン覚コンビに、恐ろしくも心強い三人目の仲間・星野りのが加わり、1年2組の裏の戦いはさらに加速していくのだった――。
コメント
1件
星野りの、めちゃくちゃ良いキャラですね!昼間の図書委員の顔と夜のサイコパスっぷりのギャップが鮮やかで、一気に好きになりました。「後ろから襲撃されない」っていう能力の説明も具体的で、仲間になったときの説得力がありました。甘いもの好きでマカロン食べながらハッキングする姿に、もう絆されましたよ。遼太たちのツッコミも息ぴったりで、読みながらにやけてしまいました。次の戦いが楽しみです!
新庄 駿
182
#文芸アクション
大正
4,228
#主人公最強
ウサギ様
396