テラーノベル
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――翌朝、常盤木中学校、1年2組。
「今日から我がクラスに、もう一人編入生を紹介する」
担任のその言葉に、窓際の席に座る霧谷遼太は、頬杖をつきながらなんとなく黒板のほうを見やった。隣の列の雨河慶介も、どこかつまらなそうにシャーペンを回している。昨日からずっと、遼太の脳裏を悩ませていた不快な高音の耳鳴り
——東の神代と西の如月、二つの「覚(さとり)」が共鳴し合うあの「キィィン」というノイズは、今朝もまだ微かに頭の奥で燻っていた。「鮎川くんだ。入りなさい」ガラリと教室の扉が開く。入ってきたのは、どこか頼りなげな雰囲気を纏った小柄な少年だった。整った顔立ちはしているものの、緊張しているのか、教壇に上がる手前で自分の足をもつれさせ、
「あ、うわっととっ!?」
と、派手に教科書をぶちまけて床に突っ伏した。教室中にドッと笑い声が起きる。
「て、てへへ……すみません、緊張しちゃって。鮎川愁(あいかわ しゅう)です! 実家が神社で、お祓いの手伝いとかしてます。よろしくお願いします!」
頭をかきながら照れくさそうに笑うその姿は、絵に描いたようなドジっ子そのものだった。クラスの女子たちが「可愛い」と囁き合う中、遼太はぶちまけられた彼のノートの表紙に、奇妙な文字がマジックでびっしりと書かれているのを見逃さなかった。
『商標登録出願中:鮎川式退魔術第〇号』
(……なんだあいつ? 商標?)
遼太が眉をひそめた、その瞬間だった。ピタリ。昨日からずっと鳴り響いていた、あの頭の奥の「キィィン」というノイズが、まるで世界から音が消えたかのように完全に静まり返った。
(……止まった? ノイズが消えた……!?)
遼太はハッとして、隣の慶介を見た。慶介もまた、回していたシャーペンを止め、驚愕の目を見開いて教壇の鮎川愁を凝視している。お互いの能力の共鳴を、上から力技で押さえつけ、遮断した者がいる。ノイズが止んだ理由は、このクラスに、二人の覚(さとり)を遥かに凌駕する「異物」が入り込んできたからに他ならない。
「鮎川、お前の席は……霧谷の後ろだ」
「はい! よろしくお願いします!」
愁は笑顔でペコリとお辞儀をし、遼太の席の後ろへと歩いていく。そして、遼太の真後ろの席に腰掛け、クラス中が黒板を向いた、その一瞬の隙だった。
「……チッ。妖の気配が二つ。それに、昨日からうるさい電波を飛ばし合って……本当に目障りだな」
背後から聞こえてきたのは、先ほどのドジっ子とは似ても似つかない、芯まで凍りつくような冷酷な声だった。遼太が背筋を凍らせ、ゆっくりと振り返る。そこにいた鮎川愁は、もう笑っていなかった。光の一切消えた冷徹な瞳で、前の席の遼太と、斜め前の慶介を静かに見下ろしている。
「僕の特技はお祓いだ。実家の神社に伝わる秘術でね。……妖も、その力を悪用する奴らも、書類手続きの遅い特許庁の役人と同じくらい大嫌いなんだよ」
愁は机の下で、和紙で作られたお札(ふだ)を指に挟み、誰にも見えない速度で文字を刻んでいた。その指先から放たれる圧倒的な殺気と、静かな威圧感。こいつは、ただの神社の息子ではない。裏の世界で恐れられる、超天才暗殺者だ。
「西の残党が持っていた『禁忌の呪具』……あれには僕が個人的に狙っている、ある『利権』と商標権が絡んでいてね。それを泥棒猫みたいにかっさらった君たちのこと、絶対に許さないよ」
愁は冷ややかに微笑むと、すっと指先でお札を胸ポケットに隠した。
「……放課後、裏の雑居ビルだ。逃げたら君たちの『心(精神)』を先にバラバラにお祓いしてあげる。……ね、霧谷くん、雨河くん?」
チャイムが鳴り、1限目の授業が始まる。その様子を、数列離れた席から感情の読めない瞳で見つめる図書委員・星野りののノートパソコンの画面には、すでに『鮎川愁:危険度S』のアラートが静かに点滅していた。霧谷(神代)と雨河(如月)の覚コンビに、夜のレーダー星野りの。そこに現れた最凶の暗殺者・鮎川愁。1年2組の裏の戦いは、学校の日常を巻き込みながら、一気に加速していく――。
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新庄 駿
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#文芸アクション
大正
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コメント
1件
第六話、読み終えたよ……! 最初のドジっ子キャラから一転、裏の顔がバレた瞬間のゾクッとする感じ、めっちゃ好き。あの「キィィン」ってノイズがピタリと止んで、空気が一気に変わる演出が痺れた。愁くんの「目障りだな」の台詞、冷たくて最高…🥀 遼太と慶介、一気に追い詰められた感じがたまらない。次の雑居ビルの決闘、絶対読みたくなる引きだね!