テラーノベル
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…あの事件から半日ほど経った。
俺、花垣武道は、あの後の記憶がさっぱりない。
気づいたときには、もうすでにマイキーの隣で寝ていた。
立ち上がろうと体を起こす時、少しの頭痛に頭を押さえた。
「あ、起きた。」
マイキーはそう言うと、俺の頭を撫でて言った。
「昨日はたくさん泣いてたもんな。泣き止めさせるの大変だった。」
マイキーはベッドから立ち上がり、「水、取ってくるな。」と部屋を出た。
まだ、千冬の言葉が、声が、俺に”いるんだ”と錯覚させている。
千冬の冷たくなっていく肌の温度の感覚が、今でも残っていた。
マイキーはいたって普通に俺に接していた。
ずっと浮かない俺の顔を見ても、無言でその場を後にするだけだ。
ココくんやカクちゃんは心配してくれているようだけど、俺の今の気持ちを晴らせるほどじゃなかった。
柚葉さんにお願いして、千冬は世間一般では行方不明扱いになっている。
もう、亡くなっているとも知らずに、元東卍メンバーの数人は探し回っているだろう。
「本当に嫌だ…。」
俺は、耐えきれない心の重みに、そう小声でつぶやいた。
…襲撃があった場所は、すでに元通りになっていた。
皆そこに集まって、各々のやりたいことをしている。
数人は、自分の部屋やほかの場所にいるようだった。
「タケミっち。」
マイキーにそう言われて、俺は顔を上げる。
「口開けて。」
俺は指示通りに口を開けた。
その時、口の中に何かが入れこまれる。
「ン!ン”ッッ!」
俺は焦ってしゃべろうとするが、口いっぱいに何かを入れられたので声が出ない。
だけどこれ、普通においしい…。
ふわふわだし、クリームもある。
俺は頑張って口に入れられたものを食べ切った。
マイキーが少しだけ恥ずかしそうに言う。
「ロールケーキ。元気なさそうだったからどうすれば元気でるかなって。鶴蝶に聞いたらこれ作れって言われた。」
「マイキーさん、さらっと俺の案を潰さないでくれるかい?」
「黙れ斑目。」
「ア、ハイ。」
カクちゃんは「さすがにポテチは作れなかった…。」としゅんとしながら言った。
「いいよ、美味しかったし。すごいね。」
俺がそう言って笑いかけると、灰谷兄弟が言った。
「「笑った!!!」」
この後、カクちゃんが持ってきた人数分のロールケーキ(手作り)を食べながらいろいろ話を聞いた。
マイキーはカクちゃんと一緒にロールケーキを作ったらしく、俺の口の中に入れたのはマイキーの自信作だったそう。
そして、こんなドッキリじみた計画を組み立てたのが灰谷兄弟、「俺を元気づけさせたい」と言ったのは獅音くんとカクちゃんということも聞いた。
春千夜くんとモッチーくんはタイミング係、指示を仰ぐ役とも聞いた。
「もちろん、金は俺が出した」とココくんは自慢げに言った。
獅音くんが言う。
「実は俺、こっそり聞いちまったんだよ。マイキーとタケミチ、一緒にいれるのがもう残り少ないって。せっかくなら笑ってほしいし、幸せなまま別れてほしいから、外道?だけどこんな真似をした。」
珍しいだろ?と笑う獅音くんの顔は、いつも通りの意地悪そうな顔だった。
「俺も初めは反論したんだが、このことを知っちまったらしようにもしきれねぇなって。」
モッチーくんが言うと、蘭くんも「そうそう」と相槌を打っていた。
「で、まあ、こういうわけだ。」
ココくんは呆れているのか楽しかったからなのか少し笑いながら言った。
俺はみんなに言う。
「ありがと。俺、みんながいなかったら立ち直れなかったかも。千冬に怒られそうだなぁ…。「落ち込み過ぎだ!」って。」
俺は自分のメンタルの弱さに苦笑いした。
「でも、良かった。少し元気が戻ったなら。」
マイキーは付け足して「俺はこんなんだから。もう元気があったもんじゃない。」と言った。
そのあと、春千夜くんが大声で「俺がボスの分まで元気でいます!」と言ったのが発端で、いつもよりも騒がしい昼下がりになっていった。
…少しの現実逃避は、許してくれるよね、千冬。
俺はそう思って、マイキーたちの会話に混じっていった。
マイキー殺害まで あと 12日
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