うっうっ・・・・
「どうしてこんなことになってしまったの・・・」
くるみは泣きながらポケットからピンクの紙の『ハワイに行ったらやりたいことリスト』を取り出した
グスン・・・「ああ・・・今日で最終日だというのに、このリストの半分も出来てないなんて・・・」
それもこれも、みんな由紀さんと慎吾さんが悪いのよ!!あの二人のおかげで全然二人っきりになれなかったわ
もう絶対今後あの二人には関わらないっっ!
海の彼方から吹きつける風は、くるみの気持ちを高揚させた、今夜の計画は絶対成功させて見せる!
くるみはバルコニーの一角に置かれたラブシートに腰掛け、海と太陽を眺めながら、今日一日の計画を立て始めた
朝食は素敵なオープンカフェで、昼間はビーチで過ごして・・・・彼にビキニも見てもらって・・・
そして夕方には最高のディナーを楽しんで
そして、そして・・・夜は二人で砂浜をお散歩するのよ!
仕切り直して、くるみが目を閉じ、ハワイ最終日の最後の妄想モードに入る
サザ・・・・ン・・・・
波打ち際のさざ波の音をBGMに・・・(※妄想最終日)
照明はお月さま・・・
星空のシャンデリア・・・
ザザ・・・ン・・・
ハイビスカスを耳に刺した私に洋平君は熱いキスをするの
そして部屋に帰って二人は・・・(はぁと)
くるみはハワイの朝日にガッツポーズした
最終日の今夜こそハッピー・ハネムーンよ!!
ハワイの美しい海と太陽・・・この瞬間、くるみは昨夜の失態を完全に乗り越え、未来への希望と愛に満ちた新しい一日を迎えたのだった
「よ・・・洋平君・・・」
シャカシャカ・・「ん~~~~~~?ほはよぉ~~」
洋平が寝ぼけ眼で、上半身裸にカジキマグロのぬいぐるみを小脇に抱え、歯磨きをしている←(気に入っている)
ガラガラッペッと吐き出し、スッキリした顔でくるみを見る
「くるちゃん!大丈夫?二日酔いなんかになってない?」
ああ・・・その優しさが余計に罪悪感を引き立たせる・・・・
「う・・うん大丈夫!ごめんね!迷惑かけて」
「くるちゃん夕べはジュースと間違えてウォッカ飲んでしまったんだよね、びっくりしたよ、何ともなかったからよかったものの、これからはラベルを確認しないといけないよ?」
「ハイ・・・ごめんなさい、私の方こそ・・・二日も洋平君を一人にしてしまって・・・」
「僕の事は気にしなくていいんだよ」
そう言ってニコッと笑った洋平の笑顔が天使すぎてくるみは後ろにのけぞった
―ヤバイ!天使がっ!天使がここにいるわっっ―
普通なら新婚旅行に来てる男性なら怒って当然なのに・・・くるみはまた滝のように涙が流れそうになるのをぐっとこらえた
「それでね!それでね!今日が最終日でしょ?だから今日だけは二人っきりで過ごしたいなぁ~なんて・・・もう由紀さんや慎吾さんと一緒に行動するの・・・止めない?」
じっと二人は見つめ合った
ニッコリ「くるちゃんがそれでいいなら僕に異存はないよ」
―マイエンジェー――ル(涙)―
くるみは滝の様な涙が流れるのをぐっとこらえた
・:.。.・:.。.
ハッピーハネムーンの最終日はまさに二人っきりの楽園だった
空は快晴!洋平は真っ赤なオープンカーをレンタルし、二人はリッツ・カールトンから車で、少し離れたハワイの外れにある、プライベートビーチへと向かった
ブォオオオ~「キャー!私オープンカーに乗ったの初めて!」
髪が四方八方からドライヤーを浴びているように、あっちこっちに風に飛ばされる、きっと目的地に到着したらせっかく綺麗にセットした髪は、実験に失敗した人みたいにボサボサになっているだろう
隣で運転している洋平はジェントル・モンスターのサングラスで太陽の光を反射させ、くるみが買った孔雀の羽模様のアロハを着ている
髪を豪風になびかせ、ずっと笑っている彼は本当に素敵だ、くるみは必死にゴープロで撮影する!
澄んだハワイの真っ青な空に見事に洋平君が溶け込んでいる!私はこのシーンを撮るために生きている!気分は一流映画監督だ!
キャーキャーッ「ああっ!今カモメが洋平君の横を飛んで行った!良い絵だわーーーー!!洋平君!!こっちむいて!笑って!こっち!」
「事故るよwww」
プライベートビーチは、二人だけの時間を過ごすには完璧な場所だった。青く広がる海と白い砂浜が二人を迎えた
このビーチは「カネオヘ湾」に面していて、波は静かで、エメラルド色の海、白い砂浜、まるで楽園の写真のような景色が目の前にあった
「ど・・・どうかな・・・・」
くるみは照り付ける太陽の下、照れながら念願のビキニを洋平に披露した、恥ずかしくて、思わずラッシュガードを羽織りたくなる
心臓がドキドキして・・・途端に不安になる
彼も由紀さんの様な豊満な体つきが好きなのだろうか、でも自分は絶対お尻は出せない。自分が出したらそれこそ犯罪のような気がする
洋平君・・・変だと思ってないかな・・・
もじもじして上目遣いで彼を見る
ニッコリ「すっげぇ!可愛い!僕の奥さん最高!」
くるみはもう泣きそうになって心の中で叫んだ
ハッピーハネムーーーーン(LOVE)
二人は笑いながら手をつなぎ海にバシャバシャと入った、水は驚くほど温かく、サンゴ礁の間を泳ぐ、カラフルな魚たちが二人を楽しませた
桟橋で二人は、スキューバダイビングの初心者講習を受け、水中に潜り、竜宮城の様な海の中の景色を楽しんだ
くるみが水中で両手でハートマークを作ると、洋平もブクブク泡を吹きながら同じようにハートマークを作った。
それを見ただけでくるみは愛しさに胸を締め付けられた
沖に洋平に誘われて思い切って泳いで行ってみると、意外と体が浮いて沈まないことがわかった
くるみは今まで自分は泳げないと自己暗示にかかっていただけなんだと気が付いた、彼といると新しい自分をどんどん発見出来る、とても楽しい
二人は手を繋いだまま大の字になって海面にプカプカ浮かび、いつまでも幸福感に満たされた
午後から二人はダイヤモンドヘッドの展望台へと登った
そこから見下ろすハワイの大自然は、それまでの全ての体験をさらに特別なものにしてくれた
地平線が輝き、空と溶け合う中
この島に知り合いはおらず、彼と私たった二人だけ・・・・
何とも幸せな気分に浸れた、ベンチに座り、くるみは洋平の肩にもたれハワイの海の青さと、空の広がりを感じながらじっとそれを眺めていた
「こんなに美しい場所で、洋平君と過ごせたこと・・・私、一生忘れない・・・」
「僕もだよ・・・・」
二人は手をつなぎ、頭を寄せ合い、いつまでも景色を眺めた
・:.。.・:.。.
夕方になって、くるみは、リッツ・カールトンの豪華な寝室のガラスのドレッサーの前で洋平との最後のハワイディナーの為の準備に没頭していた
ドレッサーの上には、日本から持ってきたディオールのチークとアイシャドウパレット、クリオのファンデーションが散らばって、まるで女優のメイク室の様になっていた
くるみは、厳しい顔つきで猫耳のついたヘアバンドをし、じっと鏡を見つめた
よ~し・・・「今から顔面突貫工事に入るわよ!」
メイクは闘いだ!くるみは自分だけの特別なルーティンを始めた。まずアロエと真珠エキスの入った高級フェイスパックを顔に張り付け、その上から美顔器を当て、毛穴を限界まで開かせ、美容液を浸透させる
パックは適用時間の10分多めがベストだ
次にワントーン高めのクッションファンデーョンを親の仇の様に顔面に叩きこむ、まるでその肌の色が生まれつきの様に完璧に詐欺る、首にも塗る、手の甲にも塗る!
顔面がバカ殿の様に真っ白になっても大丈夫!ここからが突貫工事の始まりだ
骨格に沿って凹凸を出すために、眉毛の際、鼻筋、顎の骨のラインに、グレーのコンシーラーをクッションパフで、これも顔面がヒリヒリするまで毛穴に叩きこみ、凹凸を出す
くるみは巻物のようにクルクル巻いている、ブラシセットをドレッサー一杯に広げた
カラーはブラシが命だ、くるみは20本の大きさや形が違うブラシを巧みに使いこなし、くるみの表情に甘美な色彩を添えていく
アイシャドウはハワイのサンセットの輝きを思わせるピンクで、目の周りを囲み
チークは大きなブラシで月明かりに触れるような柔らかさで、発色の良いピーチオレンジを頬に乗せた
睫は1本1本伸ばすように、繊維入りのマスカラを塗り重ね、忘れてはいけない、アイドルの様にピンセットでつまんで束感を作る
真剣すぎてどうしても顔を歪めて口を開けてしまう、こんな三の倍数のアホ顔をしている所は、彼には絶対見せられない、離婚される
愛しい人と愛し合う時につけまつげは野暮だ、どこを至近距離で見られても良い様に、完璧に仕上げる
唇は薄ピンクの口紅と透明のプランパーで、まるで涎を垂らしている赤ちゃんの唇ように、艶々に仕上げるのが最近のお気に入りだ
最後の仕上げに瞼と涙袋に大ぶりのシルバーラメをたっぷり重ね、くるみの瞳を星空のように輝かせた
ドレッサーの鏡に映る自分を見つめながら、丁寧にヘアアイロンで髪を巻き、良い匂いのするオイルをつけた
くるみはこの夜が、ハネムーンの新たな物語の始まりであることを感じていた
クローゼットからこの日のために日本から持ってきた、一枚の黒いイブニングドレスを取り出した
シンプルながらも皺にならない素材で、旅行にピッタリだ、背中に流れるようなラインが、体の美しさを際立たせるデザインだったし、スリットも入っていて歩きやすい
ドレッサーの上には、今日のショッピングで買った、ハワイのレフアフラワーを象ったネックレスとイヤリングが控えめに輝いていた
これらを身に着けることで、くるみはハワイの思い出と愛を胸にこの夜を迎えることができた
・:.。.・:.。.
ガチャ・・・
「洋平君・・・お待たせ・・・・」
くるみがリビングに入ると一瞬言葉を失った
ハワイに滞在中ずっとアロハシャツを着ていた彼はとても素敵なダークスーツを着こなし、窓の景色を見ていた、一目見てくるみと同じくこの夜を、大切にしようとしてくれている事が伝わってきた
二人はお互い歩み寄って、称賛の思いで暫く見つめ合った
ニッコリ・・・「くるちゃんのお目々にハワイの星が降って来たね・・・とっても綺麗だよ」
と彼は優しく言った
最高の誉め言葉だわ・・・・一気にくるみの心が暖かくなった
「洋平君もすっごい素敵!王子様みたい!」
二人は笑って手をつなぎ、部屋のドアに向かったその瞬間、インターフォンが鳴った
「誰だろう?」
「うん・・・」
洋平が不思議そうに眉をひそめ、ドアに向かった
―もう~~!こんな時に誰?―
くるみは心の中で呟いた、洋平がドアを開けるとそこには慎吾の姿があった
「洋平さん、助けてください!」
慎吾の声は切迫していた
「慎吾さん、どうしたんですか?」
洋平が驚いた表情で尋ねた、くるみもすぐ洋平の後ろに来て慎吾の様子を伺った
「由紀が・・・さっきからお腹が痛いって言うんです、フロントに電話しようにも・・・僕の英語力じゃなんとも・・・由紀が洋平さんを呼んできて欲しいって・・・」
慎吾の顔には焦りが浮かんでいた、洋平は即座に状況を把握し、くるみを見た
仕方がないよね・・・・
「洋平君・・・由紀さん見に行ってあげよう・・」
くるみがそっと洋平の肩に手を添えた
「そうだね、慎吾さん達の部屋は?」
「こっ・・・こっちです!3階です!」
三人は慎吾達の部屋に向かった