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雲の上での決闘。
それが始まった理由は他種族の血を飲まないと雲の上から離れることができないと言ったメスドラゴンがミノリ(吸血鬼)ではなく、ナオトの血を欲していることに気づいたミノリ(吸血鬼)が自分を倒せない者《もの》にその資格はないと言ったからだ。
「二つの竜巻がぶつかったら、どうなるんだろうな。多分、どちらかが吹き飛ばされるか相殺《そうさい》されるかの二択だろうな。ということは……」
メスドラゴン(ナオトと交尾しやすいように擬人化している)自身が回転して生み出した竜巻とミノリ(吸血鬼)自身が回転して生み出した竜巻が今にもぶつかろうとしている。
ナオト(『第二形態』になった副作用で身長が百三十センチになってしまった主人公)はできれば、お互いが傷つくことなく戦いが終わるといいなーという甘い考えを持っているため、二人の戦いを止めに入った。
「はい、そこまで!」
彼が背中から二本の鎖を出して二人を拘束すると、二つの竜巻は消滅した。
「ちょ、ちょっとナオト! 今、いいところなんだから邪魔しないでよ!」
「その通り! 早く鎖を解《ほど》いて!」
ミノリ(吸血鬼)は何やらギャーギャー言っている。
メスドラゴンはなんとか鎖を解《ほど》こうと試《こころ》みている。
「ダーメーだ。というかさ、お前雲の上から離れられないとか言ってたけど、竜巻起こしてる時、明らかに浮いてたよな?」
「はぁ? じゃあ、どうしてあんなことを……。はっ! あ、あんたまさか! ただナオトの血を吸いたかっただけなんじゃないでしょうね!」
「そ、そんなことは、ない」
彼女は俺たちから視線を逸《そ》らす。
「信じられない。正直、がっかりしたわ。どうしてそんな嘘ついたのよ」
「……体の内側がずっと疼《うず》いてて、その間私の耳元で本能がこう囁《ささや》いてた。そのオスの血を吸え! 吸い尽くせ! って」
「なるほどな。本能に支配されそうになりながら戦ってたわけか。そんな相手に苦戦していたどっかの誰かさんは今、どんな気持ちなんだろうなー」
彼がミノリ(吸血鬼)に視線をチラチラ送ると、ミノリ(吸血鬼)は舌打ちをした。
「まったく。そんな状態のあんたに勝っても、ちっとも嬉しくないわよ。次は万全な状態で挑みなさい。相手になってあげるから」
「わ、分かった」
「よろしい。ということで、ナオト。早く鎖|解《ほど》いて」
「りょーかい」
彼は二人の拘束を解《と》くと、鎖を体内に戻した。
「よし、じゃあ、とりあえず帰るか」
「そうね。けど、その前に……」
ミノリ(吸血鬼)は彼の背後に移動すると、後ろから彼を抱きしめた。
「安心したら、お腹|空《す》いちゃった。だから、ちょうだい」
「え? いや、普通に嫌なんだが」
「このあたしに逆《さか》らうの? そんな悪い子には、おしおきしないといけないわね」
「は? ちょ、離せよ! こらっ! ミノリ!」
「それ、私もやる。どうすればいいの?」
「ちょ、お前もそっち側かよ!」
「えーっとね、まず、ナオトの左耳を舐めるの。そしたら、ナオトは力が抜けてまともに動けなくなるからその隙に首筋に噛み付いて、チューって血を吸うの。簡単でしょ?」
「たしかに簡単。それなら、私にもできる」
「よし、じゃあ、始めましょうか」
「うん」
「は? ちょ、嘘だろ? そんなことされたら俺、普通に死んじゃうよ? おい、聞いてるのか? もしもーし、聞こえてますかー? あっ、これは聞こえてないみたいですね。あー、もうー! なんでいつもこうなるんだよー!」
このあと、彼はミノリとメスドラゴンに気の済むまで血を吸われる羽目になった。