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晴れた日の午後。千原城市の中堀(ちゅうほり)地区。チバラキVを乗せたトラックが空き地に停まる。
運転席から北野が、後部ドアからチバラキVの5人が降りて来る。
北野「じゃあ、この地区の各ご家庭に市役所からのお知らせ配って下さい」
瑠美/ブルー「わざわざ戦隊の格好でやる意味あんの?」
北野「チバラキVの宣伝も兼ねてるんですよ。ご当地戦隊って言っても、地元の人たちに知ってもらわないと始まりませんからね」
全員でそろって一軒一軒お知らせのリーフレットを配って歩く。
以前に訪ねた、千葉県と間違って引っ越してきた夫婦の家の前。その家の子ども二人が家の前で遊んでいて、チバラキVに気づいて大声を上げる。
子ども二人「わあ、戦隊だ!」
夫婦がドアを開けて出て来る。
夫「あ、この間の市役所の方ですね」
北野「その節はどうも。あのう、それで、やっぱりまたお引越しなさるんですか?」
夫「はあ、実は、このままここに住む事になりまして」
北野「え? ああ、今の時期だとすぐには次の引っ越し先が見つからないとか?」
妻「いえ、実はうちの子どもたちが」
妻がチバラキVにじゃれあっている二人の子どもを指差す。
妻「ここがいい、引っ越したくない、と言い出しまして」
倫/ブラック「おや。子供さんの方が、ここを気に入ったんですか?」
妻「ええ、いろいろあるんですが、あれが特に気に入ったらしくて」
妻が利根川の方を指差す。こっちへ向かって来ている小型の船。定員12人の水上バス。前半分に屋根付きの客室があり、後ろ半分がオープンデッキになっている。
智花/イエロー「ああ、フォートレス号ですね。うちの市民の普段の足なんですよ」
夫「そうらしいですね。渡し舟って聞いた時は時代劇に出て来るような小舟を想像しましたけど、あんな船にしょっちゅう乗れるなら、子どもたちは喜んでまして」
玲奈/レッド「ああ、分かります。あたしも小さい頃、用もないのに乗りたい、乗りたいって言って、親を困らせてました」
夫「よく見たら、子どもが思いっきり走り回れる広い河川敷はあるし、沼あり雑木林ありで、子育てにはむしろいい環境なんじゃないかと」
妻「子どものため、子どものためって言いながら、実はあたしたち大人にとって便利な場所にこだわっていたのかもしれませんね」
夫「実は今朝、転入届を出して来たんです。今日から千原城市民になりました。よろしくお願いします」
夫婦が軽く頭を下げる。
北野「そうだったんですか!」
北野は腰を90度曲げて深々と礼をする。
北野「こちらこそ、よろしくお願いいたします。何か困った事があったら、どんな些細な事でも、遠慮なく市役所の問い合わせ窓口にお知らせください」
夫「はい、ありがとうございます。早速これからあの船で市の中心部に買い物に行くところなんです。おおい、二人とも。お船でお出かけするよ」
子どもたち「わーい! 行く、行く」
夫婦と二人の子どもたち、手をつないで船着き場の方へ歩き出す。
夫「では、これで」
北野「はい、お気をつけて」
妻「やっぱり、子どものやりたいようにやらせてあげるのが大人の務めですね。戦隊のみなさん、この子たちと仲良くしてあげて下さいね」
玲奈/レッド「はい! いってらっしゃいませ」
場面転換。
帰途のトラックの後部、座席に座ってマスクだけ外しているチバラキVの5人。瑠美がぼそっとつぶやく。
瑠美「やりたいようにやらせてあげるのが大人の務め……か」
玲奈「え? 瑠美さん、どうかしました?」
瑠美「いや、何でもねえよ。独り言だ」