つぼ浦の負担を考えて出勤日ずらせば良かった…と後悔してももう遅い。先に起きたつぼ浦は張り切って仕事に行く準備をしている。
「おはよう、今日は早いな。」
「おっす!今から朝飯作るすよ!」
「そんな朝から張り切ってると1日持たなくなるよ。身体しんどくない?」
「むしろやる気がみなぎってやがるぜ!めちゃめちゃ美味い飯作ってやる!」
「なんでそんなに気合入ってるの、仕事だよ?遊びに行くんじゃないんだよ?」
「ん?…そりゃやっとアオセンのガキ扱いから解放されるからな。」
「何それ、俺の善意はいらなかったってか?」
「いや感謝はしてるすよ、でも甘やかしすぎって事。」
鬱陶しかったか、やりすぎたか、と肩を落としそうになったが今のつぼ浦にそんな姿は見せられないと気を持ち直した。
「悪態つける程元気になったって事ね。手伝うよ、パン焼く?」
薬のお陰か昨日より食べる量が増えたのを見て少し安心した。このまま良くなりますようにと願う。
警察署に着きポケットの中を整理してから早速パトロールだと車に乗り込んだが青井に止められた。
「つぼ浦ストーップ。今日は俺とお前でバディ組も。」
「はぁ?なんですか。」
「心配だから。まだ本調子じゃないだろ、何かあるかもしれない。」
「えぇー…大丈夫だって言ってんのに…」
「俺助手席座ってるだけだから、自由にやってくれて良いから。」
「断ってもどうせついて来るんでしょ?しゃーねーなぁ。」
渋々青井を助手席に乗せて事件対応やら飲食店巡りやら忙しなく動く。つぼ浦の活躍ぶりは変わらずやったりやられたりだが、特にカーチェイスの上手さには感心して大袈裟な程褒め称える。終始いつもより声が大きく、度々鼻歌も歌い出し上機嫌に見えた。
「おし牢屋とうちゃーく、じゃあ荷物検査して切符切るぞー。赤いスーツって事はお前栖家幡華憐だな!!」
「違うわw男だろーがwなんかつぼ浦いつもよりテンション高いっつーか、声でかくね?喉大丈夫かよ。」
「あーまぁな、そんな日もある!そんな事よりさっさとプリズン送るぞ、えー30分!……よし、元気にしてないとまた心配かけちまうからな。」
ポツリと漏れた声が遅れてやってきた青井の耳に届いた。聞かれてないと思っているつぼ浦はまた大きな声で話しかける。
「おっ丁度牢屋対応終わったすよ、次いこーぜ!」
「あー待って、今日はもう良いんじゃない?疲れたでしょ。」
「まだまだ平気すよ、パトロール行くすか?」
「…待って。」
部屋から出ていこうとするつぼ浦の手首を掴み胸に引き寄せて抱き締めた。
「あっアオセン!?ちょっとここは流石に…人来たらどうするんすか…」
「ごめん、俺が負担かけさせてたね。」
「は?何の話すか。」
「俺の為に無理して元気に見せてるんでしょ、気付かなくてごめんね。」
「別にそんなんじゃねーすよ、俺が勝手にやる気出して自分を鼓舞してるだけ。」
「でも今言ってたじゃん、元気にしてないと心配かけちゃうからって。」
「…聞こえてたのか…でもこれは俺の為っていうか…俺が嫌だから、これ以上アオセンに迷惑とか心配かけるの。」
腕にギュッと力を込めながら言う。あぁまたこうして迷惑をかけてしまうと自分を責めた。
「その気持ちは嬉しいけど自分を犠牲にしないで。言ったよな、俺にはもっと甘えて、頼って良いし弱音吐いて良いんだよ?今は特にね。」
「分かってる、けど…だって…アオセン…」
「つぼ浦の強い部分も弱い部分も、変な所意地っ張りで甘え下手なのも全部大好き。どんなつぼ浦も嫌いになる事なんて絶対無いから安心して、信じてほしい。」
「そりゃずっと信じてるすよ……本当なんでアオセンは俺のこと全部分かるんだよ…」
「俺ももっと頼りがいのある男になるからさ。…で早速なんだけど、今は本当はどうしたい?」
「今?…もう疲れた、帰りたい。」
「じゃあ今日の業務終わり!早く帰ろ。」
「…アオセンありがと。」
にっこり笑う青井に目を逸らしながら小さく呟いた。