ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。情報部の報告によれば、三者連合内部で粛清が行われてシダ・ファミリーが事実上壊滅したことを確認することが出来ました。更に荒波の歌声に対する引き抜き工作で数人を引き抜いたら、こちらとの繋がりを保とうとする動きが見られているのだとか。
今この瞬間降伏するなら見逃すことも考えていましたが、どうやら抗争の結果を見て判断するつもりみたいですね。
「あいつら、自分達は堅気だって抜かしやがる。いつか本格的に交渉するかもしれないから連絡先を教えてくれと言ってきたらしい」
報告に来ていたラメルさんは、ため息混じりにそう教えてくれました。
「いつか交渉するかもしれない?今すぐじゃなくて、ですか?」
「ああ、奴らは抗争の結果次第で決めるみたいだ」
「それなら敵ですね」
ちなみに情報部の詰め所は館二階に設置しました。そう、私とルイが隠れてる部屋の隣です。これで情報伝達がスムーズに行えるようになりました。伝達は壁に開けられた穴を通して密かに行います。
「一応返答は保留してる。念のため、今すぐに降るなら不問にするって伝えさせたんだが、見極めたいとか抜かしたらしいな」
「舐めてんな、そいつら」
ルイの言う通りです。それにこの期に及んで堅気面ですか。
「マナミアさん、荒波の歌声はうちから強奪した物資を受け取らなかったんですか?」
「派手に遊んでいたわよ?」
「よし、有罪です。強奪品を返すなら許しますが、それを使って遊んでて……しかも、『海狼の牙』にも随分と気前の良い話をしたみたいですし」
「ん、そりゃなんだ?」
あっ、まだ共有していませんでしたね。
「サリアさん曰く、交渉人は荒波の歌声代表のヤン。将来的には自分達に桟橋の管理を任せてほしいとお願いしてきたとか。リンドバーグ・ファミリーとシダ・ファミリーは自滅させるつもりだと」
「そりゃまあ、堅気とは思えねぇ欲張りだな」
「うちの大金を手に入れて目が眩んだんでしょ。典型的な小物じゃない。それで?主様はどうするの?」
「欲張りさんには自滅して貰いましょうか。引き続き引き抜き工作を継続してください。リンドバーグ・ファミリーに露見するように、雑にね」
「リンドバーグに始末させるつもりか?流石にこちらの策だと勘づく可能性があるぞ」
「老獪なリンドバーグならば察知するかもしれませんが、配下が全員彼みたいに慎重なわけではありません。ちょっとした火種を用意するだけで事足ります」
私が計画を話すとマナミアさんが意見を出してくれました。
「それならもう一押し欲しいわね。そうね、荒波の歌声が『暁』の離反者と結託して宝を独り占めにして、リンドバーグを葬ろうとしているなんて噂を流さなきゃ」
「それ良いですね」
「誰が離反者をやるんだ?俺は嫌だぞ。嘘でもシャーリィを悪く言いたくない」
「ルイは向きませんね」
「それなら打ってつけが居るじゃねぇか。いつもボスの傍に居たボディーガードがな」
「なるほど」
「悪い顔してるなー」
失礼な。自覚はありますが。
「信用させるために少しお金が必要よ?」
「必要経費として割りきります。これ以上長引けば商売に影響が出るので迅速に」
「「了解」」
よう、ベルモンドだ。お嬢が館に籠っちまって、手持ち無沙汰なんだよな。かといって護衛の俺が派手に動くわけにもいかねぇし、どうしたもんかと思ってたら、ラメルの旦那とマナミアの姉さんが声をかけてきた。
……悪そうな顔してんな。嫌な予感がするぜ。
「俺にスパイをやれってのか?」
で、予想通りだったわけだ。
「ボディーガードだったアンタが抜けたとなれば噂を信じるだろうからな」
「どう?やってみない?」
「確かに暇してるが、俺に腹芸なんて無理だぞ?」
「あいにく他に適任が居なくてなぁ。アンタの顔は知られてるからちょうど良いんだ」
「なるほどね」
確かにセレスティンの爺さんやロウの爺さんじゃ違和感がスゴいな。
エーリカの嬢ちゃんは表向きただの仕立て屋。アスカにはそもそも無理と来た。マクベスの旦那?生真面目を絵に描いたような旦那には無理さ。
シスター?あいにくお嬢を溺愛してるって噂が流れてる。無理だろうな。
ドルマンの旦那やマーサの姐さんは人間じゃないから信用されるか難しい。
となると俺かぁ。
「分かった、俺しか居ねぇならやるさ。けど、どうやって信用させるんだ?」
「第四桟橋に隠し金庫があると伝えてくれ。それを手土産にすれば信用されるさ」
「なるほどな。要はあれか。お嬢が死んでグダグダの『暁』に愛想を尽かせた俺が金を手土産に寝返るってシナリオか」
「その通りよ。既に引き抜いてた連中は隔離してあるから、実情が漏れることはないわ」
「だけどよ、それだとうちに寝返ろうと考える奴が居なくなるぜ?良いのか?」
「有能な奴は既に引き抜いた。代表のヤンを含めて、他の奴らは殲滅する。ボスの決定だ」
「容赦ねぇなぁ、お嬢は。まっ、どうせ暇してたんだ。ちょっと火遊びをしてくるぜ」
「うちの奴を一人潜り込ませてある。万が一の時は頼ってくれ。あちらから接触するように伝えておく」
「あいよ。期間は?」
「一週間だ」
「随分と短いな?」
「これ以上主様の不在を長引かせたら経営に支障が出るのよ。一ヶ月以内に三者連合を完全に潰すからそのつもりで」
「なら、仲間割れの時にリンドバーグの奴等を削るか」
「怪しまれない程度にね。流石にあなた一人じゃ全員は厳しいでしょ?」
「そりゃそうだ、おとぎ話の英雄じゃないんだからな」
その日の夜、思ったよりも早く俺は荒波の歌声に接触できた。
『暁』に寝返った奴から紹介されたって話になってる。まあ、いきなり代表と会えるとは思わなかったけどな。
「私が荒波の歌声の代表を務めるヤンと申します」
そう言って挨拶してきたのは、何処にでも居るようなオッサンだった。堅気のまま生きてるほうが似合うな。
「ベルモンドだ。暁に来た奴からアンタらの話を聞いてな、用心棒として雇ってくれないか?」
「それは構いませんが、私の記憶が正しいなら貴方は確か暁代表のボディーガードだったのでは?」
それくらいは知ってるか。
「よく知ってるな。確かに俺はお嬢のボディーガードだった。けど、お嬢が死んじまってな。未練はないんだ」
「なんと!代表は亡くなったのですか!?」
「そうだよ。頑張って手当てをしたんだがな……後はグダグダで、愛想も尽きてな」
「そうだったのですか……」
おいおい、にやけてるぞ。もう少し隠せよ。
「まあ、いきなりこんな話をしても信じられねぇだろ?手土産代わりに良い話を持ってきたんだ。何人か貸してくれ」
俺は愛用の大剣を手渡して、第四桟橋に向かった。エレノア達が見張ってるが、予め目的地の周りは手薄にさせてある。
もちろん今は使われてない廃墟だからな、怪しまれることもない。そして廃墟の中には金庫が置かれていた。教えられた鍵で開けて中身を見ると。
……マジかよ。
「ほら、これだ。隠し金庫、中身は好きにしてくれ」
金庫の中身は金貨の詰まった袋だった。これ、千枚はあるんじゃないか?
「これは!」
「こんな大金を!?」
「貴方の誠意は確かに受け取りました!こんな大金を頂けるのですから!」
疑わねぇか。まあ、こんな大金だもんな。
しかし、相変わらず気前の良さだ。星金貨一枚分とはなぁ。
……だがこれで潜入はできた。すぐに動かないとな。目を離してるとお嬢が何をするか分からねぇし。
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