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カテリナです。最近は私はちょっとした問題を抱えています。簡潔に言えば、シャーリィ分の不足です。
シャーリィ分とは何か。説明すると数日を要しますので簡単に言えばシャーリィを愛でることで得られる養分とでも言いましょうか。
突拍子もないことを急に始めたり進んで危険に身を晒すちょっと困った娘ではありますが、私にとっては大切な娘です。
理解されることが少ないとは言いますが、シャーリィを理解して好きにさせていた実母とは良い酒が飲めそうです。
そんな愛娘は策略のため極力人と会わずに済むようルイスと二人で引き籠っています。このまま孫でも作らないかと考えてしまう程度には彼女を愛している自信があります。さぞや可愛らしい子供が生まれるでしょう。今から楽しみです。
……話がそれました。
策略の最中、相手の諜報員の目を避けるためにシャーリィとの接触は控えなければいけません。あの娘を拾って九年、流石に私が保護者だと言うことは知られています。となれば私の動向が注視されているのは言うまでもありません。その結果何が起きているか。
「……退屈ですね」
そう、教会から外に出られないのです。愛娘を失い悲しみに暮れる日々と言う設定です。
悲しみに暮れる?事実ならとっくに自害していますよ。私のクソみたいな人生に光を与えてくれたのがあの娘なのですから。
で、教会から出ることすら禁じられている私は、暇を持て余しているわけです。当然部屋などは散らかっています。またシャーリィに叱られてしまいますね。
しかも礼拝堂は刺客によって派手に吹き飛ばされていますから、宿舎に居るしかないのが辛いところ。
「もう少し我慢しなさいな。終わったら思う存分シャーリィを愛でれば良いじゃない」
慰めに来たと言う体でマーサが来てくれるのが幸いでしたね。
「……写真だけでは限界があります」
「はぁ……あの冷血で残忍だった貴女がこんなに腑抜けるなんてね。シャーリィは凄いわ」
「……それは過去の話ですよ」
確かにシャーリィを拾ってからは派手に動いてはいません。私の持つ人脈をあの娘に引き渡して、基本的にあの娘の帰る場所を護りつつたまに後始末に動く程度ですか。昔の私が今の私を見たら驚くでしょうね。
「ギラギラしてた貴女も良いけれど、今の優しげな貴女も良いわ。シャーリィのために『聖光教会』を抜けたんでしょう?」
「……あの娘を始末しろと命じてきたのです。あんな組織に未練はありません。良い思いでもあまりありませんでしたから」
私は孤児です。親の顔なんか知る筈もない。よくある、世の中にありふれた悲劇ですね。
私は他の孤児同様生きるために何でもしました。七歳の時に私の獲物を横取りしようとした年上の男の子が居て、ムカついて後ろから頭に石を叩き付けてどぶ川に突き落としたのが最初の殺しでしたね。
以後十二歳になるまで生きるために必要なら殺しもしました。数えたくないくらいの回数死にかけましたが。
そんな私、いや私達孤児たちを拾ったのが『聖光教会』でした。慈善事業とは聞こえが良いですね。中身は狂信者に仕立てるための洗脳と、下衆な聖職者達の慰み物になるだけでしたけど。反吐が出る。
私は度々教会を抜け出しては悪さをして、何度もシスターに叱られたものです。こんな私を熱心に叱ってくれたあのシスターだけは間違いなく善人でしたね。今でも感謝しています。
そんな日々を過ごしていて私は十五歳になりました。そしてその日に肥えた教区長の部屋に呼び出さたんです。遂に私の番が来たと思いましたよ。ふざけんなって思いましたよ。
別に夢を見たわけではありませんが、こんな野郎に抱かれても何の得にもなりませんからね。
私はある決心をしてシスターに事情を話しました。彼女は私に逃げるように言いましたが、それではシスターが罪に問われます。なら、私が被るだけです。
そして私は行為の真っ最中、具体的には教区長がその粗末なモノを突っ込んで気を緩めた瞬間に顔面を殴り、近くにあった燭台を掴んで滅多打ちにしました。醜い悲鳴を無視して殴り続けていると奴は動かなくなりました。
私はすぐに部屋にあった水瓶をひっくり返して身を清めて身なりを整え金を持って逃げ出しました。直ぐに追手が迫りましたが、間一髪私は荷馬車に紛れ込むことに成功して、町を後にしました。
ただし、荷馬車の目的地がシェルドハーフェンだと知った時は自分の運の無さを嘆いたものです。
金はありましたが、それでもいつかは無くなります。幸い見た目だけは良かったみたいで、十六番街にある娼館で働きながら金を得て、郊外にある古びた教会を住まいにしました。
シェルドハーフェンは暗黒街と言われるだけあって裏の仕事には困りませんでしたからね。娼館で働きつつ裏の仕事を請け負いながら生活をしていました。
そんな日々を送って、二十歳くらいの頃でしたか。私の住まいに『聖光教会』の神父が訪ねてきました。
教区長殺害の件を黙認する代わりに、いつか勇者の力を持つ者が現れたら知らせて欲しいと言う話でした。曰く、勇者の復活が近いため『聖光教会』としては網を張り巡らせるためにシェルドハーフェンでも影響力を持ちたいとのこと。
勇者なんて者に興味はありませんでしたが、下手に断って追われるような日々への逆戻りは勘弁だったので快諾することにしました。まあ、どうせ私には関係無いと考えながらね。
それから数年後、帝国では珍しく雪の降り積もる日でした。胸騒ぎがして、表に出たらそこに倒れているあの娘を、シャーリィを見付けたのです。
それまでの私なら見なかったことにして捨て置いたでしょう。けれど、なぜかその時はこの娘を拾わないといけない。そんな気がしたのです。それから九年、早いものです。
「……あの娘が居て、私の人生は変わりました。顔を見られないのがこんなに辛いとは思いませんでしたよ」
「もう少しの辛抱よ。状況は有利に動いてる。今回はちょっと慎重過ぎたかもしれないけれど」
「……三者連合などシャーリィの敵ではありません。真の敵は裏にいます」
「『血塗られた戦旗』かしら?」
「……そう、彼らとの戦いがあの娘の行く末を占うことになるでしょうね」
『血塗られた戦旗』は『エルダス・ファミリー』よりも勢力が大きい。もしこれに勝利すれば、『暁』の存在は暗黒街中に響き渡るでしょう。そうなれば、『会合』に属する他の組織も『暁』を無視できなくなる。
そうなった時どう立ち回るか。あの娘の復讐劇はまだ始まってもいない。言わばこれはまだあの娘にとってプロローグに過ぎないのだから。わたしは、ただそれを支えるだけです。光をくれたあの娘が復讐を果たして光の道を歩けるように。