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シオンは危機的な何かを感じ、その場から飛び退く様に距離を取る。



そして折れた自らのレイピアを見詰めた。



“――折られた……まさか、あんな子供に?”



それは俄には信じ難い事。だが折れているのもまた事実。



再び目の前を確認するが、どう見ても只の子供だ。しかもアミより更に幼い。



しかしアミという、見た目では判断出来ない先程の例も有る。



シオンは少年へ向けて、測定を開始した。



“生体測定機 サーモ”



これは狂座に属する者が、装着を義務付けられている液晶型生体測定機。これにより、瞬時に対象者の総合戦闘指数が測れる優れもの。



侍レベルという数字で。これに誤認は決して無い。



「なっ……何だと?」



液晶に数値化された表示を見て、シオンは唖然。



“――侍レベル……『5%』だと?”



それは本当に、刀を持った少年が“只の子供”である事を意味していた。



“なら何故レイピアを折られた?”



しかも全く気付かない間に。



だが冷静に考えたら、すぐに分かる事だった。



レイピアはその細身である形状上、強度は日本刀の比では無い程に脆い。つまりタイミングさえ合えば、日本刀とレイピアの衝突では、後者が折れるのは道理だと。



そう、これは“たまたま”タイミングが合ってしまった状況による、奇跡にも近いまぐれ。



シオンは状況を分析して、そう判断を下す。



それに剣が折れた処で、戦闘には何の支障も無い。



「フフフ……」



シオンは折れたレイピアを手に、余裕に近い不敵な笑みを洩らす。



何故なら――。



「どうして……早く逃げて!」



アミは何故か目の前で、自分を庇っている様に見える少年へ声を絞り出す。



それはこの喧騒に紛れて、此処から逃げて欲しいと。



「貴女には命を助けて貰った借りが有ります」



少年は顔半身のみ振り向き、アミへそう伝える。



「……命の借りは命で返すのが礼儀。ここは私が相手します」



闘う気なんだ――と。



それはアミの為に代わりに闘うという、はっきりとした意思表示の顕れ。



「相手する? 君がこの私を? フフフ……これは傑作」



その声を聞いていたシオンの高笑い。



可笑しくて堪らない。滑稽過ぎて哀れになってくる程。



「ええ。ですが役不足ですよ、全くの」



自分の分際も顧みず、まだこんな馬鹿な事を言っている。



もはや愉快を通り越して悪夢だと。



「まさか私のレイピアをまぐれで折った位で、既に勝った気でいるとは……。おめでた過ぎて涙が出てきそうになるよ」



堪える様に腹部を押さえているシオンが、その折れたレイピアの鋒を少年へ向ける。



とはいえ、得物が折れている以上、その戦力は半減では済まないはず。



『――っ!?』



だが次の瞬間、確かに見た。



見間違えでは無い。



その折れた脛元から形成されていく“何か”を。



“何だあれは?”



シオンが持つ、その余裕の意味。



それは目を凝らさねば、俄には視覚し辛い――



「……氷?」



細長く形成された氷の剣だった。



「……アイスフルーレ」



シオンは氷で形成されたレイピアを、誇らしげに少年へと向ける。



「狂座に属する者は高い戦闘能力のみならず、高位の者は皆特殊な能力の遣い手。私は氷の力を自在に操れるのです」



シオンの余裕の意味はこれだった。



それにしても、狂座という恐るべき遣い手達に、誰もが震撼する。



国が滅亡の危機に陥ったの当然。狂座は皆が、人外の力を持った者の集まりなのだ。



“アミですら勝てぬ者に、この少年が勝てる訳が無い!”



「……それで? だから何ですか? つまらない力です」



それでも尚、この少年には微塵の動揺すら感じられない。



思えば審議の時から、その態度は一線を画していた。



「フフフ……よくもまあ、自分の分際も顧みず。少し可哀想になってきました」



シオンも不敵。少年の真の実力が分かっているからだ。



気をつけるのは日本刀による、奇跡のまぐれ当たり。



奇跡は二度起きないから奇跡というのだが、シオンは万全を期す。



「――っ!?」



“万が一の可能性さえ潰す”



突如少年の足下から、アミが捉えられているのと同様に、氷が彼の両足を固め始めた。



先程のアミの動きを止めたのは、シオンの氷の力に依るもの。



「私は用心深い。君がゴミ以下でもね」



シオンは更に、少年の持つ刀の唾元まで凍らせていた。



氷で固められて、これでは刀を抜く事すら出来ない。



避けるのも無理。迎え撃つのも無理。



「何? これで勝ったつもりですか?」



凍結している己の身体を、全く気にもしていない。



「知らないというのは、ある意味幸せなのかも知れないね……。じゃあ、さようなら!」



これ以上の焦らしは可哀想だと。



一瞬で楽にしてやるが情けというもの。



シオンは少年へ向けて突きを見舞う。



“――最速の刺突で……終わりだ!”



迫り来る氷の刃に、全く動く素振りすら見せない。



「――やめてぇぇっ!!」



アミの悲痛な叫びが木霊する頃には、その突きは既に少年の顔面に届いていた。



少年の額は貫かれ、貫通した頭部より血煙が舞うーー筈だった。



「……んなっ!?」



右手を突き出したまま、驚愕に目を見開いた怪訝そうなシオンの表情を。



氷のレイピアは少年を貫く処か、その直前で止まっていた。



“――ば……馬鹿なっ! コイツ……素手で掴みやがっただと!?”



少年は何事も無かったかの様に、そのか細い右手でその刀身を掴んでいた。



シオンが驚愕に戸惑うのも無理はない。



音速を超える己の刺突に反応、というより掴んで止められる代物ではないはず――その事実に。



摩擦と抵抗力を超える物理的な力。これはまぐれやタイミングでは有り得ない。



“それをこの只の少年が?”



刹那、シオンを更なる驚愕に陥れる事態が――



「馬鹿なっ!?」



梃子の原理かは分からない。



少年が軽く右手を捻ったかの様に見えた瞬間、その氷の刀身は脆くも脛元から折れていたのだ。



「ぐっ!!」



得体の知れぬ危機的本能を察知したのか、シオンは瞬間的に少年から大幅に距離を取る。



それに対し少年は折れた氷の刀身を、無造作に横に放り捨てていた。



地に墜ちた刀身は“パリン”と音を発てて、硝子細工が砕けた様に辺りに霧散する。



“――有り得ない……”



シオンは柄のみとなった、折れた刀身を見詰め思う。



これは只の氷では無い。異能によって固められた物。その強度は鉄製を上回る。



「……所詮アナタの力は後天性異能(紛い物)。こんな児戯にも等しい力で私は殺せない」



少年はさも当然とも云わんばかりに、戸惑うシオンへ向けて馬鹿にした様に言い放つ。



「なん……だと?」



言っている意味が分からない。もう一度サーモで確認するが、やはり少年の侍レベルは『5%』で表示されたまま。



狂座の最新技術による、サーモの生体測定反応は正確無比。



「何故だっ!?」



やはり理解出来ない。侍レベル『5%』という数値は、武力を持たない常人にも等しい生体数値。



「そんな玩具に頼りきっているから、見えるものまで見えなくなってしまうんですよ」



“見えるもの? 機械の数値が全て。生体に定められた不変の法、相克によって擬装は不可ーー”



「そんな馬鹿なアナタにも分かりやすい“形”で教えなければ、分からないみたいですね。これでいくら馬鹿のアナタでも理解出来るでしょう」



少年が右手を翳した瞬間、それまでアミも含め、自身を縛っていた氷が一瞬で消える。



「氷が……消えた?」



彼女にも何が起きたのか分からない。



だが、この少年に依る力で在る事は理解出来た。



「貴様! 何をした!?」



もはやシオンに余裕は無い。その紳士的な口調にまで綻びが生じている。



「まだ理解出来ないアナタは、はっきり言って二流以下の愚物。ああ……だからか――」



その侮辱にシオンのこめかみに血栓が浮かび上がる。



少年は薄笑いを浮かべながら止まらない。



「だからそんな陳腐な組織でも、師団長止まりなんですね」



これには切れた。図星、気にしていた事をあっさりと述べた少年に。



「こ……この餓鬼!」



“――殺す……殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!”



「――殺してやるよ、この糞餓鬼がぁっ!!」



シオンは再び氷の剣を形成し、怒りに任せて少年へ突進。



最早そこに紳士の面影は何処にも無い。

雫 -SIZUKU- ~星霜夢幻ーー“Emperor the Requiem”~

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