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再激突の間近。シオンの動きが突如止まる。
“何故?”
これまで感じた事の無い、危機的本能が何かを訴えていた。
この少年は“危険”だと。
『な……何これ?』
『寒気!?』
シオンのみじゃない。その場に居る誰もが感じる、背筋を這う様な冷たくも、どす黒い感覚。
それは明らかに、この少年から発せられていた。
「かっ……身体が動かないだと!?」
シオンは止まったというより、自分の意思では動かせない身体を、思考が理解出来ない。
本能が“恐怖”により止められている事に、気付いている者はいなかった。
“――何だ……あれは?”
そして漸く事態に気付いた。その意味を、そして少年の変化に――
「銀……色?」
その漆黒の瞳は銀の眼へ。そして毛髪までもが、それに呼応するかの様に、煌めく白銀髪へと変貌を遂げていくのを。
人は現実と理解を越えた出来事に、怯え立ち尽くすとされるが、その少年の存在が正にそれだった。
「――っは!!」
シオンは反射的にサーモの数値を確認する。
「こっ……こんな事がっ!?」
己の目を疑う。先程まで『5%』だった数値が、少年の変貌を皮切りに凄まじい速度で上昇していくのを。
そして――
“level 99.99%over”
※※※※EMERGENCY※※※※
突如何処からか、耳に障る警告音が消魂(けたたま)しく鳴り響く。
『何だこの音は!?』
そしてサーモという装置より、無慈悲な事実を伝える無機質な機械音声が――
※レベル臨界突破計測確認――
CODE:0990100よりモード反転――
スタビライザー解除:裏コード移行――
※※※※EMERGENCY※※※※
※本機はこれより モード:エクストリームへ移行します――
地殻変動及び空間断裂の危険性大――
速やかな退避を推奨します――
※※※※EMERGENCY※※※※
――――――――――――――
※裏コード~臨界突破
※モード:エクストリーム
対象level 154.88%
※危険度判定 S
――――――――――――――
***
「そんな馬鹿なっ!!」
サーモに表示された数値を見て、シオンは悲鳴にも似た声を張り上げた。
“これは絶対に有り得ない数値”ーー
侍レベルとは生体総合戦闘数値の事。これは生体に定められた法によって、その絶対上限は『99.99%』までと定められている。
何人たりとも、この法を侵す事は出来ない。
“もし有り得るなら――”
法を超越した存在。
“臨界突破者”
それはレベル上限を超えた者の総称。
狂座に於いては冥王に次ぐ存在。
“当主直属部隊ーー冥王様不在に代わり、現在の狂座を仕切る方々――”
「まさか……?」
そして――狂座の不倶戴天の敵である、四死刀と呼ばれた特異点達。
シオンは今一度少年を見据え、確認する。
白銀色に靡く髪と銀色の瞳。
特異点の特徴は“異彩色魔眼”とされる瞳と、それに呼応する毛髪がその証。
そしてレベル上限超えの事実から推測する、その答を――
“四死刀に生き残りがいた!?”
だが四死刀は三年前に、全員死亡したとされている。
これは報告書で知った事。シオンは当時、別任務に赴いていた為、四死刀の事は書類上の事でしか知らなかったのだ。
今、眼前に居る人物がそれだとすると――
“勝てる訳が無い!!”
シオンは背を向け駆け出す。
一刻も早くこの場より逃走せねばならない。そして本部へ、この事態を伝達。
レベルの開きはおよそ倍、と云った問題のレベルでは無い。
『99.99%』と臨界突破との間には、それ程までに越えられぬ壁が有る事を――。
「良い判断です……」
駆け足で逃走していくシオンの背を、少年は見送るかの様に。
しかし集落の者にとっては、そうはいかない。
“このままでは逃げられてしまう!”
それは由々しき事態。次は集団でやってくるだろう。
だが、今更追い掛けても間に合わない。
「まあ……逃がすつもりはありませんけどね」
少年は左親指で手に持つ刀の鯉口を切り、右手を柄に添える。
今更刀を抜いた処で、どうしようというのか?
既にシオンと少年との距離は、十メートル以上も離れていた。
「……神露(かむろ) 蒼天星霜――」
刹那、切った鯉口の刀身の狭間より、蒼白い輝きが溢れ煌めく。
一瞬で空気が震撼。流星の如く煌めく光芒が幾多にも少年より放たれるのを見た。
しかし、抜いた瞬間は見えない。傍目には抜こうとした瞬間、蒼白い輝きが見えただけだ。
「――ひぃっ!?」
背を向けて駆けていたシオンは異常に気付き、振り向き様に情けない嗚咽を漏らした。
その瞳は恐怖の瞬間を映し出し――
『!!!!!!!』
そして、確かに見た。
大幅に離れている筈のシオンの五体が、一瞬で多数に分断されていたのを。
どうやってあの距離から斬ったのか分かる筈もないし、その現象は理解を超えていた。
そして幾多にも分離したシオンの躰だったモノは、即座に凍結し、氷の塵となって辺りに霧散していく。
「…………」
少年はその凄絶な末路を、柄に右手を添えたまま、銀色に輝くも冷めた瞳で見送っていた。
その姿に誰もが思う。声すら出せない。
其処に居るのは紛れもない、美しくも冷酷な死神の姿だと――。