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しかも口では晴永のことを邪見にしながらも、瑠璃香の盛りつけはとても丁寧で、皆が食べる様子を見てやっと自分のものに箸をつける、というのも知っていた。その〝皆〟の中にはもちろん晴永も含まれていて、そういう意味では〝大切にされている〟ようで、ありもしない尻尾を振りたくなってしまう。
(飴と鞭のさじ加減が絶妙過ぎるだろ、小笹!)
瑠璃香にそのつもりはないのかも知れないが、いつも瑠璃香を観察している晴永はそんなことにも気付いていた。
見るとはなしに、そんな瑠璃香のアレコレを眺めながら、晴永は箸を止めた。
(オイ、一個だけ、椎茸のクソデカいのが入ってるぞ!?)
絶対見逃さないであろう巨大な椎茸が、まるで白菜に隠すようにして潜ませてあった。
「課長、どうかしました?」
ふふっ。
そんな笑い声が聞こえてきそうな笑顔を向けられた晴永は、「いや、なんでもない……」と答えながら、巨大椎茸をぐさりと箸で刺した。
バクッと口の中に入れて……鼻を占拠しまくる椎茸特有の香りにギュッと眉をしかめる。
(マズイ……うえに丸のみ出来る大きさじゃねぇ!)
そう思いながらも、何となくやっぱりそれすら嬉しかったりするのだ。
(小笹、あとで手痛いしっぺ返しを食らっても文句は言わせないからな!?)
涙目で巨大椎茸を噛み砕きながら、そんな強がりを心の中で叫んでいる時点で、晴永はすでに瑠璃香に滅法甘い。……のだが、本人にその自覚はない。
「小笹先輩、こういうの、慣れてるんですか?」
新人のひとり――保城常雄が声を掛ける。
自己紹介の際、田貫のカドミくんグッズ自慢で他のメンバーの影が薄めになってしまったけれど、今年企画宣伝部に配属された新入社員は男性二名、女性一名の計三名だ。
瑠璃香の正面に田貫、彼の左隣に保城が座っている。
「慣れてるっていうか、やらないと気になるだけだよ。座ってると落ち着かないの」
保城の質問に照れたように笑う瑠璃香が、可愛い。その愛らしい横顔を見つめつつ、晴永もあわよくば新人らと交流を深めるという名目で瑠璃香と話がしたいのだが。
(椎茸が飲み込めん!)
噛んでも噛んでも飲み込んでいい大きさにならない。
(いっそビールで流し込むか……!?)
そう思いはするのだが、せっかくのビールが椎茸の香りで台無しになってしまうのが惜しくてなかなか決行出来ずにいる。
そうこうしているうちにも、会話はどんどん進んでいくのだ。
「先輩は家でも家事とかすごくテキパキこなしてそうなイメージです。憧れます!」
同じく新人の佐久真理子が話に入ってくると、周りの社員らも、ワイワイ話に入り始める。
「そうそう。瑠璃香ってばお昼もお弁当作ってきてること多いし、本当女子力高いのよ」
瑠璃香と同期の木嶋悦子が言えば、
「……女子力っていうか、節約してるだけだよ」
瑠璃香が、晴永が口に入れたのよりもっと大きい椎茸を美味しそうに頬張ってもぐもぐしながら謙遜する。
(何でそんな美味そうに食えるんだ! 俺はこんなにしんどいのに!)
やっと決意がついて、ビールの入ったグラスを手に持ったところで、フッと席が翳った。
(ん?)
怪訝に感じて見上げれば、でかい男が立っていた。
(日下仁人!)
男の勘。
絶対こいつも瑠璃香のことが好きに違いないと分かっているだけに、晴永としては超絶警戒している人物だ。
そうしておそらくは日下の方も晴永の気持ちに勘付いている。
その証拠。一度だけチラリと晴永を見下ろすと、さも何でもないことのように瑠璃香のすぐ隣――晴永と瑠璃香の間!――にビールジョッキを片手に割り込んできた。
「弁当といえばさー。俺、この前小笹の弁当から卵焼きもらって食ったじゃん?」
それだけならまだしも、あからさまに晴永にマウントを取る発言をぶっ込んでくる。
(日下ぁぁぁぁ!)
だからと言って、別に何か無礼を働かれたというわけではないから、晴永としては心の中で毒付くしかできないのが悔しいところだ。
コメント
1件
可愛いな、はるながさん(笑)