「お、おはようございます。明智さん、神津さん」
「おはよう、小林」
「おはよう、とわ君」
待ち合わせは、神津と初デートをした公園の噴水広場だった。先に来ていた小林は、俺たちを見つけると少し緊張したように挨拶をする。土日ということもあり少し人が多いように感じたが、平日よりも少ないくらいで休日にしては空いていた方だろう。
今日は小林に付き合うということで三人で捜査の続きを行うことになったのだ。
小林は、初捜査に緊張と興奮を隠せずにいるようで、握った拳は上下に振られていた。
「そういえば、とわ君はお母さんに何て言ってここに来たの?」
「お友達と遊ぶからって……他に理由が考えられなくて」
神津の質問に対し、小林は少し後ろめたいとでもいうようにそう答えた。その様子から、嘘をつくのが苦手であり、母親思いの子供なんだと実感する。
小林の髪色は神津と似ているが、翠みのつよい亜麻色の髪に、毛先が茶色と変わった髪で、葉っぱのようなアホ毛が立っている。それが、ぴょこんぴょこんと動く様子を俺は目で追っていた。
「ああ、でも! 携帯あるので、いつでも連絡できます!」
と、小林は何かを思い出したように下げていたショルダーバッグから、翠色の形態を取りだした。しかし、それは俺が見たこと無い形状のもので、スマホともガラケーとも言えないものだった。
「それが、携帯か?」
「はい、キッズ携帯?って言うんです。連絡を取るためだけの携帯で。お母さんが、まだスマホは早いだろうって事で」
そう小林は説明をする。
確かに、スマホを持たせるにはまだ年齢が低いと思うし、かといって一人で外に遊びに行かせるには何もないのでは心細い。小林の親の配慮に感心しつつ、俺は自分のスマホを取り出した。
「おい、小林。俺の電話番号も登録できるか?」
「ちょっと、春ちゃん!」
「お前も登録してもらっとけ。一緒に行動するが、もし危険な事に巻き込まれたり情報を掴んだりしたら、すぐに連絡が取れるようにな。念のためって奴だ」
小林と連絡先を交換することに反対なのか、神津は抗議の声を上げたが、俺はそれを黙殺して、強引に話を進める。
そんな俺たちの様子を見ていた小林は戸惑った表情をしていたが、それでも小さく微笑むと自身の携帯を操作し始めた。神津は不満げだったが、何も言わずに自分のスマホを取り出して小林と連絡先を交換した。
「あの、神津さん」
「どうしたの、とわ君」
「僕、神津さんに聞いて貰うお願い考えたんです。神津さんが明智さんとの関係を答えられたら何でも聞いてくれるって言ってたから」
そう小林はいうと真っ直ぐに神津の目を見つめる。
神津は、どんなの? と面白がるように小林に聞くと、腰を折り、小林の頭を撫でた。
「僕が答えることが出来たら、僕、明智さんの弟子になりたいんです!」
「は?」
「へ?」
思わず漏れた声は俺と神津の口から同時に発せられた。小林は真剣な顔つきで、冗談ではないという雰囲気を醸し出している。
(いや、そう言ってくれるのは嬉しいが、そもそも答えれても願いを聞くのは俺じゃなくて、神津なんだが……)
と、神津の方を見れば、心底嫌そうな雰囲気を漂わせながら、なんで? と頬を引きつらせながら尋ねた。小林はそんな神津の表情には気づかず続けて口を開く。
「明智さんに頼めば良いっていってくれるかも知れないけど、ですけど、それを神津さんが許すかな……と思ったので、まずは神津さんにいいっていってもらわないとって思って」
そう小林は答えた。
何となく俺たちの関係に気づきつつあるのか、殆ど当を得ているような気がして、ほぼ答えをいっているにも近かったが、小林は一日一回のチャンスをその場では使わなかった。
神津は茶化すように、「僕の弟子じゃダメなの?」と聞いていたが、小林は何故か俺が良いと即答した。
「ありゃ、フラれちゃったか」
「お、おい、でも小林は何で俺が良いんだ?」
「えっと、明智さんが格好いいからです!」
小学生らしい答えだと思ったが、俺に格好いい要素があるのか、何処を見て格好いいと思ったのか問い詰めたいところだった。俺はグッとそれを飲み込んで、素直に格好いいと言われたことを喜ぶことにした。
「まあ、弟子にしてやるのは構わないが、まずは正解してからだな」
「はい!」
その元気で素直な返事を聞いて、俺は未来の弟子の頭を撫でた。