TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

「葵、もう寝ちゃった?」


「ね、ねね、寝られるわけないじゃん! 無理だってば!!」


「いや、一緒に寝ようって言ってきたのは葵なんだけど……」


 どうやら返す言葉もないみたいで、葵は少し視線を上げ、真っ赤な顔のままで僕の胸を軽くとんと叩いた。


 今、僕達二人は抱き合いながら、葵のベッドで同じ布団に入って眠りにつこうとしていた。しかし、どうしてなのか。お互いが少し動くたびに聞こえる衣擦れの音や、掛け時計の秒針が進む音。今夜はそれらがやけに大きく感じる。


 それに、『僕と葵しか存在しない世界』だと感じていたものが、僕の中で大きく認識が変わった。


 ここは、二人だけの世界じゃない。


 お互いの心が溶け合った、僕と葵しかいない『一人の世界』だと。


 今日の夕方――初めてお互いの気持ちを確かめ合ってから、つまりは恋人同士になって初めて抱き合った後から、葵が『寂しいから』と言ってきたからこのような状況になった。


 けど、冷静さをギリギリ保ってはいるけど、実は僕も全く眠れなかった。


 理性の針が、静かに限界を越えようとしているから。


 が、葵の方がどうやら僕以上に限界みたいだ。さっきから僕の胸の中に頭を沈めながら、やたらと息を荒くしている。


「ね、眠れないけど……」


「けど?」


「でも、それでもいいやって思い始めてるの。だって憂くん、すっごく温かいんだもん」


 だから、ずっとこのままでいたい、と。葵は胸中を吐露してくれた。


「――そうだね」


 僕も同じように思っていた。伝わってくる、温かくて優しい、葵の体温。それが僕の体全身を包み込んでくれているように感じていた。


 このままずっと時間が止まってしまえばいいのに。葵と心を一つにしたままで。


 でも、それはそれで怖いんだ。


 今のこの時間が幸せすぎて。


(……ん?)


 何だろう。


 葵の温もりとは違う、温かい別の『何か』が僕の胸の辺りに広がっていった。


 そして、その答えはすぐに分かった。


「葵――」


「ひっ……ひっぐ……」


 僕の胸に感じた別のそれは、葵が流した涙だった。一粒や二粒じゃない。とめどなく流れる葵の涙は着ていたTシャツにどんどんと広がっていった。


「ど、どうしたの葵!?」


「こ、怖い……」


「怖いって、何が? もしかして、僕のこと?」


 葵は頭を振り、それを否定した。


「――違うの。幸せだから、怖いの」


 僕と全く同じだ。


「私ね。ずっと、ずっと、憂くんとこうやって二人でいたいって思ってたの。夢だったの。でも、それが叶っちゃったら、今度はそれが、いつか壊れちゃうんじゃないかって。怖くて、怖くて、幸せなの」


 僕の服をギュッと強く握り締めながら、葵は涙を流し続けた。


 そっか。葵も僕と同じように感じてくれてたんだ。


 幸せだからこそ、幸福だからこそ、それを失った時のことを考えてしまうんだ。


(結局、僕も葵も似た者同士ってことか)


「ゆ、憂くん?」


 僕は優しく葵の頭を撫でてあげた。涙が止まるまで。安心できるまで。いつまでも撫でてあげようと思えた。


「落ち着く……」


「良かった」


「ずっと、このままがいい」


 僕は何も言わないまま、葵の頭をそっと抱き寄せた。


 何故だろう。さっきまで僕も葵と同じように怖いと感じていたはずなのに、今は完全にそれが消えている。


 やっぱり僕と葵は、もう『一人』なんだ。葵が落ち着けば、僕も落ち着く。


 恋人になるってこういうことなんだと、初めて気付かされたよ。


「ねえ、葵。よくさ、形あるものはいつか壊れるって言うじゃん?」


「……うん。そうだね」


「でもさ、思うんだ。好きだとか、恋してるとか、そういう感情って、そんな簡単に壊れちゃうものなのかな? 想いに形がないからってわけじゃなくてさ」


 胸に頭を埋めながら、葵は黙ったまま僕の話を聞いてくれた。


「僕は違うんじゃないかって思うんだ。きっと、壊れない。、そう簡単には。だってさ、僕達ってそれこそ何年もずっと繋がってたんじゃん。心を重ねてきたんじゃん。長い間、ずっと。それって、そう簡単に壊れちゃうものだとは思えないんだ」


「そう、なのかな……」


「うん。だと思う。僕も初めてだから偉そうなことは言えないんだけど。でも、きっとそうだと思う」


 葵の心の時計の音が、そこで途切れた気がした。壊れたわけでも、止まったわけでもない。きっと、何かが振り切れたんだと思う。


 葵の心の中で。


「――憂くん」


「どうしたの、葵」


 葵は僕の胸から離れ、そして僕の目をしっかりと見つめた。涙目のままで。


 そして――


「憂くん。私に、勇気をください」


 薄暗い部屋の中にそう言葉を残して、葵は僕に顔を近付けて、僕の唇にそっと重ね合わせた。


 あの時の夜とは違う感覚を覚えた。


 柔らかくて、温かくて、優しい葵の唇。だけど今の葵からはそれだけじゃなく、別の感情が心に染み込んでくる。


 葵の、『一欠片の勇気』が。


 小さな小さな一欠片だったとしても、それらをたくさん一緒に集めていけば、それはきっと大きな勇気よりも、ずっと強くて壊れないものになる気がする。


 それを想いで伝えよう。


 言葉ではなく、重ね合った僕の唇から。



『第20話 一人の世界』

 終わり


【作者より】

 いつもお読みくださりありがとうございます!


 ちょっとここ数話、ずっとこんな感じだったので、少なくとも次話はコメディ調に戻そうと思います。単純に、僕がコメディ調を強めたものを書きたいだけかもしれませんが(笑)。


 今後とも、『幼馴染の陽向葵はポジティブがすぎる』をよろしくお願いします!

幼馴染の陽向葵はポジティブがすぎる 〜ネガティブ男子がポジティブな美少女幼馴染を振り向か

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

0

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚