テラーノベル
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「合奏始めます。 」
ガサガサと楽譜や椅子をセッティングする音が響く音楽室で、指揮台に立つ桐島先生が指揮棒を持って目の前の譜面台をカンカンと鳴らした。
「小柴さん、号令お願いね。」
「起立!」
小柴先輩の号令で一斉に部員が立ち上がった。
「お願いします。」
『お願いします!』
狭く広い空間に活気な声が溢れた。
「はい、よろしくお願いします。堀さん、チューニングお願いね。」
先生から見て左斜め下に座っている黒髪ロングヘアの女子生徒に目配りをすると、楽器を構えマウスピースを口にくわえた。彼女がゆっくり深呼吸をすると、息を入れ楽器からチューニングのBを奏でる。
彼女が後ろの方に目配りをすると、それを合図に、一斉に吹き始めた。チューニングが合うように、先生がキーボードの電源を入れ、チューニングのBを出した。
音程が合うと、顔の斜め上にグーを作り、止めの合図をした。
「ロングトーンいきます。」
『はい!』
ロングトーン、スタッカートが終わるとあっという間に曲に差し掛かった。
「本番まであと1ヶ月程なので、途中で修正入れながら通しやります。」
『はい!』
「音色の彼方やります。」
『はい!』
先生は手元の指揮棒を構える。それに合わせて、一斉に楽器を構える。指揮棒を振り出すと、まずグロッケンのソロ、その後にクラリネットのソロ、以前合奏で指摘されて以降、ソロを吹く先輩は、体を少し揺らしていた。その次に、トランペットの2人が息を合わせて同じリズムを吹く。その後、私たちのメロディーとトランペットの伴奏で曲の形を作り出していく。
曲が終わると、先生は少し顎をクイッとさせ、譜面台に置いてあったメモ帳の1枚を取り出し書き込みをした。
「23小節目のところ、メロディーが少し小さい気がします。トランペットは今のでよく聞こえています。今の音量を維持してください。 」
『はい!』
トランペットの2人の先輩が返事をした。
「1回23小節目からメロディーだけ、お願いできますか?」
『はい!』
わんつーさんしー、先生のカウントでメロディーの人たちが一斉に吹き始める。
メロディーが終わると、先生は止めの合図を出した。
「木管全般もう少し音量出せますか?少し音が小さい感じがします。」
『はい!』
木管たちは指摘されたところをシャーペンで書き出した。
「もう一度いきます。」
『はい!』
指揮棒が振られ、先程のメロディーの人たちがもう一度音を奏でた。
「うんうん、さっきよりは良くなってますね。楽譜にはmf(メッゾフォルテ)と書いてありますがf(フォルテ)にしてください。」
『はい!』
そして再度、演奏を再開させると、先生の止めの合図により、2曲目に移った。
「次、インヴィクタ序曲いきます。」
『はい!』
楽譜を1枚めくり、インヴィクタ序曲と書かれた楽譜に目を通す。所々に文字が書かれていて丸っこい文字があちこちに散らばっている。
「では、いきます。」
指揮棒を構えると同時に一斉に楽器を構える。指揮棒が振られると金管と木管が一斉にメロディーを吹き出す。コンクールでよく演奏されるこのインヴィクタ序曲は、華やかなメロディーで、かつ楽器の特性を活かし、演奏すると、めちゃくちゃかっこいいのだ。
曲の中盤に差し掛かるところで止めの合図が入った。
「頭の部分、パーン、パッパパーンパーンのリズム吹いてる方、入りがずれています。木管は指揮棒を振ったタイミングでブレスを行い、金管は少し早めに音を出すことを意識するなどして、入りを合わせてください。」
『はい!』
「頭の先程言ったリズムある人だけやります。」
『はい!』
指揮棒が振られ、ブレスを行うと、入りが合うようになった。入りが合うと先生は笑みを浮かべた。
「入りが合いましたね。忘れるかもしれないので、感覚を覚えておいてください。それと、同じリズムの人達と組んで合わせの練習もやるようにしてください。」
『はい!』
「それでは、1度休憩に入ります。各自、先程言ったところを復習しておいて下さい。」
『はい!』
休憩に入ると、合奏で指摘された部分を早速吹き出す音や、パートで仲良くワイワイ話している声で溢れていた。
「真由ちゃん!」
肩を叩かれて後ろを振り着くと、松山先輩が立っていた。
「松山先輩、お疲れ様です。」
「おつかれぇぇい!!にしても、合奏めんどくさいよね。インヴィクタ序曲のさ入り、先生は入りあってないとか言ってたけど、私的には入り合ってるように聞こえたんだけどな。先生厳しすぎだよぉ!」
松山先輩の愚痴に私は苦笑した。
「でも、良くなっているのですから、私は凄くありがたいなと思ってますよ。」
「そかそか、そうなんだ!あー!!真由ちゃんはよっぽど先生が好きなんだねぇ。」
「好きではないですよ笑」
「えー、そうなの?まぁ、先生は厳しいけど、合奏では結構上手くやってるのよね。細かいミスも指摘するから、流石桐島先生よね!」
松山先輩が白い歯を出してニカッと笑った。
「そうよ。松山さんは人のことを褒めるのが好きなのよね。」
背後から突然先生の声が聞こえたものだから、驚いて振り返ると、人差し指を顎に当てる仕草をする先生が立っていた。
「せ、先生!いつからいたんですか?」
「そうね、松山さんが我妻さんのところに行くところかしら。」
「うわぁ、やっべ。先生に悪口聞こえてたかな。」
「ふふふ、松山さんは人のことを褒めるのが上手ですものね。」
「あー、アハハハ。すみません、悪口を言ってしまって。」
「別にいいですわよ。松山さんが指揮やってみるかしら?」
「いえいえ、ダイジョウブデス。先生の指揮の方がよっぽど上手いですよ!!」
「なんでカタカナ!笑」
先輩の話し方につい私はツッコミをしてしまった。
「ふふふ、やってくれても良かったのに笑」
「遠慮します…。」
「ふふ、2人とも、練習頑張ってね。」
とウィンクをして見せた。
「いやぁ、先生怖かったなぁ。HAHAHA」
「先輩が先生の悪口言ったからですよ。」
「ごめんよ後輩ちゃん。よっしゃぁ、練習やるかぁ!!んじゃまた後でね真由ちゃん!」
先輩が私に手を振り出すので、私も手を振った。
「あんな厄介面倒ひかるちゃんがごめんね。笑」
隣で吹いていた小柴先輩が私に向かって微笑みかけた。
「すごい名前ですね笑」
「あの子ったらね、ほんとに明るい性格だから、私達もすごく困っちゃうのよ笑」
「はは、そうなんですね。」
「真由ちゃん、仲良くしてくれてありがとうね。松山さん、あの性格でありながら、めちゃくちゃ人を大切にする人だから。」
「なるほど。」
「だから、真由ちゃんが入ってきた時、めちゃくちゃ話しかけられたでしょ?真由ちゃんすごく話しやすいって言ってたよ。松山さん」
「ほんとですか!ありがとうございます!」
「お礼は松山さんに言っておきなよ。さて、そろそろ練習再開せねば。」
「私も頑張ります!」
「うんうん。」
小柴先輩との話が終わると気づけば合奏再開の数分前になっていた。楽譜を見て、 先程の合奏で指摘された部分は、星マークやチェックのマークで書かれておりそれらを見ながら練習に移った。
「合奏を終わりにします。」
先生が小柴先輩に目配りをする。
「起立。」
「ありがとうございました。」
『ありがとうございました!』
「はい、ありがとうございました。」
「ミーティング行います。フルート……。」
合奏終わりミーティングが始まると、部活の始まる時のように、各パートのリーダーがいますなどと言っている。
「先生、お願いします!」
「はい、今日は2曲を演奏しましたが、だいぶ良くなっています。本番まで1ヶ月と少しなので、その間に細かいところ詰めていきます。まだ、本番まで1ヶ月あると言って油断してると時間があっという間にすぎるので、すぐに本番が来てしまいます。油断しないように。」
『はい!』
「明日はお休みなので今日はゆっくり休んでくださいね。」
『はい!』
「小柴さん、ミーティング終了の合図を。」
「はい!起立。」
「ありがとうございました。」
『ありがとうございました。』
「気をつけて帰ってくださいね。 」
『はい、ありがとうございます!』
部活が終わると、今日はどこに寄り道するだの、勉強会しようぜだの会話が聞こえてくる。
「真由ちゃん!おつかれぇぇ!!」
「お疲れ様です、松山先輩。」
「本番まで1ヶ月なんて、早いねぇ。」
「そうですね。」
「練習の方はどう?」
「まぁ、何とかやれてます。」
「真由ちゃん、音は出てきてるからあとは自信を持って吹くことだね!」
「はい。」
「よっしゃぁ、お互い頑張ろうぜい!」
「はい!」
「それじゃ、私は帰りますわぁ。」
「さようなら。」
「バイバイ!」
「真由ちゃん、お疲れ様。」
「小柴先輩、お疲れ様です。」
「来週から頑張ろうね。」
「はい。頑張ります……。」
「大丈夫だよ!気楽に行こう!」
「わかりました。」
「それじゃ、また、来週ね!」
「さようなら。」
「バイバイ。」
「我妻さん、お疲れ様です。」
「先生!お疲れ様です。」
「今日はゆっくり休んでね。」
「どうも、お気遣いありがとうございます。」
「音楽室鍵閉めるから、早く出てちょうだいね。」
「わかりました。さようなら」
「はいさようなら。気をつけてね。」
「はい、ありがとうございます。」
終わり!
コメント
2件
です。
今日は、比較的音楽用語があったりして、とても面白かった