テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
麗太
#女主人公
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
カイトが村に残る選択をした翌日のこと。
朝食を終えた直後、村長宅に村人が飛び込んできた。
「大変だ村長!」
「どうしたんじゃフリオ。朝っぱらから騒がしい」
フリオと呼ばれた男は構わず声を荒らげる。
「ソノマ村が魔物に襲われた!」
「なんじゃと!?」
「ソノマ村というのは?」
カイトは、近くにいたハンスに問うた。
「ここから西にある小さな村だ」
ハンスが言った。
彼の説明によると、アルヒ村と同じくらいの規模の村らしい。
フリオは慌てふためきながら続ける。
「さっき冒険者がやって来て、ソノマ村が襲われたと教えてくれんだ。村人たちが応戦してるが、数が多すぎるらしい……。それで、たまたま滞在していた冒険者が、魔物の包囲網を抜けて、アルヒ村に助けを求めに来たんだ」
「なるほど……!」
村長は神妙な表情で頷いた。
「すぐに救援に向かわせよう。ハンス、カイト殿、頼めるだろうか」
「おうよ」
ハンスが言った。
「無論です」
カイトも間髪容れずに応じた。
カイトとハンスは準備を整え、村の入口に向かった。
村の入口には、武装した人たちが集まっていた。以前、狩りに参加していた人たちだ。彼らもソノマ村の救援に協力してくれるようだ。
アルヒ村の腕自慢たちなので、戦力としては申し分ないだろう。
また、見送りのために多くの村人も集まってきた。
不安げな表情を浮かべるもの、激励を送るもの、抱きしめ合うもの──その中に、タニアの姿を見つけた。
彼女は人だかりをかき分け、カイトに駆け寄ってきた。
「カイトさん……」
タニアは不安げな表情でこちらを見てくる。
カイトは、彼女を安心させるために微笑んだ。
「心配しないでください。すぐに帰ってきますよ」
しかしながら、効果はなかったようだ。
タニアは視線を逸らし、俯いてしまう。
「……お兄ちゃんが死んだときも、別れ際、同じことを言ってました」
カイトの口の中に苦いものが生じる。
彼女にとってこの状況は、かつて経験した最悪な記憶を想起させるものなのだ。
それでもカイトとしては、言える言葉はただ一つだ。
「絶対に帰ってきます」
タニアは、すがりつくような眼差しを向けてくる。
「本当に、本当ですか?」
「本当に本当です。必ず帰ってきて、タニアさんのそばにいます」
そこまで言うと、彼女はやっと微笑を浮かべて頷いた。
「約束ですよ」
「はい、約束です」
踵を返し、村を出ようとしたそのとき。
「ガウッ」という鳴き声が聞こえた。
振り返ると、モフモフが駆け寄ってきた。
カイトは、モフモフを撫でてやりながらも、真剣な眼差しで見据える。
「モフモフ。お前はここに残るんだ」
モフモフの表情は、悲しげなものになった。
普段はピンとしている耳や尻尾も垂れ下がる。
クンクンクン、と不満げな鳴き声も出す。
「アルヒ村を守るのも、立派な仕事なんだぞ」
カイトが語りかけると、モフモフは鳴くのをやめた。
「村のみんなを守ってくれ、モフモフ」
モフモフは人間のように頷き、
「ガウッ」
と元気な声を出した。
それを確認し、カイトは頷く。
やはりモフモフは賢い魔物だ。
「よし、出発だ!」
ハンスが高らかに宣言すると、みな鬨の声を上げ、アルヒ村から旅立った。
* * *
ソノマ村が見えてきたのは、昼前のことだった。
遠目から見ていたときも奇妙な感じがしたが、近づくにつれてその違和感は大きくなっていく。
魔物の襲撃を受けているにもかかわらず、異変が感じられないのだ。
村の外観はいつもどおりだし、悲鳴や泣き声なども聞こえてこない。
村の中に入ると、ハンスは、
「どういうことだ……」
呆然とした声を上げた。
カイトや他の者も、みな同じ胸中だったことだろう。
村の様子が、平穏そのものだったからだ。
家畜に餌をやる男、世間話をする女たち、遊び回る子ども……。
魔物の襲撃などなかったかのように、日常風景が広がっているのだ。
無論、それは良いことではある。
しかし対照的に、カイトの胸中に暗雲が立ち込めた。
カイトらに気づいた男の子が、こちらに近づいてきた。
「おじちゃんたち冒険者?」
「あ、ああ」
代表してハンスが答える。
「村が魔物に襲われたと聞いたんだが……」
「魔物?」
男の子は首を傾げた。
「そんなの来てないよ?」
ハンスはみなに意見を求めるように振り返った。
カイトは、はっとした。
「これは罠だ……!」
みながざわついた。
「アルヒ村の中でも腕が立つ者たちをおびき出し、アルヒ村を襲おうって計画かもしれない!」
「そんなバカな!」
ハンスが言った。
「アルヒ村なんて何もない田舎村だぞ! そんな手の込んだことをするなんて……」
「目的はわかりません。しかし現状、アルヒ村が無防備なことに変わりありません。すぐに戻りましょう!」
カイトたちはすぐにアルヒ村に向かって駆けだした。
(タニアさん、どうか無事で……!)
そう祈りながら、カイトは全速力で街道を駆けた。