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麗太
#女主人公
ソノマ村が魔物に襲撃されたという情報は、真っ赤な嘘だった。
これはおそらく、アルヒ村から腕の立つ者たちを遠ざけるための策略ではないか──そう考えたカイトたちは、急いでアルヒ村に戻った。
アルヒ村が見えてきた。
どうか杞憂であってくれと強く願ったが──その思いはすぐに打ち砕かれる。
村から悲鳴が聞こえてきたからだ。
カイトたちが駆けつけると、村の中で魔物が跋扈していた。
緑色の醜悪な化け物、ゴブリンである。大きさは人間の子どもくらいだが、数が多い。
しかもそれぞれが斧や短剣などの武器を持っている。
ゴブリンの何匹かが、カイトたちに気づいた。
奇声を上げて向かってくる。
カイトはすぐさま剣を抜いた。
目にも止まらぬ速さで剣を振るい、ゴブリンたちをあっという間に屠っていく。
「すげぇ……」
背後から驚きの声が聞こえた。
カイトはすぐに振り返り、叫ぶ。
「みなさん! 手分けして救助を!」
彼らはすぐにハッとした表情になり、
「お、おう!」
と言って駆けだした。
カイトは、タニアの家に向かった。
その道中もゴブリンが襲ってくるが、カイトの剣技の前では無力も同然だった。
カイトや、救援隊に参加した村人ならば、ゴブリンなど敵ではない。
しかし問題は、アルヒ村に残った人たちである。
みな簡単な魔法を使えるらしいが、それが実戦でどれだけ役に立つかは不明である。
(どうか無事で……!)
タニアのことを思いながら全力疾走した。
まもなく、彼女の家が見えてきた。
家の前には、タニアとモフモフがいた。
彼らをゴブリンの集団が取り囲んでいる。
モフモフは、孤軍奮闘していた。
迫りくるゴブリンたちを爪で切り裂き、頭や胴体を噛み砕く。
圧倒的な強さだったが、やはり数が多すぎる。
モフモフの銀色の体毛が、所々赤黒く染まっていた。
カイトの中で何かが弾けた。
全身がかっと熱くなり、凄まじい力がみなぎってくる。
カイトはさらに加速し、ゴブリンの集団に飛び込んだ。
湧き出る力を剣に込め、力の限り振るう。
ゴブリンたちを紙切れのように斬り結んでいった。
「カ、カイトさん!」
「ガ、ガゥ……!」
カイトは振り返り、
「大丈夫ですか!?」
一人と一匹の無事を確認する。
「あたしは大丈夫です! でもモフモフが怪我を……!」
カイトはモフモフに近づき、身体を検めた。
所々切り傷があるものの、分厚い毛皮のおかげで重傷ではないようだ。
「偉いぞ、モフモフ。お前は立派だ」
「クンクンクーン」
モフモフはカイトの顔を舐めてきた。
この様子なら大丈夫だろう。
カイトは気持ちを切り替え、周囲を見回した。
(それにしても、いったいなぜアルヒ村が襲撃されたんだ……?)
そのとき、空を切り裂くような音がした。
カイトはすぐに戦闘態勢に入る。
が、迫りくる何かを視認できない。
その刹那。
「きゃああああ!」
タニアの悲鳴が響いた。
はっとして振り返ると、そこにタニアの姿はなかった。
彼女をさらった者は、空中にいた。
ぱっと見は、二十代くらいの成人男性である。
黒色の短髪で、顔立ちは非常に整っている。ただ、肌は病的に白く、耳は鋭く尖っていた。
大きく人間と異なっているのは、背中にコウモリのような羽が生えていることだろう。
ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべるその口元からは、肉食動物のような鋭い牙がのぞいている。
男は、タニアの身体を片腕で掴んでいた。
「ひ、ひぃ……」
タニアは恐怖から青ざめ、身動きもできないようだ。
カイトは男を見据えて言った。
「お前……魔族だな」
自然と出てきた言葉だった。
魔族……という存在、概念は、カイトの記憶にはない。
だが脳の深いところに、それらに関する情報が眠っていたのだろう。カイトは、違和感なくそれを口にすることができた。
空を飛ぶ男は、不快な笑みを浮かべカイトを見下ろしてきた。
「へえ、魔族のことを知ってるのかい。僕たちが表舞台から姿を消して長いけど、知ってる人は知ってるみたいだねぇ」
「冒険者に化けて俺たちを騙し、村から遠ざけたんだな」
「そう。こんな田舎でも、腕の立つ者がいるだろうしね」
「なぜアルヒ村を襲った」
「色々と理由はあるけど、一つは若く美しい乙女を集める必要があってね。こんな田舎にいる可能性は低いけど、この子は中々の上玉だ。足を運んだかいがあったよ」
そう言って、男はタニアの頬をそっと撫でた。
男の爪は鋭く尖っており、少しずれればタニアの顔に傷がついてしまうだろう。
カイトは内心で舌打ちしつつ問う。
「目的は何だ」
「あのお方の崇高な考えは、きみのような野卑な人間には理解できないさ」
「あのお方……?」
「言ったところでわからないさ。さて、あのお方がお待ちかねだからね。そろそろおいとましよう。じゃあね、人間」
男がこちらに片手を向けてきた。
瞬間、身の毛のよだつような寒気が全身を襲った。
とっさにカイトは横に跳んだ。
刹那、激しい衝撃音が響く。
見ると、カイトが立っていた場所に氷の刃が突突き刺さっていた。
「へえ、僕の魔法を避けるなんて、やるねぇ」
魔法の発動は速いが、避けられないわけではない。
だが、どうやって奴に攻撃すればいいか……。
カイトが思案していると。
「ガウッ!」
モフモフが吠え、魔族の男に跳びかかっていった。
モフモフの脚力は強靭で、たしかに空高く跳ぶ魔族にも届いた。
しかし届きはするものの、相手は悠々とかわした。
「お前は銀色ノ狼か。魔物のくせに、人間に肩入れするのかい。──気に入らない」
男はモフモフに右手を向けた。
「モフモフ逃げ──」
カイトが叫びかけたそのとき。
空中に出現した氷の刃が、モフモフに迫る。
モフモフは後ろに跳ぶことで避けていったが、
「甘い!」
男が叫ぶと、背後にも氷の刃が出現した。
「ギャン!」
モフモフの後ろ足に刃が突き刺さった。
それでもモフモフは怯まない。
片足を釣りながらも、敵に向かおうとしている。
「さすが銀色ノ狼だね。その闘争心は誉れ高い。だが人間に飼いならされ、家畜に成り果てたお前に僕は倒せないよ」
男は再び右手をモフモフに向けた。
無数の氷の刃が出現し、モフモフに飛んでいく。
カイトはモフモフの前に躍りでた。
降り注ぐ刃の雨を切り払っていく。
だが、あまりにも数が多い。
「ぐっ……」
刃の一つがカイトの利き腕に命中した。
これでは満足に剣を握れない。
「人間にしては中々強かったよ。楽しませてもらったけど、もうおしまいだ。さて、きみはどんな断末魔を響かせてくれるかな」
男は再び右手をこちらに向けてきた。
空中にいくつもの氷の刃が生成される。
「カイトさん!」
タニアの悲痛の声が響いた。
(このままじゃやられる……!)