子供組3人は合鍵を使って悠佑の家へと入った。
やはり、帰宅している様子は見られない。3人で家中を見回ったが、部屋のデスクの上のコーヒーは乾いてマグカップにこびり付いていたしリビングのテーブルにあったメロンパンは賞味期限が切れた状態でそのまま置きっぱなしになっていた。
「やっぱりいないか…」
一旦リビングに集まる。
「で、りうちゃん。何がおかしかったのか、わかった?」
ほとけが期待のこもった目でりうらをみつめる。
「んー…」
首を傾げるりうら。一生懸命あの日の自分の行動を思い返しているようだ。
邪魔しないようにと、初兎はりうらの側を離れキッチンへと移動した。
悠くんの家に遊びに来たら、いっつも
美味しいもの作ってくれるんだよな。
そんなことを考えると、ツンと鼻の奥が痛くなる。
いや、悠くんは絶対戻ってくる!
また食べられるよ!
頭を強く振って何とか涙を止めた。
「…ヒュッ」
りうらが息を飲む音が聞こえた。
「りうちゃん?」
ホトケの声も続く。
見ると、りうらが青い顔をして一点を見つめていた。
「どしたん、りうちゃん?」
声をかけると、りうらが震える手で壁にかけてある額を指さした。
「絵…?悠くん、こんなの飾ってたっけ?」
「この前来た時、飾ってあった…。でも、違うんだ。」
「違う?絵が入れ替わってるってこと?」
「ううん、この絵だよ。」
真ん中に湖。そして、2人の人物が描かれていた。
「悠くん?」
手前に描かれていた毛先が黄色の長髪をなびかせている人物。後ろ姿だが、これは紛れもなく悠佑だった。
「なんや、ファンからの贈り物とかかな?」
「それよりも。…この子…」
りうらが指さしているのは、もう1人の人物のほうらしかった。
「あの日、りうらはこの子と目が合ったんだ。」
「え、絵の中の子と?りうちゃん、それはちょっと…」
「そんな訳ないってりうらも思ったから気になったけど思い出せなかったんだ。
でも、やっぱりあれは気の所為とかじゃなかったんだ。だって」
ごくり、と唾を飲んだ。
「湖の中にいたはずなのに、今は陸に立ってる。こっちに、アニキに近づいて来てるんだ。」
いろんな歌を歌った。少女はどの歌も嬉しそうに聴いてくれた。
最初は静かな、この場所に相応しい歌を選んでいたが、ねだられて歌った激しい歌も少女を喜ばすことが出来た。
歌に疲れたら、2人で湖な足をつけながら会話を楽しんだ。
相変わらず微笑むだけだったが、少しづつ頭に響く声も多くなってきた。
「君は、いつも何してるの?」
風の音を聞いたり、花を摘んだり。
「1人で?」
ここに私以外の生き物はいなかった。
「寂しくない?」
今は、あなたがいる。
「そっか。俺は1人が好きやけど、やっぱり仲間と騒ぐのも好きやな。」
仲間…
「そう、俺には大事な仲間…が…あれ?」
変だ。家族みたいに大切なはずの仲間の顔が思い出せない。
私は、あなたがいればいい。
その綺麗な歌を聞かせてくれたら、それで。
「そ…か。ありがとうな。それならまだまだ歌ってやるからな。」
悠佑がそう答えると、少女は嬉しそうに笑った。
ま、いいか。今はこの子のために歌を歌おう。
俺を必要としてくれている、この子のために。
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