「………」
ないこの家。テーブルの上にある小柄な額を、みんなで囲んでいた。
悠佑の家で見つけた湖が描かれた絵。悠佑が描かれ、そして-
「絵の中の女の子が動く…?」
なんとも言えない表情で、ifが聞き返した。
「信じられないよね。でも、本当なんだ。本当にこれ、前は湖のなかにいたんだよ。」
初兎の後ろに隠れるようにして、りうらが震える声で訴える。
「まろとアニキの家に行った時感じた違和感。なんであの時すぐに気がつかなかったんだろう。今考えたら、絶対おかしいって分かるのに。」
「…でもあの時はもうアニキはいなかった。思い出してくれただけでも偉いよ。」
ホトケは俯いたりうらの頭を優しく撫でた。
絵が動くなんて、にわかには信じ難い現象だ。しかもひょっとしたら悠佑がいなくなったことに関係しているかもしれない、言ってしまえば怪奇現象の原因かも、なんてこんな非現実的なこと、なかなか受け止められない。
しかし元々度胸が座っていることでお馴染みのりうらのこの怯え様をみて、信じないやつなんているわけがなかった。
「で、この女の子はアニキに近づいて行ってる、と。」
「うん。りうらが見た時は腰まで浸かってて足なんて見えなかった。この5日間で、湖から出てきたんだ。」
「……」
こういう時はどうするのがいいのか。社会にでて働いているifやないこは普通のトラブルは多く経験している。そういう対処法なら思い浮かぶがこんなことは初めてだ。まず何をすればいいのか全く分からなかった。
「…ねえ、これ、また動いてない?」
「え…?」
初兎の言葉に、みんなの目が額へと向かった。
「そう?動いてるようには見えないけど…」
「いや、女の子やなくて、悠くんのほう。さっき見た時よりも、進んでない?」
慌てて目をこらすりうらとホトケ。
今まで背中しか見えてなかったはずの悠佑の後ろ姿が、確かに今はズボンの後ろポケットまで見えていた。
「悠くん、連れてかれようとしとるん?」
その場にいた全員の、血の気が引く音が聞こえるようだった。
「アニキ…っ!」
……?
いま、何か聞こえたような…。
悠佑は、空を見上げた。雲ひとつない青空。耳をすましてみるが聞こえてくるのは風にそよぐ草木の音と湖の水音だけ。
気のせいか…。
少女の方へ向き直す。相変わらず穏やかな顔でこちらを見ている少女。
ここへ来てどのくらいたっただろう。
今悠佑はとても満たされていた。自分と少女の2人しかいない世界。まわりの煩わしい音は一切聞こえない。お互いがいれば、それだけで満足できる。
ずっと、このまま永遠に居られたら。
「……?」
だが、頭の隅でそれはダメだという警報がなっていた。
何故ダメなのだろう?別にもう、今までの生活に未練はない。そう、ない、はず。
『 本当に?』
ない。ないよ。だって、今までは…………
今まで…は?自分は、今までどんな生活をしていたっけ?
そもそも、俺って、誰だっけ………?
「…ま、いいか。さ、じゃあ次は何を歌おうか?」