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💛←💚←🖤のお話。微🔞
🖤side.
俺の好きな人には、好きな人がいる。
自分の気持ちに気付いたのは、滝沢歌舞伎で阿部ちゃんと男と女の舞をやった時。
最初から綺麗な顔立ちだと思っていたが、本番同様の稽古があった日、初めてちゃんと化粧をして、着物を着て、女形として登場した阿部ちゃんに言葉を失った。
見惚れてしまった。
俺の目の前に立って、俺を見上げる阿部ちゃんは、本当の遊女のように儚く美しい人だった。
「……どうかな」
少し照れたようにはにかんで、くるりと回ってみせた阿部ちゃんに、ハッとして大きく頷いた。
「すっごく…綺麗…!!」
「そう?良かった」
ふふ、と笑って、佐久間くんの方に駆け寄っていく後ろ姿を見て、口元を手で覆った。
自分でも驚く程に心臓が高なっていて。
あの状態の阿部ちゃんと、キスをするフリをしなければならないのかと思うと気が気ではない。
練習でも少し緊張していたが、いざ女形姿の阿部ちゃんを見ると本当の女の人みたいだった。
腰を引き寄せて、角度を変えて、本当にキスをしているかのような距離で止まる。
横で同じように舞を踊るしょっぴーと、もうひとりの女形役の佐久間くんが踊り終えるまで。
吐息がかかるほどの近く、阿部ちゃんの視線がずっと俺を見ていた。
吸い込まれそうな瞳が、紅が引かれたその唇が、思わずそのままキスをしてしまいそうになるほど魅力的で。
そんな舞を舞台中は何回も繰り返して、その度にドキドキして、気付けば目で追うようになっていた。
だけど、追えば追うほど、自分の気持ちは届かないと思い知らされる。
阿部ちゃんの目線の先は俺ではない。
加入してきた俺よりもずっと長く一緒にいる相手だ。
「照」
稽古を終えて、まだ女形姿から化粧を落としてない阿部ちゃんが、廊下にいた岩本くんを見つけて呼び止めた。
嬉しそうな顔をして、岩本くんの隣に立って、何かを話して、それから岩本くんが阿部ちゃんの頭を撫でた。
目を細めて口角を上げている阿部ちゃんは、本当に岩本くんが好きだと分かる顔をしていて。
だけど岩本くんは、そんな事にすらきっと気付いていない。
阿部ちゃんもそれは分かっている。
だけどきっと、俺みたいに諦められないでいる。
だから奪いたくなった。
弱みにつけ込んだとしても、一瞬でも俺を見て欲しくて。
阿部ちゃんが少しでも俺を求めてくれて、縋ってくれるならなんでも良かった。
ただその視界に、思考に、隙を作りたかった。
演じるのは得意だから、上手く取り入るために言葉巧みに誘い込んで。
「照はね、ふっかが好きなんだよ」
カラン、と氷がグラスの中で回る。
指先でグラスを揺らせば水面が波打って。
バーカウンターで隣同士座って、阿部ちゃんが遠くを見つめながら口を紡いだ。
練習が終わって、次の日がオフだという日に、渋る阿部ちゃんを無理やり誘って飲みに来た。
少し雰囲気のいいバーにふたりきり。
周りにもチラホラ客はいるが、ムーディーな音楽に酔いしれて、誰も俺らの事に気付いてもいないし、話を聞かれることもない。
髭を生やしたバーテンダーが、気を遣って少し離れたところでグラスを拭いていた。
「気付いてた?」
ほろ酔い状態の阿部ちゃんが、口元を緩ませたまま俺を見た。
その瞳の奥、少し寂しげな表情で。
俺は持っていたグラスを置いて、首を横に振った。
それから、グラスを持ったままの阿部ちゃんの手に、自身の手をそっと重ねて。
「俺が見てるのは阿部ちゃんだけだから」
「上手いなぁ…めめ。ダメだよ、こんな俺に惚れたら」
「なんで?」
「俺が好きになるのは、照だけだから」
辛いくせに、いつもみたいにあざとい笑顔を見せて、俺を突き放す。
自分が叶わない恋をしているからって、俺まで諦める理由なんてないのに。
重ねた手が震えてること、バレてないとでも思ってる?
流されてよ。
ダメだってわかってるけれど、俺はズルい男だから、阿部ちゃんの為なら都合のいい男にでも成り下がる。
「辛くないの」
「……そんなの、めめが一番分かってるでしょ」
「分かってるから、つけ込んでるんだけど」
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「ズルいなぁ…」
「俺はそういう男だよ」
阿部ちゃんの手からグラスを奪い取って、残った酒を煽った。
そのまま、阿部ちゃんの頭を引き寄せてキスをした。
少し開いた隙間から口に含んだ酒を流し込むように、舌もいれて。
驚いた阿部ちゃんがドンッと胸を叩く。
でも無理に離れようとしないのは、俺に同情してるからなのか。
段々と下がっていく眉と、閉じた瞼の先で睫毛に乗った涙に余計に煽られた。
「……俺の部屋来てよ。岩本君だと思っていいから」
最低だって阿部ちゃんが言った。
そんなのお互い様だと言いかけて、阿部ちゃんの手を引いて足早に帰宅した。
その日初めて、俺は阿部ちゃんを抱いた。
目を閉じたまま痛みに耐えて、震えながら岩本くんの名前を連呼してた阿部ちゃんは、俺の手でイカされて。
抱きしめても抱きしめ返さなかった。
指先はずっとシーツを掴んだまま、その瞳は俺を映すこともなく。
「照…ッッ…ぁ、あッ、照…ッ!!」
「……阿部ちゃん…好きだよ」
「んッ…」
虚しさが募るだけの愚かな行為。
だけど寂しさは埋まっていく。
軋むベッドが激しさを増して、悲しい音を立てて部屋に響く。
常夜灯のオレンジの灯りの下、乱れて髪の毛を振りながら、ぐしゃぐしゃになってる阿部ちゃんを見下ろすのは気持ちが良かった。
行為が終わって、簡単に身体を拭いて服を着る。
Tシャツを頭から被って腕を通していたところで、まだ痛みと余韻でベッドに横たわってる阿部ちゃんが、ごめん、と呟いた。
「なんで阿部ちゃんが謝るの」
「…めめはそれでいいの」
「俺が言い出したことだよ」
「……そう」
近づいて、うつ伏せでベッドに沈む阿部ちゃんの前に膝まづいて顔を寄せた。
そっと伸びてきた腕が、俺の頭を引き寄せる。
重なって触れた唇はまだ熱い。
そっと離れると睫毛が触れるほど近くに阿部ちゃんの顔。
三白眼で、くっきりした二重にかかる前髪。
阿部ちゃんの匂い。
まだその奥に燻る火に、先に口を出したのは俺の方だった。
「……今、服着たばかりなんだけど」
俺の頭に回された手は解けない。
阿部ちゃんからもう一度、唇が重なる。
一線を超えてしまえば、もうお互い割り切って求め合う。
1回限りを覚悟していたのもあったから、これは嬉しい誤算だ。
「勝手に終わったのはめめでしょ…」
ギシ…と音を鳴らして、ベッドにあがって、阿部ちゃんを組み敷いた。
耳から首筋へと下がって、まだ火照りを残した身体に、手や口で触れると身体が跳ねた。
阿部ちゃんが俺のシャツに手をかける。
「……着た意味」
「知らないよ…」
急かすように脱がされて、肌が密着する。
慰め合うようにキスを繰り返して、また深い夜に堕ちていく。
その日からずっと、ズルズルと身体の関係だけを何年も続けている。
相変わらず阿部ちゃんは岩本君が好きで、俺は阿部ちゃんが好き。
その関係は変わらないまま、寂しくなればお互いに身体を求めて。
俺にとって阿部ちゃんを抱けることはメリットでしかない。
ただ少し虚しくなるのはもう慣れた。
阿部ちゃんも俺に抱かれるのに慣れたのか、ごくまれに俺の名を呼んでくれる。
シーツを掴んでいた手は、俺に回るようになった。
それが堪らなく嬉しくて。
だけど、こんな関係をいつまでも続けていけるなんて思ってない。
どこかでハッキリとさせなければいけないのに、終わるのが怖い。
そう思ってた矢先、岩本くんからダンス練習終わりに呼び出された。
振り付けの確認だろうかと思ったが違ったようで、一旦楽屋に戻っていたが、再びレッスン場へ戻るとふっかさんもいた。
「全員に一気に告げるより、ちゃんとひとりひとりに話したくて」
岩本くんがそう口にした途端に、分かってしまった。
真面目な岩本くんだから、全員の意見をしっかり聞きたかったのだろう。
もう言葉にされなくても分かってしまう。
岩本くんの手が、横で気まずそうにしているふっかさんの手を握った。
「…俺ら、付き合うことになった。リーダーでもある俺がメンバーに手を出して…しかも男同士の色恋なんて何してんだって思われるかもだけど…。絶対に迷惑はかけない。認めて欲しい 」
深々とふたりして頭を下げるのを、俺は複雑な気持ちで見つめた。
くっついてくれて良かったという思いと、阿部ちゃんの気持ちを思うと素直に喜べない。
「…他のメンバーは…」
「まだ康二とラウールに伝えてないだけで、あとはもう了承を得てるよ」
「…ラウールも大人になったから、ふっかさんに告白しようとでも思ってたの?」
ゆっくりと岩本くんに目線を合わせた。
ふっかさんが「ちょっと…」と口を出そうとしたのを、岩本くんが止めた。
言い訳もないらしい。
真っ直ぐに俺を見て「そうだよ」と認めた。
この話を、阿部ちゃんはひとりで聞かされた。
それがいかに残酷なことか。
でも、俺と同じだ。
岩本くんも、ふっかさんも攻める筋合いなんて俺にはない。
「…俺が口出すことは何もないよ。ただ、阿部ちゃんにはもう触んないで」
そう言って俺はふたりに背を向けて、レッスン場を飛び出した。
何かを言いかけたふたりの声は聞こえなかった。
携帯をズボンのポケットから取り出して、電話をかける。
ただ何度かけても阿部ちゃんは出なかった。
きっと俺が話を聞いて、連絡を取ってくることくらい分かってたはずだ。
「っ、くそ…!出ろよ!!」
楽屋に戻っても、阿部ちゃんはもう既に帰っていて。
残っていた舘さんが「聞いたの」なんて言ってくるから、頷くだけして「阿部ちゃんは?」と返した。
「阿部ならついさっき帰ったけど…」
「ありがと」
急いで荷物をまとめて、上着も羽織らずに阿部ちゃんの後を追った。
エレベーターも待てずに階段を使っておりて、広いロビーを早足で通り過ぎる。
正面玄関を出て左右を確認したところで、タクシーを止めている阿部ちゃんを見つけた。
まだこちらに気付いてない阿部ちゃんが、タクシーに乗り込んだのに続いて、勝手に横に乗り込んだ。
「…っ、めめ!?」
「はぁ…あっつ…」
「なんで…」
「電話出ろよ!!…心配したでしょ」
堪らず出た声の大きさに、阿部ちゃんがびっくりして目を丸くした。
それからいつもみたいに困ったように眉を下げて笑う。
そんな表情すんなよ。
泣きたいくせに。
俺が顔を歪ませると、阿部ちゃんの手がそっと頬に触れた。
その優しい指先が温かくて、自然と涙が出た。
「…なんでめめがそんな顔するんだよ」
「……阿部ちゃんが泣かないからでしょ」
「俺の代わりに泣いてくれるの…。優しいね」
「阿部ちゃん、俺の前で我慢しないで…」
頬に触れた阿部ちゃんの手を絡めとって、ぎゅっと強く握った。
一瞬、泣きそうな顔をした阿部ちゃんが、ぐっと息を飲んで窓の外に顔を向けた。
座面の上で指先だけが絡んで、結ばれてる。
阿部ちゃんの家の近くに着くまでの数十分、それが離れることはなかった。
「……帰んないの」
「この状況で帰ると思ってんの」
タクシーを降りて、ちょっと俯いた阿部ちゃんが小さく口にした。
少し溜め息をついたのを見逃さなかった。
ひとりになりたいんだろうけど、俺がひとりにさせたくなくて。
ただ傍に居させて欲しい。
いつもみたいに求めてるわけじゃない。
何も言わずに抱きしめさせて欲しいだけ。
泣かないなら無理に泣かなくていい。
滅多に涙を見せない君だから、せめて甘えるくらいはしてよ。
頼りにならない歳下だろうけど、でも阿部ちゃんが岩本くんを好きな気持ちと同じくらい、俺だって阿部ちゃんを想ってる。
「…もう、言い出したら聞かないもんね」
「分かってるなら早く部屋に入ろうよ。寒い」
「さっき暑いって言ってたじゃん」
「それは走ったからでしょ。阿部ちゃんのせい」
阿部ちゃんの家まで、後ろを付いて歩いていく。
俺より頭ひとつ小さいその後ろ姿を見下ろしながら、帰れとは言わないことに口元を緩ませた。
スマートキーをかざして、解錠された部屋に靴を揃えてあがりこむ。
渡されたハンガーに持っていた上着をかけて、手を洗ってからソファーへと腰をかけた。
キッチンでお湯を沸かしてる阿部ちゃんの姿をジッとみつめる。
厚手のコートを脱いだ阿部ちゃんは、身体のラインが分かる黒のハイネックに、シンプルなネックレスを付けていて、立ち姿すらも綺麗。
相変わらずの細身である。
身長もグループの中じゃ高い方なのに、腰周りはかなり細い。
のくせに、食べる時は食べるし、ダンスもかなりキレがあって。
よくそんな細身で動けるな、と思うのと同時に、そんな細腰を壊すように抱いてる自分を思い返して、下半身が疼いた。
「そんな見ないでよ。俺、穴空いちゃうよ」
ハッとすると、いつの間にか目の前に立っていた阿部ちゃんが、どうぞ、と珈琲をテーブルに置いた。
マグカップの中から、湯気がたつ。
両手にマグカップを持った阿部ちゃんが、唇を尖らして、ふーふーと冷まして一口喉へと流した。
その様すら、俺がじっと見ていると、恥ずかしそうにして飲むのをやめて、マグカップを置いた。
「…もう、なに…」
「阿部ちゃん、ギュッてしよ…」
「今日はさすがにヤる気はないよ」
「分かってる…抱きしめてたいだけ」
俺が両手を広げると、仕方ないと言う顔で、俺の方を向いて胸に頭をもたれてきた。
優しく抱きしめると、阿部ちゃんの肩の力が抜けるのが分かった。
ただ抱きしめてるだけなのに、やけに心臓がうるさくて。
しばらく無言で抱きしめてると、体勢を変えようともぞもぞと動いた阿部ちゃんが、俺の背中にゆっくりと手を回してきた。
先ほどよりも身体が密着する。
「…めめ、心臓うるさい。勃ってんのもバレバレ」
「自然現象だから仕方ないでしょ」
「ヤらないよ」
「…分かってる」
「あ、いま一瞬迷ったでしょ」
「……もぉ、うるさい」
阿部ちゃんを抱きしめたまま、後ろに倒れた。
うわ、と驚いた阿部ちゃんが俺の胸に手を置いて、少しだけ上体を起こした。
下敷きになってる俺を、至近距離で見下ろす。
少し垂れた前髪から覗く瞳に俺が映ってる。
唇を少し突き出して、頭を軽くあげて、ちゅっと触れるだけのキスをした。
そんな俺に、「…ばか」なんて小声で文句を落として、今度は阿部ちゃんの方から体重をかけてキスが落とされた。
そっと頭と腰に手を回して、何度も角度を変えてキスをする。
離れようとしたのを引き寄せて、上に乗っていた阿部ちゃんごとひっくり返した。
阿部ちゃんの顔の横に肘をついて、また何度もバードキスを繰り返す。
「…ん、も…しつこい…」
「ねぇ、阿部ちゃん。デートしようよ」
「え?」
「俺とデートしよ」
「なに…突然」
「気分転換。いいでしょ」
阿部ちゃんの前髪を手のひらで上にかきあげた。
眉間に寄った皺すらかわいく見えるのは、それほど好きだからだろう。
俺の突然の提案に、嫌だと言っても聞きそうにないからと、渋々承諾してくれた。
嬉しくて再び唇を重ねて、抱きしめる。
阿部ちゃんの鼓動も、少し早くなっていた。
次のオフの日、目深に帽子を被って、マスクをして外へ出た。
待ち合わせ場所までタクシーを使って、周りにバレないように行動する。
いつもの事ではあるが、やけに今日は緊張していた。
身体だけの関係だった阿部ちゃんと、ふたりきりで会う。
この数年、岩本くんのことが引っかかって進めなかった。
俺と阿部ちゃんの関係はあくまで心の拠り所。
寂しさを埋めるためだけ、欲を発散するだけの虚しいものだった。
でも、岩本くんは阿部ちゃんを選ばなかった。
最初からそれは分かっていたけれど、きっと阿部ちゃんは俺みたいに僅かな隙間を待っていたんだと思う。
俺は阿部ちゃんの隙間に割入った。
だからこうして、進めてる。
ようやく一歩、といったところだが。
タクシーを降りると、入口の階段前に同じように帽子を被ってマスクをした阿部ちゃんが待っていた。
軽く手をあげると、阿部ちゃんも気付いて手を振り返してくれた。
マスクの中、口元が緩む。
「おはよ、阿部ちゃん。早かったね」
「おはよ。俺も今来たとこだよ」
「そっか…。じゃ、早速だけど行こうか」
「めめが美術館選ぶだなんて、珍しいよね」
阿部ちゃんとの初デートに選んだ場所は、美術館だった。
いつか連れて行きたいと思っていた場所。
阿部ちゃんの雰囲気にもあってるし、なにより興味津々に絵画を見ている阿部ちゃんを見たいという己の欲望もあった。
案の定、中に入ると俺そっちのけで阿部ちゃんは真剣にひとつひとつの絵を真剣に見ていて。
時おりボソボソと独り言を呟いていた。
絵画に映える綺麗な横顔。
顎に添えられた指、透き通った目、少し上を見上げた時に出る喉仏。
茶色のロングコートがまた似合っていて。
全てがとても綺麗で、かわいい。
絵画なんかよりもずっと、俺が見ていたい人はやっぱり阿部ちゃんで。
そんな俺の視線にようやく気付いた阿部ちゃんが、ムッとした顔で俺に寄ってきた。
「こーら、めめ。俺じゃなくて絵を見なよ」
「…だって阿部ちゃんの方が綺麗だもん」
「ばか…。ここでそんな事言わないの」
「阿部ちゃん、楽しい? 」
俺の言葉に、きょとんとした阿部ちゃんが、眉尻を下げて笑った。
岩本くんとの事があって以降、阿部ちゃんはいつも通りだったけど、俺には無理して笑ってるように見えて。
同じメンバーに、好きだった人が好きな相手と付き合ってる。
これが俺だったら嫉妬に狂うどころじゃないだろう。
笑えることも出来ないのに、どこかで阿部ちゃんは覚悟してたんだと思う。
だから今、俺と居て笑ってくれてるのが素直に嬉しい。
「楽しいよ」
そう言って俺の手を引いて、阿部ちゃんが奥の部屋へと進んだ。
疎らだった人の気配が無くなって、たった1枚の絵が飾られた静かな部屋。
今まで見てきた絵の中で、俺が1番目を惹かれたものだった。
「……なんか凄いね、この絵」
「でしょ…?俺、好きなんだ。ルネ・マグリットの『恋人たち』の絵」
「知ってたの」
「何回かひとりでも来たことあるしね」
「あるのに来てくれたんだ」
ふふ、と阿部ちゃんが口角を少しあげながら、絵を見つめた。
俺も絵の方に向き直して、その絵を見つめた。
男女が白い布を互いに被り、顔が見えない中キスをしている絵。
どこか惹かれるのは、今の自身の状況に似ているからだろうか。
お互いの表情も、その心の中も見えないのに、身体は相手を求めていて。
本当に触れたい場所には触れられない。
「…なんか、切ない絵だね」
俺がポツリと言葉を零すと、阿部ちゃんは一瞬だけ俺の方を見て、また絵に視線を戻した。
「そうかな…。俺はね、顔が見えなくてもお互いを想いあってるんだなって思ったよ」
「え…」
「好きなら、顔なんか見えなくても手を繋ぐだけとか、キスをするだけでも想いは伝わるでしょ?……俺はこの絵が、羨ましいよ」
寂しそうに呟いた阿部ちゃんの空いた手に、そっと手を伸ばした。
軽く握りしめると、阿部ちゃんも指を少し折って握り返してくれた。
でも、お互いに目は合わせない。
まだ阿部ちゃんの心には岩本くんがいる。
それは痛いくらいに分かってる。
触れた指先が少し震えた。
俺は阿部ちゃんを見らず、ただ真っ直ぐに絵画を見続けた。
隣に立ってる阿部ちゃんが、ちょっとずつ俺とは逆の方に顔を背けて、空いた方の手で口元を覆う。
静かな部屋に、俺らふたりと、『恋人たち』の絵。
そこに微かに響く、阿部ちゃんの啜り泣く声。
俺はまだ、岩本くんには勝てないよ。
どうやったって積み上げてきた年数が違うから。
簡単に奪えるなんて思ってない。
でも、その隙間に入った俺を、少しずつ受け入れてくれている阿部ちゃんは確かにいる。
だから、どうか今だけは俺の手を離さないで、縋って。
今はまだ脇役だとしても、支えるくらいはできるから。
しばらくして、ようやく 泣き止んだ阿部ちゃんが、気まずそうにしてたから、今度は俺が手を引いて近くのベンチに座らせた。
自販機で暖かいカフェオレを買って、阿部ちゃんに渡す。
プルタブを開けて、一口飲んだ阿部ちゃんが、ほぅ…と息を吐いた。
それから、俯いて小さく「ごめん」と口にした。
「阿部ちゃん、ほんとよく謝るよね」
「え、ごめん…」
「ほら。俺は何にも知らないよ。絵、見てたし」
「…うん、ありがとう。スッキリした」
目の端が少し赤くなっている。
まだちょっと残った涙のあとを、指先で拭ってあげた。
じっと俺を見つめた阿部ちゃんに、キスをしたくなったが、さすがに外ではやれなくて我慢した。
そんな俺の顔を見て、変な顔、なんて言って阿部ちゃんが笑った。
「そろそろ出ようか。めめ、このあとどうする?」
「…まだ時間大丈夫なら、ご飯行かない?」
「いいね。なに食べようか」
立ち上がって、出口まで歩く阿部ちゃんの後ろを少し遅れて歩く。
追いつきそうで、まだ追いつかない君は遠い。
でも、いいよ。待つよ。
阿部ちゃんが、ちゃんと俺に向き合ってくれるまで。
あと一歩の距離を、阿部ちゃんから踏み出してきてくれる日まで。
だから何度でも、俺は伝えるよ。
「阿部ちゃん、大好き」
背中に向かって投げかけた言葉に、阿部ちゃんが振り返る。
何言ってんのって顔で、ちょっと耳を赤くして。
ねぇ阿部ちゃん、 笑ってよ。
いつかその笑顔を俺だけのものにして。
いま抱いてるその想いもきっといつか笑い話に出来るくらい、俺が笑わせるから。
「ねぇ、阿部ちゃん。俺のこと、好き?」
阿部ちゃんが、いつもみたいに困ったように笑って見せた。
風にたなびいたコートが、ふわりと揺れた。
まだ冷たい風だけど、もうすぐ暖かい季節を運んでくる。
阿部ちゃんが耳に髪をかけて、優しく言葉を紡ぐ。
そんな仕草も相変わらず綺麗で。
あぁ、きっと春が来れば、君はもっと綺麗に笑うんだろう。
その時は隣に居させてよ。
誰よりも、いつまでも、君を想ってる。
「さぁね」
END.
どうしても描きたかっためめあべです👀
ユニット曲の『ART』の世界観で書きたくて…
このふたりに春が来た頃に、ぜひARTを歌う事になって欲しいという妄想←
昔の俺らみたいだねって笑いあってくれたらなぁ…
このお話の続きはないので、この後のふたりはご想像にお任せします…😌🖤💚
私🖤💚微🔞しか書いてないな……??笑
コメント
24件
うわぁ、、、切なくて苦しい😖 美しい世界観でだいすきです、😭
気づいたんですけど、🖤💚担ですか?💛💜好きなのは知ってたけど、エモすぎる。素晴らしかったです。💛💚は片想いがなんか、いいっすよね。
すごくすごくよかったです😭 読み終わってすぐ、おかわりしてしまいました💦美術館デートはどのシーンを切り取っても切なくて美しいですね🥲 ARTにぴったりなお話ですし、個人的にはほんのすこし💚ソロ曲のフレーズが出てきたのがうれしかったです✨️長文失礼しました、次回作をお待ちしてます!