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ちゃ
仁人side💛
玄関のドアが閉まって、勇斗の足音が遠ざかっていく。
部屋に残るのは、さっきまでの空気と、まだ少し熱の残った自分の呼吸だけ。
仁「はぁぁぁ…」
ソファにそのまま倒れ込む。
さっきのことを、頭の中で何度もなぞる。
「好きになってる」
ちゃんと、逃げずに伝えた。
じわっと、遅れて実感が来る。
恥ずかしさと、それ以上の妙な安心感。
勇斗は、優しく、ちゃんと受け止めてくれた。
その声も、表情も、全部、ちゃんと覚えてる。
仁「……っ///」
思い出して、思わず顔を覆う。
しかも、 自分からキスなんて… らしくない。
完全に勢いだった。
でも、 嫌じゃなかったどころか、 思い出すだけで、胸の奥がじんわり温かくなる。
仁「なにやってんだよ、ほんとっ」
小さく笑って、でもすぐに視線を逸らす。
恥ずかしい。
でも、 それ以上に 嬉しかった。
そのまま天井を見上げる。
帰ってきたら、どうなるんだろう。
今は、まだ、好きって伝えただけ。
付き合うとか、番とか、そういう話はしていない。
でも、あの距離感、あの空気が 変わるのが、少しだけ怖い。
でも同時に、少しだけ楽しみでもあって。
自分で自分に呆れる。
そのまま体を起こし、寝る準備をしようとクローゼットを開ける。
仁「あっ」
奥に、見覚えのある上着。
あの時…勇斗が…帰る時にかけてくれたやつ。
まだ返していなかった。
手に取って、指先に触れた瞬間、 さっきまでの安心とは違う感覚が、じわっと広がる。
あの日の距離、 体温、 息の近さ。
無意識に、顔の近くに引き寄せる。
すっと、息を吸う。
胸の奥が、一瞬でざわつく。
甘くて優しい、勇斗の匂い。
でも、前よりずっと薄い。
もう一度、強く抱き寄せて、深く吸い込む。
足りない…
全然、足りない…
仁「っ……ん…」
呼吸が乱れる。
頭では分かってる。
匂いなんて、時間が経てば消える。
当たり前のことなのに。
仁「やだ」
感情が、先に出る。
この匂い、この温度が、もっと欲しい。
いや、欲しいのは、これじゃない。
勇斗、そのもの。
仁「……っ」
一気に、現実に引き戻される。
今の…なんだよ…
ただの“好き”じゃない。
もっと深いところから来る、どうしようもない欲求。
触れたくて、 近くにいたくて、 離れたくない。
それだけじゃなくて…
足りないって、思った。
匂いだけじゃ、満たされないって。
仁「やば」
小さく呟く。
無意識に、Ωとしての本能でも勇斗を求めている。
徐々に、頭が冷えていく。
もしこの状態で、ヒートが来たら。
今ですら、こんなに揺れるのに、 実際に熱が来たら…
抑えられるわけがない。
理性なんて、簡単に飛ぶ。
上着を抱きしめる腕に、力が入る。
好きなのに。
普通に、好きってだけでよかったはずなのに。
そこに、本能が重なる。
もし、番になったら…
もっと、強く、深く、求めてしまう。
心も、身体も、 全部。
仁「無理だっ…」
ぽつりと落ちる。
こんなの、ただの恋じゃない。
………依存だ。
しかも、自分が思ってたより、ずっと深い。
勇斗は優しいから、 きっと全部受け止めようとする。
だからこそ、勇斗を壊してしまう。
求めすぎて、縛って、逃げ場なくして。
仁「それは…やだ」
弱い声が漏れる。
好きだから、大事だから。
そんなこと、絶対にしたくない。
でも、このまま進めば、きっとそうなる。
本能には抗えない。
だったら、答えは、一つ。
仁「やっぱり、普通の恋愛は…無理だ…っ」
上着を抱きしめたまま、ゆっくり目を閉じる。
さっきまでの喜びが、静かに、不安に塗り替わっていった。
目が覚めたとき、最初に感じたのは、腕の中の重さだった。
ぎゅっと抱きしめている感触で、ゆっくりと意識が戻る。
仁「あっ…」
視界に入るのは、くしゃっとなった勇斗の上着。
体を少し起こす。
床に座り込んだまま、上着を抱きしめた状態。
喉が少し乾いてる。
それと同時に、頬に違和感。
指で触れると、涙の乾いた跡。
一瞬で動きが止まる。
仁「 情けな」
小さく、呟く。
好きって、やっと言えたのに。
その日の夜に、こんな状態になるとか。
自分で自分に引く。
なのに不思議と、頭はやけに冷静だった。
昨日あれだけぐちゃぐちゃだったのに、 今は妙に静かで、落ち着いている。
感情が、一段引いたところにあるみたいな。
それが、逆に怖い。
ゆっくり、上着を見下ろす。
まだ、少しだけ残ってる匂い。
それに、昨日ほど揺れない自分。
今なら、考えられる。
一時的な感情じゃなくて、ちゃんと…
何が一番いいか。
仁「……っ」
息を吐こうとして、少しだけ詰まる。
このまま進んだら、 止まれない。
好きになるのも、 頼るのも、 全部。
ヒートが来たら、 きっともっとひどくなる。
抑えなんて効かなくなって、 全部、勇斗に向く。
勇斗は優しいから、全部 受け止めてくれるだろうけど。
それは、 受け止めさせてるだけだ。
そこで、思考が少し止まる。
じゃあ、離れればいい。
そう思った瞬間、 胸の奥が、ぎゅっと締まる。
でも、 その選択をしたら…
昨日、 あんな顔で「嬉しい」って言ってくれた勇斗を、 自分が突き放すことになる。
「好き」って言っておいて、 距離を置く。
それって…
仁「一番、傷つけるやつじゃん」
喉の奥が、苦しくなる。
勇斗はきっと、 理由を聞いてくる。
でも、 言えるわけない。
言ったら、余計に受け止めようとする。
だから、 曖昧に距離を取るしかない。
そしたら…勇斗は どう思う?
勝手に気持ち伝えて、 勝手に離れて。
…意味わかんないって思うだろ。
最悪、 嫌われるかもしれない。
その可能性を想像した瞬間、 心臓が強く跳ねる。
嫌われたくない。
あいつにだけは、 絶対に。
でも、 それでも…
一緒にいて、 負担かけて、 縛って、 消耗させて。
その結果、 いつか本当に離れられる方が…
怖い。
仁「どっちにしても、最悪かよ」
小さく、自嘲気味に笑う。
少しだけ、視線を落とす。
こ 勇斗のためって思ってたけど、 本当は、 自分が怖いだけかも。
傷つくのも、 拒まれるのも、 嫌われるのも。
全部、怖いから。
先に距離取ろうとしてる。
それでもやっぱり、 一番強く残るのは…
勇斗に負担かけたくない…
その気持ちだった。
仁「勇斗と距離をおこう」
小さく、言葉にする。
近づかない。
甘えない。
“好き”のまま、止める。
それなら、勇斗を 壊さないで済む。
たとえ、 嫌われたとしても。
完全に壊れるよりは…
仁「……っ」
胸が、痛む。
それでも、 決めた。
仁「よし…」
区切るように呟く。
手に持っていた上着を、少し見つめる。
次会ったら返そう。
それだけで、 それ以上の意味は、持たせない。
そう言い聞かせて、軽く畳んで部屋の隅に置く。
視界には入るけど、意識しなければいい距離。
まるで、自分の感情みたいに…
まだ少しだけ残る胸の痛みを、無視するように、 いつも通りの一日へと足を向けた。
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不穏な感じでごめんなさい!でも一度、衝突して欲しくて…💦 続きは明日出します!焦らしすぎないの心がけます🙇🏻♀️笑