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「旦那さんって褒め上手だよね」
「……」
「淳子さんみたいな美人さんにマッサージの施術を受けれるなんて、
緊張するなぁ~ですって」
「……」
私は意図して何の反応も声に出してしなかった。
この時すでに私の顔の表情は能面だったと思う。
目力を湛え、口元の筋力といわず顔じゅうの細胞が、彼女を……
そして彼女の口から出て来る汚らしい言葉を……思い切り拒否っていたのだ。
それなのに、それだからか?
彼女は話を止めない。
「マッサージされるのが初めてだったみたいで、感極まってお願いされちゃって、
それで私もつい同情してしまって……うふふ、つ・ま・り、私たちあの日合体
しちゃったのよー。
でもぉ、ただの施術中の弾みだから圭子ぉ、気にしないでね」
なんというしらじらしい語り。
口に出さなくていいどうでもいい話をよくもまぁ、ペラペラと。
法律というものがなく、馬鹿で愚かな人間は殺してもいいという社会であったなら、
そして私が最強のプロレスラーの大男であったなら、目の前の悪党を捩首にて抹殺
していたかもしれない。
「へぇ~、淳子さんの仕事ってすごいなー。私には真似できないわー。
それじゃあ、ごきげんよう」
私はにこやかに言い放ち、その場を後にした。
エレベーターに乗り込み、扉が閉まり始めると私は視線を下方に向け
悪態をついた。『バぁ~カ』 淳子さん、見てる?
これが私からあなたに贈る賛辞だよ。
はぁ、子連れじゃなかったら、思い切り罵倒していたかも。
娘連れじゃあ、下手に相手を煽れなくて残念。
娘に危害が及ぶかもしれないと思うと下手なことは言えなくて。
んとに、疲れた。
はぁ~。
今の現状を払拭したくて、涙目の私は、落ち着ける我が家をひたすら目指した。