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そして忌まわしい出来事のあったあの日から約3か月後、加納家は
およそ8km離れた5駅東寄りの場所に住まいを移した。
匠平が圭子や義母のことなども考えて以前よりもかなり近距離になる場所を
探してくれていて、神戸ザ・ラグジュアリーから神戸リヴェールという
億ションへの引っ越しだった。
あんなに便利な場所にあり……美しい景観に溶け込んだ理想的なフォルムの
マンションを去らなければならないことは、圭子にとって悲しむべきことだった。
そして今回『この辺のこんな間取りのマンションに決めるけどどう』とは、
訊いてもらってはいたものの、匠平を受け入れられない情けなさや将来の不安に
押しつぶされそうになっていた圭子は、その頃心在らずの状態で受け答えをして
いたため、実際引っ越して来てとても驚いた。
前の住まいも素敵だったが、負けず劣らずというより、グレードからすると
今度の住まいの方がはるかにゴージャスに見える。
匠平が会社に出掛けている間、段ボールから物を出していきながら、時折、
自分たちの住まうマンションのグレードや近隣の様子そして肝心の価格帯などを
調べてみた。
『匠平さんって……億万長者だったんかーい』
引っ越して来たマンションは億を超えていた。
もしかすると2億円近くする物件なのかもしれなかった。
彼は普通のサラリーマンだよね? 不動産投資なんか、しているのか?
はたまた株?
想像はするものの、そのような話は今まで聞いたことがない。
圭子はこの先もお金の工面の話は聞かずにおこうと決心した。
だって、一生添い遂げられるとは限らないのだから。
匠平さんなら、私を放り出してもすぐにいい女性が見つかるもの。
予想以上に夫がお金持ちであることに知り、更に落ち込む圭子であった。
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