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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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目が覚めると、そこは家でも病院でもなかった。


「おお、目が覚めたね」


優しく微笑んでくれるのは、鷹文ではなく白川さん。


「あの、ここって・・・」

「鷹文のマンションだよ」


ですよね。私にも見覚えがあるもの。


「白川さん、わざわざ来て下さったんですか?」

「と言うか、昨日から一緒に君を探していた」


はああ。

それは、


「ご迷惑をかけて申し訳ありません」

「いいよ。俺が好きでしたんだから。でも、無事で良かった。一応診察したけれど、これと言って怪我もないようだし、薬も抜けたみたいだからもう大丈夫だ」

「ありがとうございました」


白川さんにまで迷惑をかけてしまったんだ。


「じゃあ、鷹文の奴あっちで仕事をしているから、呼んでくるね」

「はい」



白川さんが消えてすぐに鷹文がやって来た。


「一華、大丈夫?どこか痛いところはない?」


心配そうに私を見ている。


「うん、平気。少し頭が痛いだけで、他はなんともないから」


アルコールが入っていたせいかな、夢でも見ていた気がする。


「心配かけて、ごめんね」

「バカ、お前は被害者だ」

「でも・・・」


今回のことは私の不用心。油断した結果。私にだってわかっている。


「ところで、今何時?」


外は明るいようだけれど、カーテンのせいでよくわからない。


「もうすぐ朝の10時だ。お前は半日ほど寝てたんだ」


そう、そんなに。


「会社は?」

「部長に休みの連絡を入れておいた」


***


トントン。


「鷹文さん」

声をかけ入ってきた男性。


「気がつかれたんですね?」

私に向かって尋ねられ、

「ええ」

返事をした。


この人は?と鷹文に視線を送る。


「秘書だ」


秘書。そうか、鷹文は浅井の跡取りになるんだものね。


「守口と申します」


頭を下げられ、私も起き上がろうとして、


「もう少し寝てろ」

鷹文に止められた。


ブブブ。

守口さんの携帯が鳴り、


「もしもし」慌ただしく部屋を出て行った。


「忙しそうね?」

「そうだな。しばらくは休みもなさそうだ」


やっぱり。


「お前は?」

「え?」

「社長の娘ってバレたんだろ?」

「うん」

「平気か?」


平気なわけないじゃない。


トントン。

再び守口さんが入ってきた。


「鷹文さん、とりあえず今日のスケジュールはキャンセルしました」

「ああ」


私は彼の服の端をつかんで引っ張った。

「私はいいから」


「いいんだ。今日はここにいる」

「でも・・・」


「鷹文さん、スケジュールの調整はしましたので、社長に電話だけ入れて下さい」

「ああ、わかった」


そう言うと、鷹文は出て行った


***


守口さんと2人の寝室。

とても居心地が悪い。


「私のせいで、すみません」

「いえ」

「今日の予定って、重要なことだったんですよね」

「ええまあ」


なんだか無愛想な人。

お兄ちゃんや香山さんより大人で、意地悪な感じ。

この人が鷹文の秘書か。


「一華さん」


えっ。

いきなり呼ばれて驚いてしまった。


「そう呼んでもかまいませんか?」

「はい」


すごく真面目な顔で見つめられて、ちょっと怖い。


「一華さんは浅井の家に嫁ぐ覚悟がおありですか?」


はあ、いきなり?


「確か、鷹文さんと同い年だとうかがいました」

「ええ」

「結婚を考えられる年齢かと思いますが」


どうお考えですかと、聞かれているらしい。


「私はまだ結婚する気はありません。家庭に入って家族を支えるなんて自信がありませんから」


「では、鷹文さんとはどうするお考えですか?」


「それは・・・」


考えがまとまらないからこんなに悩んでいるわけで。


「鷹文さんが浅井の家に帰られれば、すぐにでも縁談の話が持ち上がる事と思います。その時、どうなさるおつもりですか?」


うっ。上手に急所を突いてくる人。


「その時は」

「その時は?」


「別れるんでしょうかね」

まるで人ごとみたいに言ってしまった。


ハハハ。馬鹿にしたような笑い声。


「そんなことできないとわかっていますよね。鷹文さんはあなた以外の人は考えられないでしょうし、あなたも別れることなんてできないんじゃありませんか?」


「そんなこと」

「ないですか?」


「・・・」

答えられなかった。


その時、

ウ、ウウ、ウウー。

急にお腹が痛み出した。


「どうしました?大丈夫ですか?」


「大丈夫です」


冷や汗を流しながら答えても、


「とても大丈夫には見えません。本当に強情な方ですね」


やっぱりこの人苦手だわ。


***


次に目が覚めたとき、見たこともない場所に寝かされていた。


「一華、気がついたか?」

「うん。ここは?」

「うちの系列病院だ」


フーン、浅井って何でもあるのね。


そうだ、

「私、急にお腹が痛くなって」

「うん。守口が『具合が悪いのにひどいことを言った』って謝っていた」


そんな、

「守口さんは悪くないのよ」

「うん、わかってる」


「で、守口さんは?」

「帰した」

「え?」

「潤も帰した」

「何で?」


「一華と2人になりたかった」


ベットの横にあった椅子から一旦立ち上がり、私を抱き上げた鷹文はそのまま部屋の隅に置かれていたソファーへと腰を下ろした。


「ちょ、ちょっと」


ここは病院で、いくら高そうな個室とはいえいつ誰が入ってくるかわからない。


「鷹文おろして、恥ずかしいから」


「イヤだ。もう、遠慮はしない」


言いながら唇を重ねてきた。

執拗に求められ、いつしか頭がボーッとしだした。


「一華、息をしろ」


ああ、うん。


「相変わらず不器用だな」

「悪かったわね」


プッとふくれた頬を、鷹文が両手で包み込む。


「この顔を見せるのは俺だけだ」

「うん」


あれ、鷹文ってこんなに独占欲の強い人だったっけ。


***


「なあ一華」

「何?」


「俺は8年前人生を捨てたんだ。もう誰も愛さないと誓った。でも、お前は特別だ」


そう言うと、横抱きにしていた私の体をそっと抱きしめた。


「どんなにあがいても、お前を好きだという気持ちは消えなかった。もがいてもがいて俺は諦めたんだ。もう一度人を愛してみよう。一華のために本気で生きようと思った」


「うん。私も一緒。何度諦めようとしても鷹文への気持ちは消す事ができなかった」


「浅井へ戻ると決心させてくれたのはお前だ。当然一華も混みで、戻るつもりだった」


え?


「一華、結婚して欲しい。もちろん今すぐでなくていい。仕事を続けてもかまわないし、俺もしばらくは実家ではなくマンションで暮らすつもりだ。今まで通りとはいかないだろうが、できるだけ一華の希望に添いたいと思っている。だから、結婚してくれないか?」

「そんな・・・」


いきなり言われても。

浅井の跡取りとして生きていく鷹文に、私は何の手助けもできないのに。


「俺の側にいるのはイヤ?」

「そんなことはない」


私だって鷹文が好きなんだから。


「じゃあ、OKでいいな」


でも、何か急すぎる。

今までそんなこと言わなかったくせに。


「何かあったの?」

そうとしか思えない。


***


クスッ。

ちょっとだけ照れたように、鷹文が笑った。


「理由は2つ。1つはもう2度と昨日のような目に遭わせたくないから」


「だから、昨日は私も不用心だったわけで」

「うん、これからは気をつけてくれ。俺も一華のスケジュールを把握するようにする」

「そんなことまでしなくても」


反論しようとした言葉を無視して鷹文は続けた。

「もう一つは、一華の腹痛の原因」


「腹痛?」


そう言えば、何でお腹が痛くなったんだろう。


「お前、生理きてなかっただろう?」


ああ、確かに。

でも、


「元々不順だし」


2ヶ月くらい飛ぶことも珍しくなかったから。


「それにしても妊娠4ヶ月まで気づかないなんて、ありえないだろう」


ええええ、4ヶ月?

嘘。


私はフリーズした。


「いい機会だから、結婚しよう。どんな夫婦になるかはこれからゆっくり考えればいい。異論はあるか?」

「異論は・・・ないけれど」


だから、守口さんと白川さんを帰して2人で話がしたかったんだ。


「決まりだ。もうすぐうちの両親とお前のご両親もみえる。2人で結婚宣言するからな。いいな」


さすに返す言葉がない。


こうして私達の結婚はあっけなく決まった。


***


完全なでき婚で、結婚を決めた私達。

財閥の跡取り息子である鷹文との結婚はどれだけ大変だろうと不安だらけだったけれど、いざやってみればそうでもなかった。

もちろん、そこには鷹文の私に対する配慮とそれぞれの両親の協力があったからに違いない。



逆恨みされホテルに連れ込まれたところを助け出された私は、偶然妊娠を知らされ鷹文からプロポーズされた。

その時点で、迷いはなかった。

この人を逃せば、結婚願望のない私は一生結婚なんてしないと思えたから。

ただし、妊娠に関しては不安もあった。

知らなかったこととは言えお酒を飲んでしまったし、薬も飲まされた。

それについては鷹文がすごく心配して、何人ものお医者様に診察をしてもらい胎児への影響はないと診断が出た。

これ以上は無事健康な子が生まれることを願うしかない。


そして何よりもありがたいのは、


「一華さん、ありがとう。あなたのおかげでまた息子が戻ってきてくれた。鷹文のことは8年前に諦めていたんだ。ただ元気に生きていてくれればいいと思っていたのに・・・」

浅井コンツェルンのトップでもあるお父様が、私の手を取り涙ぐまれた。


「これからは2人で好きなように暮らしたらいいわ。私達はいくらでも協力しますから」

お姉さんにしかみえないお母様の言葉が私の背中を押した。


私の両親も結婚に反対はしなかった。

鷹文が浅井に戻るためにお父様が鈴森商事に仕掛けた嫌がられもきちんと詫びていただいたらしく、問題にはならなかった。


「相手が大きすぎて不安な気もするが、これだけ請われて嫁ぐのは本望だと思うぞ」

両親にも、お兄ちゃんにも言われ、もう躊躇いはなかった。


私は浅井鷹文の妻となる決心をした。


END

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