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コメント
2件
💬 遅れました 🥺 🇳🇱🇯🇵、最高でした 😭👏🏻✨ 寝てる🇯🇵を 弄る🇳🇱さん すごく好きです 🙈💓 まじここは 永久不滅ですわ 🤜🏻❤️🔥🤛🏻 🇳🇱🇯🇵、流行らないかなぁ .. 😢💞💞
オチなし、ヤマなし。平和がいちばん(?)
「日本、来たぞー。」
玄関先で声を張る。
いつもならパタパタと小さな足音がして、いらっしゃい、と開かれるはずの引き戸が全く動かない。
彼の神話に戸を閉じてひきこもった女神の話があったか、などと思う。
「日本、来たぞー。」
返事はない。ただの屍のようだ。
ため息を吐き、仕方なく縁側から参上させてもらうことにした。
彼の警戒心のなさをよく知る誰かのおかげか、この家の縁側は庭の奥まった所にある。
ここは誰からも見えないんです、といつだったか笑っていたので、案外家主の趣味かもしれない。
季節の動きに合わせ少し伸びてきた草を踏みしめる。
サクリ、と音を立てるそれは淡雪にも似ていて、季節を両どりしているような気分になった。
麗らかな日差しを注ぐ、雲間の太陽。
そのカーテンのような光の奥、縁側からにょきりと足が伸びている。
見慣れたスーツではなくゆったりとしたラインの裾。視線を上に這わせていく。
膝の上に打ち据えられた腕の先に、本が鎮座していた。
パラパラと紙で遊ぶ風の音にページを見失いはしないかと心配になったが、栞代わりに挟まれた指でどうにかそれをせき止めているらしい。
大方小説でも読んでいる間にひだまりの暖かさに意識を攫われてしまったのだろう。
そう結論付け、隣に腰を下ろした。
柱に支えられている頭が痛そうだったので、膝の上を貸してやる。
これではどちらが客人なのかわからない。
この扱いを特権と言うべきか、粗雑と言うべきか…。
腹いせに呼吸のために少し開けられた口に指を押し当てる。
拘束が甘かったのか、ぴゅう、と笛のような音がした。
ターゲットを頬に変え、柔らかな肌に指を沈める。
よく笑みの形に動く表情筋を労るように、くりくりと頬骨の下あたりを愛撫する。
「ん………」
一瞬ヒヤリとしたが、すぴすぴという子猫のような寝息が再開し、胸を撫で下ろす。
しかし、ここまで体を動かされても目覚めないとは。
『眠りとは小さな死である』と、どこかで聞いた文言が脳裏に浮かんだ。
人の子の中にも、時折生きたまま深淵を覗ける者がいるのだ、と妙に納得する。
確かに死から時間を借りてきたように、日本はぴくりとも動かない。
ならばこの温もりは、太陽の借り物なのだろうか。
そんなことを考えていると、不意に、午睡の音が途切れた。
心臓に冷たい血が流れる。
日本、と揺らそうとした肩がむくりと起き上がった。
「……あれ…?オランダさんだ……」
とろんとまどろんだ黒曜石が自身を映す。
「……お前が呼んだんだろ……。」
呆れて吐いた息の中に、少しの安心が混じる。
「…あ、すみません……。」
ぐしゃぐしゃと乱雑に頭を撫でる。
日本は笑い声を立てながら応戦してきた。
大の大人たち、片や仙人もどきの所業だとは思えない。
息を切らして休戦を目で問いかける。
日本は小さく頷くと、肩にもたれかかってきた。
そのままふたりで黙って庭を見つめる。
「…ね、いいでしょう、あの鉢。根元さえ残しておけば、またネギが生えてくるんです。オランダさんもどうですか。節約術ですよ。」
「西洋ネギでもいけるのか。」
「……先月のお休みに生垣を少し整えたんです。」
「ネギから逃げたな。」
「ネギ以外も大事でしょう。」
ちらほらと背の高い野草が見える。
確か大した使い道もなく、ただの雑草の類だったと思うが、彼のことだ。
ゆらゆらと健気に揺れる小さな花を見て、引き抜くのが忍びなくなったのだろう。
「ほら。あのオレンジのとか、綺麗でしょう?」
「…お前、野草の見分けつくのか?」
「薬草なら。」
「食べれるやつの間違いだろ。」
頬を膨らます日本を放り、塀の側に佇む花の茎を、黙って手折った。
じわり、と滲み出てきた花の黄色い血にため息を吐く。
「毒だぞ、これ。」
「探偵だったんですか、オランダさん……。…そういえばカラートーン一緒だ……。」
「は?」
意味がわからないが、人の話のようなので、大方アニメか漫画に毒物に触れる探偵がいるのだろう。
妙に輝く目で、日本が今度蝶ネクタイと黒縁メガネしてくださいよ、と言う。
「青酸カリとか舐めたりなさるんですか?」
「俺はお前と違って何でも口に入れたりしない。」
「僕のことなんだと思ってるんですか。」
「欲しがりの食いしん坊。」
ぷくり、と紅潮した頬が膨らんだ。
ハンカチで丁寧に指先を拭い、両頬を包み込む。
「誤魔化すんですか?…ずるい人。」
「お前好みだろ?」
あどけない桜色の唇が、妖艶な弧を描く。
熱にかぶれた指先に、優しくなぶるようにツタが絡みつく。
「ねぇ、人にも食べ頃があるそうですよ。」
「…難儀だな、食いしん坊は。食べられる側のくせに。」
これでいい。
この花の毒を知っているのは、自分だけでいいのだ。
(終)