テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「いいわ。全てが終わったら、サオリと対戦できるならね」
イザベラは、沙織達の提案をすんなり受け入れた。
もともとイザベラとサミュエルは、光の乙女と青い痣の持ち主を、帝国に連れて行かなければならなかった。その対象の方から、帝国に出向く。正に渡りに船の申し出を、断る理由はない。
「では、イザベラ。契約紋を入れさせてもらいます」
「ああ、構わない」
複雑な気持ちで、それを見ていた。
以前、アレクサンドルも契約紋を望んだ事があった。
(いくら、後から解除出来るといっても……)
ステファンは、イザベラに沙織を託すにあたり、契約紋は絶対条件で一歩も引かなかった。
途中で裏切るかもしれない……そんなリスクは、何を置いても無くしておきたかったのだ。
「それにしても! まさか、あんたが光の乙女だったとはねぇ」
「イザベラさん、よろしくお願いします」
「イザベラでいいよ。私もサオリって呼ばせてもらうから」
美人で筋肉質……ニカッと笑う表情は、まるで友人のオリヴァーを彷彿とさせる。
(……なんか、イザベラって人柄は悪くないのかも)
帝国までの道のりは長い為、ステファンは様々な魔道具を用意してくれた。その辺は王太子になった今でも変わらない、さすが元天才魔導師だ。
野営用の便利アイテムは、かなりのハイグレードな物だった。
そして、イザベラとサミュエルが予定していた、最短ルートで沙織は帝国へと向かった。
◇◇◇
王国から少し南西に行った森の奥、そこにイザベラとサミュエルは自国の服や装備を隠していた。
更にもう少し先へ行った安全な場所に、馬も繋いであるらしい。
「ちょっと待ってて、着替えるから」
そう言うと、イザベラは制服を脱いで装備を整える。その姿を見て、ビックリした。
「ねぇ、イザベラって騎士なの?」
ガシャリ……と、イザベラはいとも軽そうに、大剣を背負った。
「ん? 騎士じゃないわよ。まあ、馬も乗るけどね。私のことは戦士と呼んで。そっちの方がカッコいいでしょ? 体術も好きだけど、剣の方が得意なのよ!」
「カッコいいから……戦士?」
思わずポカンとする。
剣が好きと言うわりに、学園に忍び込んだ時は剣を持っていなかった。不思議に思い尋ねてみる。
「あの時、どうして剣を持っていなかったの?」
「そりゃ、女、子供に剣は向けないわよ! 素手で十分……あ、サオリには一敗しちゃったけどね。あー、あの侍女も中々だったわよ!」
あはは!と、イザベラは豪快に笑う。
そんなイザベラに、好感を持てた。
(戦士イザベラ……うん、お友達になれそうだわっ)
沙織の乗馬の上達具合はさておき、残されていた馬は一頭だ。沙織は当然、イザベラの前に乗せてもらうことになる。
それから、結構な距離を走った。
ある程度の所まで行くと、今夜はそこで野営をすることになった。
ステファンが、準備してくれた魔道具でテントを出して、その周りに結界を張る。簡単な夕食を取りながら、色々な話をした。
(昨日の敵は今日の友……って感じね)
「ところで……。帝国の誰が私達を探しているの?」
教えてもらえないかもしれないが、一応聞いてみる。
(どうせ、行けば分かる事だけど)
「ああ、王の命令よ」
スープを飲みながら、イザベラはあっさり言った。
「……王?」
確かに、サミュエルとイザベラは皇帝の命を受けて動くと言っていた。
光の乙女という天職をもつ人間は、珍しい存在であり、国に居たら重宝するだろう。ならば、青い痣の人間には……何の役割があるのか気になった。
「青い痣の持ち主は、帝国にとってどんな存在なの?」
「帝国にとって? ただの皇太子よ」
「……ぇえ!? 王の息子ってこと?」
沙織が驚いて聞き返すと、イザベラは首を横に振った。
「違うわ。皇帝陛下の息子よ。で! 王の息子はサミュエルで……娘が、わ・た・し!」
「……ぇええええええ!?」
色々に驚き過ぎて、口をパクパクさせるが言葉が出てこない。
沙織の反応に、イザベラはゲラゲラ笑う。
サミュエルは、イザベラの弟だった。カリーヌとミシェル姉弟とは、全くタイプの違う姉弟だと……しみじみ思った。
「帝国のトップは、皇帝陛下だから……青い痣を持った皇太子は、次期皇帝になる方よ」
「シュヴァリエが……次期皇帝?」
イザベラは、グリュンデル帝国について何も知らない沙織に、ざっくりと説明する。
グリュンデル帝国は、皇帝ヴィルヘルムの下に数人の王が居るらしい。
王とは、皇帝が選んだ各領地の長みたいな存在で、イザベラとサミュエルの父……ハインリヒ王は皇帝の義弟で、他の王よりも皇帝に近い存在だった。
そうは言っても、帝国はヴィルヘルムの独裁国家みたいものだ。選帝侯も居るらしいが……殆ど意味をなさないらしい。
(そんな独裁者のような皇帝が、本当にシュヴァリエを皇太子として迎え入れるのかしら……? そもそも、何でシュヴァリエはベネディクト国で育ったの?)
疑問だらけだった。
(あれ?)
ふと、気になったことを訊く。
「ねえ。イザベラとサミュエルは、そんなに重要な事を知っているのに。お義父様の尋問で……よく話さなかったわね?」
と首を傾げる。
「ああ、そりゃあ一応は、帝国の王の子供ですからねっ。万が一の時でも、絶対に漏らしたら不味いことは口にしないわ。たとえ……死んでもね」
イザベラの当たり前のような言い方に、常に覚悟を決めている戦士の一面を見た。
――その夜。
嫌な予感が頭を駆け巡り、沙織はなかなか寝つけなかった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!