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ミルシェとの話と食事を終え、外が暗く出て行ったとしてもやることがないと判断して大人しく寝るしかなかった。
「眠くないけど、寝るしか無さそうだな」
「ええ、それがいいと思いますわ。何なら、あたしと一夜でも?」
「いや……」
「ふふっ冗談ですわよ。この件に関しては、じっくりと時間をかけても構いませんわ」
ミルシェが言う彼女たちとどうするかについてはいずれ決めることだ。しかし今は、ようやく取り戻した故郷を立て直すことが最優先。
それまでは彼女たちからの好意を誤魔化すことなく、いつも通りに受け止めるだけだ。
◇◇
「……うう~ん……眠れない」
「ムニャ……フニャゥ~」
「――うん?」
ベッドがいくつかあったが、そのほとんどはシーツの無いむき出しの状態だった。ルティたちは体力の限界で、すでに眠っている。おれは彼女たちと違い、ベッドではなく無造作に置かれたソファに寝そべっている。体にかけるものもないが、寒くも無いので横になっているだけだ。
何も無い状態だったが、さっきから背中に感じるのはどう考えてもモフモフな感触。引っ張られているような、引っ掻けられているような。
「フニャン~……ウニャ~……アックの背中なのだ、ウニャウ~」
「シ、シーニャ!? いつの間に……」
「ウゥニャ~……」
「シーニャ?」
「……」
返事が無いところを見ると、寝ぼけて近付いて来ただけのようだ。何をされるという訳でも無いので、このまま寝かせてやることにした。
◇◇
「アック様!! 朝ですよ~!!」
気付いたら眠っていたようで、おれはルティの声で起こされた。
そういえば背中にシーニャがくっついていたような?
そう思って背中を気にすると、すでにシーニャの姿は無くなっていた。どうやら途中で目覚めて戻ったとみえる。
「ルティ、おはよう。よく眠れたようだな」
「はいっっ!! それはもう、万全ですよ~! アック様、そんな所で寒くなかったんですか?」
「ああ、モフ……じゃなくて暖かったぞ」
シーニャのおかげだな。
「お食事の用意を……と思ったんですけど、何も無くてこれからどうしようかなと~」
「夜にスープを飲んだぞ?」
「はい、ですからそれくらいしか無かったんですよ」
「なるほど……」
今まで魔導兵と魔物しかいなかった場所だっただけに、住むとなるとそういう問題が生じる。エルフや獣人たちは森林ゲート内で生活していたが、食糧に問題は生じなかったのだろうか。
「アックさま。お目覚めになられたのでしたら、外へ!」
そう思っていたら、外からミルシェの声が聞こえてきた。
「あ、そうでした! ミルシェさんとシーニャはすでに外にいますよ。他の種族の人たちも!」
「何だ、そうなのか。フィーサは?」
「フィーサはシーニャと一緒だと思いますよ~」
あの二人は相当に仲が良くなった。ルティは相変わらずのようだが。
とにかくそういうことなら急ぐか。
◇◇◇
建物の中から外に出ると、澄みきった青空が一面に広がっている。そのせいか廃墟の苔《こけ》が一層青々と見えた。イデアベルクの広さは正直言ってまだ把握しきれていないが、ここから他のエリアに行けたと記憶している。
しかしまずは食糧問題が先だろう。
そう思っていたが、
「遅いぞ、イスティ!! 我自らが起こしに行かねばと思っていたところだったぞ!」
――などと、姿を見せたサンフィアに一喝された。見ると他のエルフが数人と、獣人たちといった異種族たちが一斉におれを見ている。同じ場所にシーニャたちが黙って立っているのを見ると、おれが起きるのをずっと待っていたようだ。
「一体何事か聞いても?」
おれの言葉に、ミルシェやフィーサが呆れるように首を左右に振っている。隣にいるルティは事情を知らないのか、首を傾げているようだが。
すると、
「アックさま。いいえ、我がご主人様! どうかここ、イデアベルクに住まわせて頂きたくお願いしますわ」
「――ん? ご主人様……って、今さら何を」
「アック! シーニャ、アックとここに住みたいのだ~!」
「わらわも~!」
何故か改まってお願いされている。
さらには、
「イデアベルクの主、アック・イスティ! 我ら異種族は、イスティの為にありたい! 願わくば中心地であるこの場で生きさせて頂けないだろうか!!」
サンフィアを始めとして、異種族の者たちがおれに頭を下げている。こんな大げさな……とも思ったが、そういうことなら何かを言っておくしかなさそう。
「……い、いいだろう。再建の為、国の為にここで生き、働くことを誓ってもらう!」
横を見るとルティがおれにうっとりしているが、気にしないでおく。
おれの言葉の直後、彼ら彼女たちから歓声が上がっていた。
元々ここは貴族の国だったこともあって王という言葉は当てはまらないが、まずは第一歩といったところだろうか。