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鷹也と最後に会ってから4年の月日が経っていた。
もう会うこともないだろうと思っていたのに、何故私が鷹也になってるの⁉
【過去】
学生時代、私たちは同じ高校に通っていた。入学直後、初めて隣になったのが鷹也だった。
男子にしてはきれいな顔をしているのに残念なくらいいつも無愛想で、目つきが鋭い。それが鷹也の第一印象。決して良い印象ではなかった。
そんな無愛想な鷹也の印象がガラッと変わる事件があったのはゴールデンウィークが明けた頃。
学校の帰り道、私は保育園児数人と二人の保育士さんが近所の公園まで歩いて行く列に出くわした。
お散歩カートには四人の子供が入っていて、一人の保育士が押していた。
もう一人の保育士は、カートの中の子供達より少し大きな子供を両手に二人ずつ連れていた。
わぁ……保育士さんって大変そう、と通り過ぎるのを眺めていたら、手をつなでいた端の子供が車道に向けて頭から盛大に転けてしまった。
私は思わず駆けだして助け起こそうとした。
でも私を追い抜かし、先にその子を助け起こした人がいたのだ。それが鷹也だった。
鷹也が車道から子供を抱き上げた瞬間、バイクが猛スピードで走りすぎた。間一髪だった。
「本っ当にありがとう! あなたは命の恩人よ!」
「いえ……当然のことをしただけです」
「でも素早く駆けつけてくれなかったら、バイクに跳ねられていたかもしれないわ」
一部始終を見ていたからわかる。
肩から落ちたあの子は動けない状況だった。素早く抱き上げなければ、猛スピードで走ってきたバイクは、男の子を避けきれず轢いてしまっていただろう。
幸いにも男の子は頭を打つようなことはなく、おでこと肩と膝を少し擦りむいただけのようだった。
でも、落ちたショックと擦り傷で今も泣き続けている。
「も、もう結構ですから……。無事で良かったです」
そう言って、鷹也は泣いている男の子の頭をポンポンと撫でた。
だが男の子は一瞬鷹也を見上げたものの、さらに泣き出してしまった。おそらく不愛想な顔が怖かったのだろう。
「あらあら……ごめんなさい! りくくん、このお兄さんが助けてくださったのよ? ありがとうって言わないとね」
保育士さんが感謝の言葉を促すも、男の子は保育士さんにしがみついたままだ。
「あの……本当にもう……」
「いいえ! 助けてもらったのにそんなわけには――」
「い、いや、失礼します」
一見無愛想で、感謝の言葉を受けるのが面倒だとばかりの態度だったが、私は見逃さなかった。鷹也の耳が赤くなっていたことを。
あれは保育士の感謝の言葉が照れくさかったのだろう。
隣の席に座っている鷹也とは必要最低限の会話しかしたことがなかったけど、このことをきっかけに彼を見る目が変わった。
この人は正義感と優しさを持ち合わせた人なんだと。
次の日、どうしても感動を伝えたくて昨日の出来事を話してみた。
「げっ……お前、見ていたのか……」
「フフフ、なかなか格好良かったわよ。森勢くんのヒーローっぷり」
「なっ……やめろ……」
今日はわかりやすく赤くなっている。なんだか可愛い。
「からかっているわけじゃなくて、本当に感動したの。あの小さな男の子の命を救ったんだよ。自慢してもいいくらいじゃない」
「別に……誰かが危ない目に遭っていたら、助けるのは当たり前のことだろう」
確かにそうだけど、そんなにとっさに体が動くものじゃない。動いたとしても行動に移せるかどうかは別の話だ。当たり前だと言い切るこの人は、いい人だなと感心した。
それから私は教室でも鷹也に普通に声をかけるようになった。
「次の体育、男子は今何やってるの?」「お腹減ったなー。お昼休みまであと一時間もたないや。一本満足バー半分こしない?」なんて、たわいもないことを。
最初は驚いていたようだった。
でも、一言二言はなんとか返してくれる律儀なところがあるのだ。
何度も話しかけていると、いつの間にか会話のキャッチボールができるようになっていた。
「俺、甘いの嫌いなんだけど」って言いながら、一本満足バーも半分こしてくれるようになったし。懐かない猫が私の手からはチュールを食べてくれたみたいな、そんな嬉しさがあった。
男女にかかわらず友達が多かった私は、それまであまり男性を意識したことがなかった。
もちろん誰かと付き合ったこともなかったし、好意をもった男子もいなかった。
でも鷹也だけは違う。鷹也が耳を赤くしながらぶっきらぼうな物言いをしたり、私にだけ笑いかけたり、ちょこっと俺様な態度をとったりすると、キュンとするのだ。
私はいつの間にか鷹也に恋をしていた。そんな気持ちは生まれて初めてだった。
鷹也も同じ気持ちだとわかったのは高校一年の夏祭の日。
初めて二人で出かけた夏祭の縁日で告白された。
嬉しかった。鷹也から告白してくれるなんて思ってもみなかったから。
そこから私たちはお付き合いを始めたのだ。
お互い誰かと付き合うのは初めてだった。高校を卒業して、同じ大学に入って、学部こそ違ったけれど、私たちはいつも傍にいた。初めてのキスも、初めて体を重ねたのも、全部鷹也と。青春時代の全てに鷹也がいた。
でも、就職して少しした頃、私たちは別れてしまった。きっかけは鷹也の幼馴染みの存在だった。
否定して欲しかった。鷹也は私を理解してくれているって、信じたかった。それに、鷹也の家のことを彼女の口から知りたくなかった。
結局7年も付き合っていたのに、私という存在は鷹也にとって親にも紹介できない、将来を考えられない存在だったのだと思い知らされたのだ。
あの同窓会の日の一夜の過ち日から一度も会っていないのに、今更どうして鷹也に変身してるのよ⁉
ありえなーい!