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茈×赫
『 午前零時の君 』
茈視点
午前零時。
電車の来ない駅のホームで、俺はそいつと出会った。
?) ……誰?
ベンチに寝転がっていたそいつは、俺を見るなり顔をしかめた。
茈) それ、俺の台詞なんだけど
ゞ) いや、俺の台詞だろ。なんで人んちみたいな顔して寝てんの?
ゞ) 駅だけど、ここ
?) 見りゃわかるわ
そいつはけらけら笑って起き上がった。
茶髪に赤色のメッシュ、変なヘアピンに綺麗な赤色の瞳、制服は着ていないし、こんな時間に駅にいる理由もわからない。
というか、ここはどこだ。
さっきまで自分の部屋で寝ていたはずなのに。
?) 名前は?
茈) あ? 先に名乗れよ
赫) 赫
茈) あか?
赫) いえす。お前は?
茈) …茈
赫) へぇー
茈) 興味無さそ
赫はまた笑った。
その笑い方が妙に腹立たしくて、俺はそいつの隣に座った。
どうせ夢だ。
夢なら、もう少し面白いことが起きてもいい。
茈) なぁ、ここどこ?
赫) 駅
茈) それはわかった。何駅?
赫) 知らね
茈) 使えねぇーな。お前
赫) お前もな
気づけば、俺たちはどうでもいい話をしていた。
学校のこと。嫌いな教師のこと。コンビニの新作アイスが微妙だったこと。
赫は俺の話を聞いては笑い、たまに腹の立つ返事をした。
不思議と初対面とは思えなかった。
赫) じゃぁな、茈
赫がそう言った瞬間、駅の時計が零時十分を指した。
視界が白くなる。
次に目を開けたとき、俺は自分のベッドにいた。
夢か、
そう思った。
なのに、翌日の夜も、その次の夜も。
眠るたび、俺は同じ駅にいた。
そして毎回、赫がいた。
赫) うわ、また来た
茈) お前がいるからだろ
赫) 俺、人気者?(笑
茈) 病院行け
そんな会話を、何日も繰り返した。
赫はいつも駅にいた。
俺が学校であったことを話せば、くだらないと笑った。テストで赤点を取ったと話せば、自分のことでもないのに大笑いした。
ある夜、俺が何気なく聞いた。
茈) 赫って、学校どこ?
赫) さぁ
茈) …は?
赫) 忘れた。
茈) お前、頭大丈夫?
赫) たぶんな
茈) 絶対大丈夫じゃねぇーだろ
赫は笑っていた。
でも、少しだけ目が寂しそうだった。
俺はその理由を聞かなかった。
夢の中の相手に、そこまで踏み込む必要もないと思ったから。
それでも、毎晩会ううちに俺は少しずつ変わっていった。
学校で嫌なことがあった日も、赫に話せると思うと、ほんの少しだけ帰り道が楽しくなった。
夜になると、時計を見るようになった。
零時が近づくと、早く眠りたくなった。
自分でも、馬鹿みたいだと思った。
たかが夢だ。
名前しか知らない奴に、何を期待しているんだろう。
赫) なぁ、茈
ある夜、赫が言った。
赫) お前って、明日が来るの、当たり前だと思ってる?
茈) え?なに急に、
赫) いや、なんとなく
茈) 当たり前だろ。明日が来なかったら困るし
赫) そっかッ…
赫はベンチの背もたれに頭を預けた。
赫) いいな、お前
その声が、いつもより少しだけ小さかった。
俺は何も返せなかった。
代わりに、赫の隣に座り直した。
赫) ……なんだよ、急に
茈) 別に
赫) 変な奴
茈) お前に言われたくねぇよ
いつものやり取りだった。
なのに、その夜は零時十分になるまで、俺たちはほとんど話さなかった。
それから数日後。
駅に着くと、赫は珍しくベンチに座らず、ホームの端に立っていた。
赫) 遅かったな!
茈) いつもと同じだろ
赫) うるせっ
赫は笑わなかった。
赫) なぁ?茈
茈) なに?
赫) …明日からここに来なくていいよ
一瞬、意味がわからなかった。
茈) ……ッは?
赫) もう来んなってこと…
茈) 何それ。急にどうしたんだよッ
赫) 別に。飽きた
赫は、いつもみたいに軽い調子で言った。
赫) お前と話してても、つまんねえし
胸の奥が、変なふうに痛んだ。
たかが夢だ。
明日になれば、忘れる。
そう思っていたはずなのに。
茈) ……そっか
俺は笑った。
茈) じゃあ、もう来ねーよ
赫は何も言わなかった。
零時十分。
目が覚めた。
その夜、俺はなかなか眠れなかった。
次の日も、その次の日も。
眠るのが怖くなった。
またあの駅に行って、赫に会ってしまう気がしたから。
そして、もう会えないとわかっていたから。
それでも、俺は眠った。
最後に一度だけ、あいつの顔を見たかった。
午前零時。
駅のホームには、赫がいた。
俺を見ると、目を丸くした。
赫) ……なんで来たんだよ
茈) …忘れ物。
赫) 何も置いてってねーだろ
茈) うるせっ、俺がそう言ったら、そうなんだよ
赫はしばらく黙っていた。
それから、困ったように笑った。
赫) ほんと、茈って面倒くせーな
茈) お前ほどじゃねーよ
いつもどおりの会話だった。
でも、俺たちはもう、わかっていた。
今夜が最後なのだと。
駅の時計は、零時五分を指していた。
赫) 茈。
赫が俺を呼んだ。
赫) 俺さ、お前に会えてよかった
茈) ……何だよ、急に
赫) 聞けよ
赫は笑った。
でも、目は少しも笑っていなかった。
赫) 毎晩、お前が来るの、楽しみだった
俺は黙っていた。
赫) 学校の話とか、どうでもいい話とか。お前がくだらねえことで怒ってんのも、笑ってんのも、全部
赫は一度、言葉を切った。
赫) ……好きだったんだよ、茈のこと⸝⸝
時計の針が、零時六分を指した。
赫) だから、もう来んなって言った
赫は、俺を見なかった。
赫) お前には明日があるだろ。学校も、友達も、これから先も。俺なんかのために、そんなの忘れてほしくなかった
茈) ……馬鹿じゃねーの、
やっと出た言葉は、それだけだった。
赫) 知ってる
赫は笑った。
赫) だから、これでいいんだよ
俺は何も言わなかった。
好きだと伝えることも、嫌いだと嘘をつくこともできなかった。
ただ、赫の制服の袖をつかんだ。
赫が驚いた顔で俺を見る。
俺はその手を離さなかった。
零時七分。
赫) ……茈
零時八分。
赫) ありがとな
零時九分。
俺は赫の顔を、忘れないように見つめた。
生意気な目も、少し曲がった口元も、笑うときに細くなる目も。
全部、覚えておきたかった。
零時十分。
赫) じゃあな、茈
赫が笑った。
いつもみたいに。
まるで、明日も会えるみたいに。
視界が白くなった。
目が覚めたとき、俺は自分の部屋にいた。
カーテンの隙間から、朝日が差し込んでいた。
いつもと同じ朝だった。
制服を着て、顔を洗って、鞄を持つ。
何も変わっていない。
なのに、胸の奥に、何か大切なものを置いてきたような感覚だけが残っていた。
誰かと約束した気がする。
誰かに会いたかった気がする。
でも、誰だったのか思い出せない。
俺はしばらく考えて、諦めた。
どうせ夢だ。
そう思って、玄関を出た。
その日の帰り道、駅の近くを通りかかった。
普段は使わない、古い小さな駅だった。
ふと、掲示板に目が留まった。
そこには、古い新聞記事が一枚、額に入れて飾られていた。
七年前、この駅で起きた事故についての記事だった。
事故に遭ったのは、当時十七歳の少年。
名前は_赫。
俺は、記事の前で立ち尽くした。
写真の中の少年は、少し生意気そうな顔で笑っていた。
その笑い方を、俺は知っていた。
知らないはずなのに。
胸が、痛かった。
どうして泣きそうなのかも、わからなかった。
ただ、もう一度だけ会いたいと思った。
その夜、俺はいつもより早く布団に入った。
午前零時。
夢の中で、あの駅に立った。
けれど、ホームには誰もいなかった。
ベンチも、時計も、見慣れた景色も、全部そこにあった。
赫だけが、いなかった。
俺はベンチに座った。
いつも赫が寝転がっていた場所だった。
茈) ……遅せぇよ、
誰もいないホームに向かって、俺は呟いた。
返事はなかった。
時計が零時十分を指す。
視界が白くなる、その直前。
ふと、隣に誰かが座ったような気がした。
?) ……また来たの?
聞き覚えのある声だった。
俺は顔を上げた。
だが、そこには誰もいない。
それでも、俺は笑った。
茈) うるせーよ
朝になれば、きっとまた忘れてしまう。
それでも…
明日が来ることを、少しだけ好きになれた気がした
だって、俺には明日がある。
赫がくれた、明日がある。
そしていつか、俺がそっちに行く日が来たら。
今度は俺が、あいつを見つけてやる。
だから、それまで。
少しだけ待ってろよ。
赫_。
𝐹𝑖𝑛.
めっちゃ書きなれなかった😭😭😭
まだね、書き方固定してないからめっちゃ前と違うかも((え
コメント
1件
うわ、これ……やばいわ。 第1話から読んでたけど、第2話で完全に持ってかれた。 茈と赫の掛け合い、最初は軽くてちょっと憎たらしい感じなのに、毎晩会ううちに赫の“寂しそうな目”が気になり始めて。最後の「好きだったんだよ、茈のこと」がマジで刺さった……。 あと、新聞記事で赫が7年前に亡くなってたってわかるところ、構成が上手すぎる。 「明日がある」って台詞が、ただの希望じゃなくて、赫が残してくれたものって感じで沁みたわ。 めっちゃ良かった。続き待ってる🔥