【syp side】
「…あ、ここか」
朝7時、普段より幾分静かな学校。早めに登校した俺は、2年生の下駄箱の前で佇んでいた。
とある人物──コネシマ先輩の下駄箱を見つけると、俺はそこに手紙を滑り込ませる。もちろん、彼を屋上に呼び出すためのものだ。
「名前書いたんミスったか?…まあええか、書かんかったら来ーへんやろあの人」
『話したいことがあるので、放課後屋上まで来てください。ショッピ』
時たま俺もこんな内容の手紙を貰うことはあるが、まさか自分が書く側になるとは。コネシマさんはその顔面偏差値故によくラブレターを貰っているが、どんなに綺麗な子に告白されても断っているらしい。あの人心無いから愛とか恋とかわからんのでしょうね。ここに関しては俺も人のこと言えへんけど。
「彼女ほしいーーー」と口癖のように言っているチーノを思い出してくすりと笑う。彼女が欲しいなんて思ったこともないし、そもそも作る理由もない。めんどいやん絶対。
…あまり長いこと居ると誰かと鉢合わせるかもしれない。俺はリュックを背負い直すと、自分の教室へ歩いていった。
♡
「来たで。…ショッピくんが俺を呼び出すん、珍しいな」
「まあ。いつもコネシマさんが俺を引っ張ってきますもんね」
コネシマ先輩は少し遅れてやって来た。ネクタイが少し歪んでいるところを見るに、体育があったんだろう。
「で、何や、話って」
来た。俺は録画中のスマートフォンを胸の前で握り直した。下からの画角にはなるが、辛うじて顔は映るくらいになっている。
あ、なんか緊張してきたな。
手紙を書くのに続いて、まさか自分がこちら側になるなんて、過去の自分が聞いたら驚くだろう。嘘とはいえ今から告白するのだ、喉は乾いて、手もすこし震えていた。覚悟を決めて息を吸い込む。
「あの、先輩、…すきです」
声まで震えていて、自分でも笑いそうになった。
「え」
先輩は空色の瞳をこれでもかと見開いてこちらを見つめる。予想外のことを言われたとでも言うように、口もぽかんと開いたままだった。
「…なんや、………え、ショッピくん、俺のこと好きやったん」
「はい」
…正直、すぐに断られるか、罰ゲームやろお前、と一蹴されるかのどちらかだと思っていたので、俺もまた予想外の返答に困惑する。先輩は短く整えられた金髪を掻くと、あー、と口をもごもごさせた。
「えーーーーと、その」
「?はい、」
「っはー、…」
視線をうろうろ彷徨わせて、先輩は俺と頑なに目を合わせようとしない。二人きりの屋上で、やわらかい春風が頬を撫ぜた。
「あのな、ショッピくん」
「…はい」
やっとこちらへ向き直った先輩は、いつになく真剣な目をしていた。彼は形の整ったうすい唇を開いて、俺の名前を呼ぶ。…これ、もしかして、まずいんちゃう。状況を理解せぬまま、本能が警鐘を鳴らす。気付いたら口から言葉が飛び出ていた。
「あ、あの、嘘です」
「…嘘?」
本当はもう少し楽しもうと思っていたけど、なんとなく、このままだといけない気がしたのだ。先輩に口を開かせてはいけない、と思った俺は矢継ぎ早に言葉を紡ぐ。
「罰ゲームなんです、あの、俺と…ロボロさんとゾムさんとチーノでやってて、負けたから、ふたりに、あーと、ゾムさんとチーノに、告白、誰かに告白してこいって言われて、それで」
「…それで、俺にしたん?」
コネシマさんが薄く目を細めて、首を傾げた。作りものに見紛えるほどに美しく造形されたその顔から、普段よりも人間味が失われたように思えて、俺はそれが恐ろしくて必死に弁解する。
「っはい、その、ちょっとからかおうと言うか、ごめんなさい、違くて」
「あー……………なるほどな?」
先輩はふは、と笑った。正確には口元だけで。
「うん、…じゃあ、付き合おか?」
…その言葉に、俺は耳を疑った。伝わっていないのか、そう思いもう一度繰り返す。
「えっと、だから罰ゲームで」
「嘘なんやろ?好きって言うのは」
「っ、はい」
「うん、分かったけど。…じゃあ、付き合おか?って」
「いや、え?」
コネシマ先輩はふいに距離を詰めると、俺の腰を掴んで引き寄せる。
「撮っとるやろ」
「あ」
スマホを取り上げた先輩は、素早く内カメに変えて腕を伸ばす。画面の中には、青ざめる自分の顔と、口角を上げた彼の顔がよく映っていた。
「これ、あいつらに見せようとしてたん?ほーん、準備ええな」
「ちょっと、さっきから何を、っ」
先輩は俺の言葉に、心底面白そうに笑った。
「ふは、ショッピくんも慌て過ぎとちゃう?」
「そりゃそうでしょ、何する気なんですかアンタ、っん!?」
あ、キスされてる。…そう気付いたときには、もう唇は離れていた。唖然とする俺を横目に、先輩は自分の唇をぺろりと舐める。
「はは、ええ顔するやん。…んじゃ、これから恋人としてよろしくな、ショッピくん」
なにこれ、どうなってんの。誰か説明してくれ。そう心の中で嘆いても、当然返事は返ってこない。
……俺、なんか地雷踏んでもたんかもしれん。吹奏楽部が吹いているらしい下手くそなトランペットの音が、場違いに鳴り響いていた。
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お久しぶりです!ちょっと忙しくて間が空いてしまいましたーーすみません( ;;)
ハートやコメント等、いつも励みになってます。ありがとうございます!今後ともよろしくお願いします〜^_^ではまた!
コメント
5件
どちらの𝖼𝗉も最高です.ᐟ.ᐟ 尊いです.ᐟ.ᐟ✨ 続き楽しみにしてます.ᐟ.ᐟ 無理せず頑張ってください.ᐟ.ᐟ
え!私の推しcpじゃないですか、!? うう最高です😭😭 続き楽しみに待ってます!
うわ…、 マブの方とは違うタイプだあ!! どっちも勿論大好きです本当、… 忙しい中こんな心満たされる作品有難うございます…、