すうすうという規則的な寝息。
そのわりに少し苦しそうな息づかい。
触れた首もとはとんでもなく熱かった。
熱を取るシートでも買ってきたらよかった。食料ばかり買い込んで、そういうのに気が回らなかった。結子さんの元彼から合鍵を取り戻したからそれを使って薬局へ行こうかとも考えたけれど、苦しそうな結子さんを残して出ていくのが心配すぎて留まった。ひとまずタオルを濡らして額に当てる。
……可愛い。
寝顔まで可愛いとか、反則だ。写真撮って待ち受けにしたい……ってアホか俺は。そんなことをしたら結子さんにコンコンと説教される。いやそもそも思考回路がヤバい奴になっているな。
舞い上がっている気持ちを落ち着けるために少し窓を開けた。冷たい空気が入ってくる。換気にもなってちょうどいいだろう。
ほんの少し前の出来事を思い出す。
――「好きな人ができたの。誤解されたら困るから、邪魔しないでくれる?」
元彼に言っていた言葉。失恋したのかと思ったけど、あれは俺のことで間違いないんだよな? 俺に誤解されたくないって思ってくれてたってことだよな?
「俺、自信持ってもいいかな?」
問いかけに応えるものは何もなく。
悶々と考えていたらいつの間にかずいぶんと時間が経っていた。
ゴソゴソと動く気配でふと顔を上げる。どうやら結子さんが目覚めたようだ。薄暗くなっていた部屋の電気を点けると一気に眩しくなった。
「そろそろ薬飲んだほうがいいですよ。何か食べます? 食べれそうです?」
「うん……」
「ヨーグルトとゼリーありますけど、ちゃんと食べられそうならお粥作りますよ」
「お粥よりこってりしたラーメン食べたい」
思いもよらぬ回答。だけど結子さんらしくて思わず笑みがこぼれた。
「あははっ、元気そうで安心した」
ラーメンなんてカップ麺くらいしかないけれど、見せたら「食べる」と頷いた。こういうときは食べたいものを食べるにかぎるよな。
結子さんはのそのそと起き上がってフラフラした足取りでこちらへやってきた。完全に寝起き。もしかして熱がなくても朝はこんな感じだろうかなんて妄想してしまう。
「ふっ、寝癖」
びょんと飛び出す髪の毛に思わず手を伸ばした。整えるように撫でると結子さんの頭の形がわかる。小さくて可愛い。ずっと撫でていたいな。
と思った瞬間、結子さんは両手で顔を覆い、「ううう……うええ……」と変な声を上げた。
「えっ、なにっ、ちょっと」
「恥ずかしい!」
「は?」
「だって素っぴんだもん」
なんか必死そうなのにそんな姿がまた可愛いと思ってしまって、笑った。実に微笑ましいじゃないか。
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