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「……りゅうせいも、大事だよ?」
思わず頭をポンポンと撫でてから、我に返った。せっかく突き放してきたはずなのに、これじゃあ本末転倒じゃないか。
「……ありがとうございます」
「……あれ、意外とリアクション薄いっすよね?」
「本当。え、追うのが好きなだけのタイプ? 振り向かれたら興味なくなるタイプ?」
俺の甘い言葉を受け流し、すぐさまデスクへと向かったりゅうせいの背中を見送る。いっちゃんやだいきも、ふざけ疲れたのか首を傾げながら自席へ戻っていった。
いや、お前らは気づいていないだけだ。
あいつ、今、ハンカチで顔を隠して口元をめちゃくちゃニヤつかせているから。涙を拭くフリをして、赤くなった顔を必死に隠しているだけだ。
「……くそ……可愛すぎんだろ……」
誰にも悟られないように俺も手元で顔を隠し、昂る心拍数を落ち着かせる。……認めざるを得ない。俺はもう、完全に向こうのペースに飲まれている。あのキス以来、ずっと意識しっぱなしだ。マジで思春期の初恋かよ。
夕暮れ時、外回りを終えて部署に戻ると、オフィスは静まり返っていた。
「おかえりなさい、いつきくん! お疲れ様でした!」
早歩きで自席へ向かうと、なぜか俺のデスクにはりゅうせいが腰かけて待っていた。
「お、お疲れ。りゅうせいも今、戻ったの?」
「はい! さっき帰ってきたら、いつきくんがまだだって聞いたので」
「おう、ありがとな」
「コーヒー淹れてきますね」と満面の笑みで席を立つ。自分だって疲れているはずなのに、気を遣わせてしまった。なんか健気で、どうしようもなく可愛い。俺も腰を浮かせ、りゅうせいの分も淹れてやることにした。
「あれ、いつきくん、どうしたんすか?」
「ん? りゅうせいの分も淹れようと思ってな」
「……ありがとうございます」
一瞬、あいつの表情がふっと緩んだ。相変わらず俺に弱くて、可愛いすぎるだろ。
「……コーヒー、どれにしますか?」
「んー、疲れたから、ちょっと甘いのが飲みたい」
「……じゃあ俺も同じやつで」
「ん、わかった」
給湯室の薄暗い照明の下、スティックコーヒーを取り出そうと手を伸ばす。重なるように、りゅうせいの手が俺の手に乗せられた。
「ん? ふふっ」
思わず笑って、りゅうせいの顔を覗き込む。だが、その瞳は笑っていなかった。
「……本当、ダメなんですか? 俺のこと、受け入れられないですか?」
「……ごめん。……大切だなぁと思うから、手は出せない」
あぁ、俺今、逃げた。嫌われたくないから、思わせぶりな言葉で煙に巻いたんだ。
「……会社での関係が、ってことですよね。そうですよね、俺がいつきくんの立場でもそうします」
待って、また鼻をすすってんじゃん。いい加減にしてくれよ、こっちまでもらい泣きしそうになるじゃん。締め付けられるように胸がキリキリして、俺の心臓がどうにかなりそう。