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えっ えええええ まってまって 今放心状態です どういうことですかそれ、、、、、 うわぁ、、、続きが気になりすぎますよ、、、こんな繊細なの描けるの尊敬です、、!続き待ってます!
最後の文を見てがちめに「ぎょえっ⁉︎」と言う声が出てしまった。樒様の物語どう言うところにいてとか、人物がどう言うことをしてるのかすごくわかりやすくて本当に読みやすすぎます!
更新ありがとうございます。 えっえっ、最後、めっちゃ気になります✨
「……あ、」
見開いた僕の視界に広がった、灰色の空で光る雷。降り注ぐ雨が僕の全てを濡らし、 乱れた髪がふわりと宙を遊ぶ。
「っ、!?涼ちゃん!!!!!」
崖の上から僕を見下ろす滉斗の姿がやけにゆっくりと感じた。届くわけなんてないのに、必死に差し伸べられた手のひらを掴もうと手を伸ばす。触れるはずだった温もりの代わりに、僕の手に走った鋭い痛み。どうやら崖から生えていた枝に掠ってしまったみたいだった。痛くて、悲しくて堪らないのに、何故か頭は冷静で、静かに瞼を閉じた。
「っ、う゛……」
いつもは緩やかな水面が石のように固く、背中に鈍い痛みが走る。直ぐに僕の身体を包み込む深い青。先程までの激しい雨の音や轟音は無く、海の中はとても静けさに包まれていた。とても現実とは思えない、別の世界のようでふっ、と身体が軽くなる。違和感を覚えた自身の身体に手のひらを当てた時、ある異変に気が付いてしまった。
「…、息…できてる、? 」
ふと呟いた、音にならないはずの声が海に木霊する。水の中だと言うのに、不思議と出来てしまっている呼吸を確かめるよう、何度も息を吸う。酸素が足りない息苦しい感覚はなく、寧ろ最初からこれが正しかったような気さえしてしまう程だ。
「………僕、っ、……は、っ…ぁ…」
突然頭に、割れるような鋭い痛みが走る。ズキズキと主張する痛みと共に、複数人の声が脳内で響く。何故だか聞き覚えがあるような、懐かしいけれど嫌いな声。煩い自身の心臓の音に、息が苦しくなる。まるでここが水の中であることを思い出したような苦しさに、バタバタと身体を捩る。死にたくない、と本能的に伸ばした手。 視界いっぱいに広がる沢山の泡と共に、誰かが僕の手を掴んだ。ぐっ、と力強く握られた手のひらに、何処か馴染みを感じて目を見開く。
「…ひろ、と…、っ、」
僕と同じように苦しげに眉を顰めながら、しっかりと僕の手を掴む滉斗の姿に目を見開く。滉斗の後ろで僕らを差す光が遠く、僕を掴んだまま上に上がることなんて出来ないはずだ。巻き込む訳にはいかない、と掴まれていた腕を振り払い、意図を伝えようと口を開く。息が出来ていた先程とは違い、言葉と共に溢れ出た酸素が海に溶けていく。暗く狭まる視界の中、大好きな君の瞳が僕をしっかりと捉え、何か言葉を呟いた。
「 」
「でもさ、若井のお父さん来てくれてなかったら、僕たち2人して溺れちゃってたよね。」
あの時若井が言った言葉を、まだ僕は聞けていない。あと少しだけ、もう少しだけ意識が持っていれば、なんてことを何十回も考えた。 あの日僕がした不思議な体験も、ずっと耳に残る雷の音も、忘れたことなんて1度もない。
「今頃海のもずくになってたかも。」
「それ言うなら藻屑だよ。」
僕たちの今に関わっていた事なのに、変わらず呑気に返す若井に笑いを零す。あの後の記憶には何故か濃く霧がかかっていて、所々でしか思い出すことが出来ない。
重い身体と共に開けた視界には真っ白な天井が広がっており、何か機械のような音が一定のリズムで部屋に響いていた。痛む節々と、手のひらで主張する傷の痛みが現実だと僕に教える。ぼんやりとした頭の中、ふと滉斗の事が頭に過ぎった。慌ててベッドから身体を起こそうとしたが、ズキリと走った痛みに動きを制止される。そんな時、隣から馴染みのある声がした。
「りょーちゃん起きた?」
そこには、ベッドの手すりに頬杖をつき、ふわふわとした笑顔でこちらを見ている滉斗が居た。身体に繋がれている点滴が酷く痛々しく、同時に罪悪感も湧き上がってくる。僕があの時足を踏み外していなければ、こんなに大きな事にならなかったのに。滉斗にも、他の人にも迷惑をかけてしまっている。
「……滉斗、」
「ん〜?」
「ごめん……」
泣きそうな気持ちを何とか堪え、震えた声でそう呟く。自然と下がってしまった視界に映る白いベッドの輪郭が朧気に見え、ぽたりと1つ液体が零れた。1度溢れ出してしまったそれを止めることは出来ず、情けない自分を隠すように滉斗から顔を逸らす。
「……良くなったら一緒に見に行こうね。」
僕だけの泣き声が響いてた空間に、滉斗の優しい声がした。何を、と言いかけた口を閉じ、服の袖で雑に涙を拭って顔を上げる。何だかいつもよりも落ち着いて見える滉斗が不思議だった。僕も滉斗も、大切なものは一緒だ。だからこそ、ずっとこの気持ちを引き摺っている訳には行かない。
「絶対いっしょに見に行くんだからね、!おっきく育てるんだから!」
「……、」
涙で塗れた顔を隠すことなく、潤んだままの瞳を真っ直ぐと向けてそう発する。そんな僕の言葉に何も返事を返すことなく、こくりと小さく頷いた滉斗を見つめる。少しの間があった後、突然顔を俯かせてしまった。
「、!?ど、どうしたの滉斗!?どっか痛くなっちゃった!?!?」
「……、いや…なんか安心したら、…」
慌てながらも、ベッドから降りられずにあたふたする僕に向けられた滉斗の瞳には涙が滲んでいた。突然の涙に驚き、何も言葉を出せずにいると、何かが決壊したように大きな声を上げて泣き始めた。
「…っ、う゛……涼ちゃんが無事でよかっ゛だあ゛ぁ゛あ゛………… 」
「…………、自分より泣いてる人見たら涙引っ込むんだね、…」
「涼ちゃんさ。」
「ん?」
遠く先まで続く海を眺めながら思い出に耽っていた僕の意識が、若井から発せられた声で現実に戻される。変わらず海は穏やかに波音を立て、まるで時間の流れを感じさせない。このまま夜が明けなかったら、僕はこの気持ちを閉まっておいたままにできるのだろうか。きっと若井は全て分かっている。僕のことを、僕以上に。
「この街、出てくの? 」
案の定投げかけられた質問に、ぐっ、と言葉が詰まる。今日僕はその事を言う覚悟でここに来た。来たけれど、いざ向かい合って言うとなるとやはり上手く声が出ない。そう、僕は明日この街を出る。幼い頃から2人で共に生きてきたこの海の街。でも、若井と違って僕は外から来た余所者だ。いくら長い年月を一緒に重ねてきたとしても、最初からこの街の人間じゃない事実は無くならない。 それに僕は、
人間じゃない。