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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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学祭までの時間は本当に飛ぶように過ぎていった。キャンパス内も次第にお祭りモードになって、道行く学生らの足取りも浮かれている。本番1週間前はなるべく5人で合わせて通す回数を増やそうと空いた時間を見つけて何度も集まった。初めて顔を合わせてから2か月経っていないとは思えないほど、俺たちのパフォーマンスは息が合って完成度の高いものへと成長していた。もともとそれぞれが人と関わるのをあまり苦手としていないこともあり、メンバー同士が打ち解けるのも早かった。


「どうしよう、もうここ最近ライブが楽しみすぎて全然寝らんない」


若井がいたってまじめな表情で唸る。


「気持ちはわかるけどちゃんと寝なきゃパフォが落ちるよ~」


と眉根を寄せる綾華。最初は彼女のペースにかなり引っ張られてしまったが、案外しっかり者の彼女はいい感じに皆を統率してくれる。高野さんは完全にいじられキャラとしての地位を確立しつつある。それでもいざという時は最年長として頼りになり、学祭ライブ関係の手続きやら必要な用意などは多忙な俺に代わり率先して済ませてくれていた。


「俺も最近寝られない……」


「高野さんは進級がかかったレポートのせいでしょ~自業自得」


めずらしく辛辣な藤澤さん。高野さんも長野出身らしく、同郷のよしみなのか他の人に対してよりもくだけた感じで接している気がする。それがちょっと俺には羨ましい。


「これで単位落として退学決定とかなったら俺も責任感じちゃうんで、絶対落とさないでくださいよ」


「ウワァ~5歳下に真っ当な心配をされている……」


落ち込んで肩を落とす高野さんに


「まぁこれでもあげるんで元気出してください」


と何気なく手元のルーズリーフに落書きしていた高野さんの似顔絵を渡す。地味に似てるのがすごいけどなんかやだな……と彼は苦々しい表情をした。


「そもそもなんでそんなに留年してるんですか?」


何となく聞きにくく思って今まで聞いてこなかったことに若井が切り込む。う~ん、と高野さんは唸る。


「まぁいろいろ理由はあるんだけど、旅に出るのが好きで、バイトして金貯めて旅に出て、ってしてたら気づいたら単位足りなくなってた、って感じかな」


思っていたより壮大で、思っていたより計画性がない人間の話だ。


「旅ってどこ行くんですか?」


と俺が尋ねると


「いろんなとこ行ったよ、国内も国外も。インドとか楽しかったけどな」


そういってインドの思い出をいくつか話してくれる。海外か、そういえば行ったことないな。いつか行ってみたいけれど。


「いいな~海外。行ったことないな~」


と綾華。


「涼くんはあるんだよね?海外」


えっ、意外なところで。と藤澤さんのほうを見る。


「あ~、あるって言っても中学生のころよ?ホームステイでね、アメリカに10日間ほど」


「えっ、じゃあ英語……」


と俺が言いかけると、藤澤さんはものすごい勢いで首を振った。


「ムリ。ワカンナイ。エイゴ……」


なぜかカタコト。そんなことも言ってらんないでしょ~と綾華が笑う。


「教採、英語もあるじゃん」


う、と藤澤さんが苦虫を嚙み潰したような顔をする。


「試験までは、ま、まだ1年あるから……」


そういえば、と俺は純粋な疑問を口にする。


「教員になる人っていわゆる就職活動ってどんなことするんですか?」


あー、確かに企業就職とはわけが違うもんねえと藤澤さんと綾華が顔を見合わせる。


「僕は小学校の教員志望なんだけど、自治体によって違うけど5月~7月くらいに実施される教採……教員採用試験を受けて合格すればOKて感じかなぁ。そのまえに教員免許取るために大学の指定した単位を取得したり教育実習行ったりするんだけど」


「あれ、そういえば涼くん教育実習は?」


「僕は後期組だから、9月の予定~」


へぇ、と綾華が頷く。


「じゃあ今年の夏は大忙しだね~」


「うん、9月はほとんど長野にいることになるかなぁ~、向こうで実習希望出してるし」


なるほど、と頷いて見せるが、あまりイメージが湧いてこない。正直に言ってこの時の俺は、週末に控えている学祭ライブのことで頭がいっぱいだったのだ。


その時、高野さんが「おっ」と小さく声をあげる。


「ようやく実行委員のほうからタイムテーブル出たぜ」


ようやくか、と全員が前のめりに高野さんの次の言葉を待つ。野外ステージイベントの1つである軽音サークルのライブは、一般公開の時間でもある14時~16時半と決まっていたのだが、それぞれのバンドの出演時間は本番3日前にして決まっていなかったのだ。実行委員は何してるんだと文句をいっていたのが半刻ほど前のことだった。


「俺たちは……16時20分から30分。トリだ」


思わず俺たちはざわつく。2年生や3年生のバンドだけでなく、なかには4年生のバンドもいる中で俺たちがトリ?


「なんでだろう……順番て責任者の生年月日で決めたのかな?」


書類担当したの俺だし、責任者俺になってるから……高野さんが首を傾げながら言う。絶対それだろ。


「24歳は他にはいないもんなぁ……」


若井の言葉に皆が頷く。その時藤澤さんが、あれっと声をあげた。


「そういえば僕らバンド名決めてなくない?どうなってるの、登録」


なんでそんな重要なことを忘れていたんだろう。曲の完成度を挙げることに一生懸命になりすぎて、すっかり忘れていた。皆も俺の要求に追われていただろうからそれでいっぱいいっぱいだったのかもしれない。


あぁ、と高野さんが間延びした声で言う。


「学祭だし、とりあえずでいいかなって俺出しといてあるよ」


「えっ、相談してくださいよ!ちなみになんて登録したんですか」


「ん?『もっくんと愉快な音楽隊』」


でもぴったりじゃない?と無駄に爽やかなスマイルを振りまく高野さんに、こらえきれないというように吹き出す藤澤さん。下を向いているが肩が震えている綾華。俺は思わず


「高野ぉぉぉ!!てめぇ何してくれてんだぁっ!」


と叫んだ。

焦ってあんなに取り乱す元貴は初めて見た、と後で若井は楽しげに話していた。


※※※

地元映画館のゼンジンライビュのチケットを無事購入出来てわくわくな作者です

週末は同じくジャムズな母と一緒に参戦してきます(ง ˙꒳​˙ )ว

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