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 俺は今まで、何をしてきたんだろうか。
 ただ、ひたすらに――疲れた。
 心の底から、疲れたんだ。
 このまま、死んで、全てを終えてしまいたい。
 だが……
 自分の尻拭いは、自分でしなきゃならない。
 同じ過ちを、もう二度と繰り返さないように。
 多くの人に、それを伝えられるように。
 ここに、全てを本として残しておこう。
 それが俺の――生きる意味だ。
 
 
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 大陸の端の方にある、小さな村で俺は生まれた。
 アレス――そう命名された。
 村はド田舎で、ほぼ原始的な生活をしていた。狩りや採集で生計を立て、日々を過ごしていたんだ。
 だが、原始的と言っても、ただそれだけじゃない。実は、村には収入源として、ちょっとした「派遣会社」のような役割もあった。
 屈強な男たちばかりの村だから、護衛や荷物運びなど、腕力を活かした仕事の依頼が来ていたんだ。
 この村は脳筋ばかりで、俺もその一人に違いない。だけど、みんな良い奴だった。
 ここでは、成人してすぐ働けるように、早くから稽古が始まる。俺も例外じゃなく、3歳あたりから魔法や剣の訓練を受けた。
 初めての稽古は、いきなり外に連れ出されて、見たこともない剣を握らされ、ボロボロだったよ。
 「おい! アレス!」
 「はい! 父さん!」
 「強くなりたいか!」
 「はい!」
 「なら! 俺を倒してみろ!」
 「は???」
 あの時の事を思い出す度に滑稽だった、と自分の事ながら笑ってしまうよ。
父さんも説明不足が過ぎるよ。
 まあ、今思えばあれが父さんなりの教育方法だったんだろうね。不器用だけど俺にとっては良い父だよ。
 母さんは、かつて父さんと共に冒険者だった。
 だが、父さんを庇って命を落としたそうだ。
 母さんを失って、父さんは一度、自ら命を絶とうとしたことがあるらしい。
 だが、残されたアレスはどうなるんだ、と踏みとどまったそうだ。
 母さんに関しての記憶はないが、
事あるごとに「母さんはな!」と楽しそうに語るから、とても素敵な人だったんだろうと思う。
 
 
 別にこの村が嫌いってわけじゃないが、
早く大人になってこの村から出たかったよ。
 村の外にどんな世界が広がっているのか、気になって仕方がなかったからね。
 冒険者になって魔物を薙ぎ倒していく妄想は毎日のようにしたさ。あるあるだろ?
 まあ、そんな感じの日々を送っていたんだ。
 
 
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 8歳になった。
 ある日、父さんに頼まれて釣りに行っていた。
 ふと隣を見ると、二メートルくらいの大男が釣りをしている。武士のような服装で、腰には刀を差していた。三度笠を深く被り、口には布を巻いている。
顔はほとんど見えない。
 だが、ただ立っているだけで謎の貫禄があった。押しても刺してもびくともしない、まるで地蔵のような、そんな印象を受けた。
 その男が唐突に俺に話しかけてきた。
 「貴様、呪われているな」
 何を言っているのか分からなかった。
その一言一言が重く、圧し潰されるかと思うほどだった。体が固まり、声も出せなくなった。
 すると、何か箱のようなものを俺の足元に投げてきた。
 「これをやる。死にそうになったら、それを壊せ」
 そう言うと、そいつは消えるように何処かへ行ってしまった。
 「ぶはぁ!」
 息をすることさえ忘れていた。あの男は一体何者だったのか、この箱を壊すとどうなるのか。頭の中は疑問でいっぱいだった。
 その日は、そのまま帰った。釣りなんかしてる場合じゃないと思ったからだ。
 「アルス! おかえり!」
 「うん、ただいま」
 「聞いてくれ!アルス! 今日、村の外で魔物が出たんだ! 父さんはそれを次々と倒して……って、どうしたんだ?浮かない顔して」
 あの出来事を話そうとした。
 「父さん、今日、釣りに行ったら変なこ……」
 でも言いかけてやめた。不思議と、話してはいけない気がしたんだ。話そうとすると、あの男の姿が脳裏に浮かぶ。
 「……やっぱ、何でもない」
 「そうか! 辛かったら何でも話せよ!それでな!魔物を次々と倒して……」
 父さんは、相変わらずだ。
 
 
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 俺は15歳になった。
 この村には、誕生日を祝う習慣はない。
 でも、15歳の成人になった時だけは特別だ。友達や知り合いを全員呼んで、大勢で盛大に祝う。
 その日、父さんと一緒に、そのパーティーの準備をしていた。
 「父さん、料理上手くなったな。昔は下手くそだったのに」
 俺がそう褒めると、父さんは「むふー」と自慢げに鼻を鳴らした。
 父さんは少し老けたが中身は昔から変わらないな、なんて思っていた。
 やがて、お客さんたちが集まり、パーティーが始まった。
 この村では、成人を迎えた者にはプレゼントを贈るのが恒例だ。綺麗に包装されたもの、大きな物、小さな物……いろいろなプレゼントが並んでいる。
 「ちょっと、俺のも取ってくるな!」
 父さんはウキウキした様子で扉を開けて、どこかへ行った。俺は父さんの帰りを楽しみにしながら、他の人たちと談笑していた。
 しばらくして扉が開き、父さんが帰ってきた。
 「おーい!アルス!これが父さんからのプレ……」
 父さんの手から包装されたプレゼントが滑り落ちた。
 その瞬間、奇妙な事が起きたんだ。
 扉の前に立つ、父さんの胸から腕が生えていた。
 それが、後ろから父さんの胸を穿った何者かの手だと言う事を数秒後に理解した。