…2人でホテルに宿泊するも、キス以上のことは何も、なかった。
けど、一晩中抱きしめて離してくれなくて…ドキドキしてよく眠れなくて。
だって、私よりずっと大きい手が背中を擦るし、熱に浮かされたみたいな目で見つめてくるし…頬やおでこにキスは降ってくるし…
もちろん唇にだって。
結果的に、真莉ちゃんに抱きしめられた時と、やっぱり大きく違うって確認できた。
それ以上のことにはならなかったのは、こんなタイミングで関係をすすめるべきではないって、響も思ってくれたからだよね。
そんな響を、今まで以上に、ちょっとだけ好きになった。
………………
マンションに戻ってきた週明け。
出かけに響に聞かれる。
「琴音は、今日は出かけるのか?」
「…あ…うん。大学に行く。そろそろ卒論のこと、先生に相談しなきゃ」
すると響、ちょっと不機嫌そうに言った。
「…真莉には、会うなよ」
言われて、正直ドキっとした。
「…返事は?」
「あ…はい」
真莉ちゃんから陽気なメッセージが入ったのは、その日の大学からの帰り道。
『あれから響さんに鬱陶しいほど愛された?まだ寝てるかなー』
あれから…って、丸1日たってるよ?
寝てるわけないじゃん。
響もどれほど体力オバケだと思われてるんだ?
帰るところだったから、すぐに電話した。
『おー!処女喪失した?』
は?せっかくごめんねって謝ろうとしたのに、変なこと言ってくるから怒っちゃう!
「うるさいなーっ!ほっとけ!」
ケラケラ笑う真莉ちゃんの声を聞きながら、ハグしてキスしたけど、前となにも変わらないことを実感した。
聞かなくてもわかる。
私とのハグとキスは、響とのそれと、どれほど違うか…理解させるためのもので。
何か気持ちがあったわけではないってこと。
「ありがとね。真莉ちゃん。あと、暗黙のルール破ってごめんね、それから…」
「いっぺんに言うなよ。まずはそこまで!」
それから…のあとに言おうとしたのは、私を部屋に上げる前に、響に連絡してくれてありがとうってこと。
今回はまさに…男友達じゃないとできない手助けをしてもらって、本当に感謝だった。
響のことが好きってわかって、普通だったらこのまま、うまくいくものなのかな…。
多分だけど、そういうケースが多いと思ってた。
ずっと私を好きだと思い続けてくれた響と再会して、私も好きだった気持ちを思いだしたんだから…。
…それなのに、なんでこうなる?
「今日大学から帰ったの何時?」
笑顔なく帰ってきた響、ネクタイを乱暴にはずしながら怖い顔でそう聞いてきた。
「え?えーっと…18時頃かな」
「真莉とは?」
「会ってないよ…でも」
言いよどんだ私に、さっと顔を向けて、ずんずん近寄ってきて目の前まで顔が寄ってくる。
「…でも?なに」
こわっ!
「で、電話で話したけど」
「何分?」
「ん?…と、5分くらい?」
「どんな話?」
それは…今の響を見てると、言わないほうがいいと思った。
「たいした話じゃないよ…」
「…!」
響がさらに私を追い詰めようとした時、不意に携帯のバイブが着信を知らせた。
「…」
「…響の、鳴ってるよ?」
憮然とした表情を崩さずに、私から視線を外すこともなく、手元の携帯を手に取る響。
「…なんだ?」
…怖っ
機嫌の悪い響に電話してしまった見知らぬ人に同情した。
それにしても、こんなに感情あらわにして携帯に出ていい相手って、親しい人かな…なんて思ってたら。
「この間電話しただろ?優菜が出ないのが悪いんじゃねぇかっ!」
優菜…?
話し始めて、さすがに私から目線を外した響を見上げてしまう。
今、この間電話した…って言った?
なんだ…今でも親しいんだ…。
「…優菜が来るって」
「は?」
着信を切ってしまった響。
「なんだよ。共通の幼なじみなんだから、別にいいだろ」
そのままバスルームに行ってしまった。
インターホンが鳴ったのは、それから5分くらいしてから。
さすがにインターホンの対応くらいはできるようになった私が、モニター越しに出る。
優菜ちゃんが手を振ってる…
っていうか、出てよかった?
隠れてた方がいい案件だった?
「久しぶり…琴音!ぜんっぜん変わってないね」
迷いもなく部屋にたどり着いた優菜ちゃん。
…嫌な予感しかしない。
「優菜ちゃんは、すごく綺麗になったね」
もともと美人さんだったけど。
なんだか…この間響とキスしてた元カノを思い出しちゃう。
私1人、子供の頃のまま、成長してない…みたいな?
「おー優菜来たか…」
響、腰にバスタオルのまま平気で出てきた。
私はいまだにドキドキするのに、優菜ちゃんは、平気な顔。
…見慣れてる?
「そういえばこの間泊まってった時のTシャツは?今回出張に持っていこうと思って、無くて焦った」
Tシャツ…?泊まってった?
優菜ちゃん、平気で寝室に入っていく。
そして勝手にいじってる。
遠慮がなくて、それを響も止めないんだ…。
幼なじみだから?
それとも…私との再会前には、あの元カノみたいに…
「優菜、勝手にいじるな。今は琴音のも入ってるんだからな?」
今は。
でも昔は?
…平気でいじらせてたんだ。
あぁ…なんだろ。また黒いシミが胸いっぱいに広がる。
…………
「…ちょっと琴音?聞いてる?」
突然目の前で手のひらをヒラヒラ振られてハッとした。
「ごめん。聞いてない」
大きなダイニングテーブル。
目の前に優菜ちゃんと響が座ってる。
なんかこの座る位置、おかしくない?
響は私にごちゃごちゃ言ってくるんだから…恋人だよね?
なのに優菜ちゃんの隣に座るの…?
テーブルの上には、さっき届けられたデリバリーのピザとか唐揚げ。
そして、冷蔵庫の野菜を使って、サラダを作ってくれた。
優菜ちゃんが。
なんか…今一緒に暮らしてるのは、私だか優菜ちゃんだかわかんないな。
「温泉!行こうって話だよ?」
「温泉…?」
「そう!3人で、再会を祝して!もうすぐ琴音、就職でしょ?その前に1泊行こうよ!」
いつの間にか響のピリピリした雰囲気も和らいでいる。
何も言わないってことは、賛成ってことかな。
「うん…いいね」
そう言ってみたらば、後は優菜ちゃんが場所と日にちを決めてしまった。
目の前の2人のほうが、私と響よりずっと親しくて近い感じ。
旅行なんて行ったら、私1人でずっと疎外感を味わうのかな。
…でも優菜ちゃん、昔から言い出したら聞かない人。
「じゃあ予約するよ!3人で」
携帯をタップする直前、言ってしまった。
「いや!4人で!」
響の視線がちょっと冷たくなった気がした。
……………
「まさか真莉を誘うとか言うんじゃないだろうな?」
優菜ちゃんが帰って、早速私を睨む響。
「言うよ。この前真莉ちゃんに迷惑かけたし。別にいいよね?」
「お前、この前のこと、俺がどんなに…」
「私だって一緒じゃん!」
私だって、元カノとのキスシーン見たもん。
「さっきだって、なんで優菜ちゃんの隣に座るの?」
「は?」
意味わかんないみたいな顔して、怒ったような顔をしてみせる響。
「…なんか、私がお客さんみたいだった。
私のことごちゃごちゃ言うくせに、そういうとこ全然わかってないよね?」
「あれは…優菜が勝手に隣に座ってきただけで…」
「お風呂上りに裸みたいな格好で出てくるしっ!」
響、さすがに黙った。
「恋人とか好きとか言うけど、線引きが曖昧なのっ!そんなの私は嫌だからっ!」
私も…恋愛経験なんてほぼ皆無なのに、よくもまぁこんなにペラペラ喋れる…。
「響はなんにもわかってないっ!」
詰め寄ったついでに全部言ってやる。
「響、優菜ちゃんと日常的に連絡取ってるんじゃん。私ばっかり、真莉ちゃんを遠ざけようとするけど、そんなのおかしいよ」
「優菜は幼なじみだろ?お前と共通の友達って認識で…!」
「幼なじみだって、優菜ちゃんは子供の頃から響のこと好きだよ?それ言ったよね?再会した時」
「俺は一度も女とか思ったことねぇわ」
「それを言うなら真莉ちゃんだって、キスしてハグしたけど、全然友達だもん!私を女として見たからしたことじゃないもん!」
「それを…言うなよ!」
一気に言い合って、お互い息が切れる…。
「優菜ちゃん、ここに泊まってたんだね。私よりずっとこの部屋のこと知ってるみたいだった。もしかして響…」
「何もないからな。子供の頃の延長。泊まるって言っても、朝起きたらソファで寝てただけ」
「…」
「なぁ…琴音…」
「私は真莉ちゃんとは友達でいたい。温泉、誘うから」
それだけ言って、プイっと顔を背け、先に寝室に行って横になった。
コメント
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琴音ちゃんの言う通り😤 響が悪い💢 全くわかってない💢 顔洗って出直してこーいっ😤 琴音ちゃんもっと言ったれーっ💨