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夕暮れと夜の境目みたいな路地だった。
街灯はついているのに、どこか暗い。
ゴミ袋の影で、小さな黒い塊が震えていた。
「……お前も、ひとり?」
しゃがみこんだのは、白い髪の青年。
赤い目が細く笑う。
その口元には、隠しきれない鋭い歯。
黒い塊、子猫は、威嚇の声を上げた。
毛を逆立て、青い目をぎらつかせる。
通りすがりの人間が足を止める。
青年を見て、ひそひそ声。
「……こわ」
「なんかやばくない?不審者?」
青年は振り返らない。
ただ、少しだけ目を伏せる。
「あー……ごめんな。怖いよな」
それが誰に向けた言葉なのかは、分からない。
彼は手を伸ばさない。
無理に触れない。
ただ同じ高さで、じっと待つ。
「取って食ったりはしねぇよ?……たぶん」
冗談めかして笑う。
でもその目は、まっすぐだった。
子猫は逃げない。
威嚇はする。
けれど、目を逸らさない。
数分の沈黙。
風が吹いて、白い髪が揺れる。
赤と青が、同じ高さでぶつかる。
青年がぽつりと呟く。
「……寒いなぁ」
その一言に、子猫の耳がぴくりと動いた。
ゆっくりと、一歩。
また一歩。
威嚇をやめたわけじゃない。
でも、逃げる選択はしなかった。
青年は、ほんの少しだけ目を見開く。
「いいのか?」
答えはない。
代わりに、黒い体が白い膝の上に跳び乗った。
一瞬、時間が止まる。
通りすがりの人間が息を呑む。
怖いと囁かれていた“怪物みたいな人間”の膝で
黒猫が丸くなる。
青年の喉が、小さく鳴った。
笑ったのか、泣きそうなのか分からない声。
「……そっか」
そっと、ぎこちなく撫でる。
舌も、牙も、赤い目も。
そのときだけは、何も隠さなかった。
「じゃあ、お前は……ソラだな」
黒い毛に、青い目。
夜から朝へ変わる色。
「俺はアカツキ。……まあ、どう見えても夜側だけどな」
ソラは目を細めただけだった。
でも、その青は確かに言っていた。
お前は、夜じゃない。
路地裏の片隅で
夜明けが、ひとつ生まれた。