テラーノベル
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「はーい、静粛にー!!裁定のお時間でーすよ! 」
崩れかけた街の中央で、彼は手を叩いた。
瓦礫の山。焦げた空気。泣き声。
それでも彼の声だけは、晴れの日みたいに軽い。
「本日の均衡値、大幅オーバー!!」
「というわけで〜?両陣営から三名ずつ削減でお願いしまーす!」
怒号が飛ぶ。
「ふざけるな!!」 「なぜ俺たちが!」
彼は笑う。
「だってワタクシ、中立なんでぇ」
その言葉は、よく通る。
よく通って、よく嘲笑う。
昔、言われたことがある。
どうして真面目に聞けないのか。
どうして茶化すのか。
期待していたのに。
最後に。
「あなたみたいな子を育てた覚えはない」
ああ、そうかと思った。
自分は、どこかおかしいのだと。
数え間違いみたいなものなのだと。
それ以来、彼は決めた。
自分は計算に入れない。
だって誤差だから。
「……番号ではなく、名前を」
静かな声が背後から落ちる。
「……やあルリちゃん。……久しぶりー!!」
振り返らなくても分かる。
透き通る瞳の補佐官。
「対象六名、個体名確認を」
「数字で十分でしょ?」
「十分ではありません」
彼は肩をすくめる。
「名前なんて呼んだらさ、重くなるじゃん」
ルリは一瞬だけ彼を見る。
「重さを避けることは、中立ではありません」
「えー?僕ちゃんと平等だよ?」
彼は端末を掲げる。
六。三対三。
完璧な対称。
そこに自分の番号は、最初から存在しない。
対象のひとり、少女が叫ぶ。
「私が消えたら、何も残らないんです!!」
彼は明るく首を傾げる。
「いやいや、世界は回るよ?」
少女は震えながら続ける。
「あなたは安全な場所から数えてるだけじゃないですか!」
空気が止まる。
彼の笑顔が、ほんの少しだけ固まる。
安全。
その言葉が、奥のほうに刺さる。
(僕は安全?)
「あははっ!!」
違う。
違うはずだ。
自分はただ、いないことにしているだけだ。
「ばっかじゃないの?!俺はただの…!!」
ルリが告げる。
「裁定を」
彼は深呼吸する。
そして、いつもの調子で言う。
「……はいはい、時間でーす!!」
指が動く。
削減実行。
光が六つ、空へ溶ける。
少女の声は途中で消える。
静寂。
彼は端末を確認する。
均衡値、正常。
「ほらね?ちゃんと平等〜」
ルリが静かに画面を見る。
「……未計上個体が一名あります」
彼は笑う。
「バグじゃない? 」
「裁定者が計算式に含まれていません」
「あー、それ?」
彼は軽く手を振る。
「僕は審判だから。プレイヤーじゃないし〜?」
ルリの瞳がわずかに揺れる。
「あなたも、この世界に存在しています」
彼は空を見上げる。
煙の向こうに、青。
「存在してるってさ」
少し間。
「証明いるわけ?」
端末が、微かに警告音を鳴らす。
【均衡値:微小誤差】
世界は崩れない。
都市も落ちない。
ただ、ほんのわずかに、針がずれている。
「ほら、誤差」
彼は笑う。
明るく。
何事もなかったように。
「要るとか要らないの話じゃないんだよ」
それでも、どこか空っぽな声で。
ルリは記録する。
削減数:六
未計上個体:一
彼の名前は、どこにも書かれない。
彼だけが、自分を数えない。
空は青い。
世界は回る。
均衡は保たれている。
ただひとつ。
計算式の外に立つ“個”が、今日も笑っている。
それが、この世界の中立だった。
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イメージソング『個々々々々々人』Sohbana 様