コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「こ、これは!? やっぱりそうなのか……」
「何のこと? デミリス」
「ここに来るまでにかなりの冒険者と出会ったんだ。目的地は砦だったんだろうけど、そうじゃなかったんだよ。多分共和国の狙いは地下都市なんだ!」
不安そうな二人の表情を眺めていると、視線に気づいたのかアクセリナと目が合った。焦った様子で騒いでいたところから予想するが、地下洞を通って助けに行きたいように思える。
「……あのっ、アックさん! 地下都市の――」
予想もしていたし声がかかることも分かったので、おれはそれとなく厳しめな言葉を投げた。
「地下都市に向かうには地上から戻るのが最善。地下都市はまだ未開通な感じがするので心配は不要かと」
「そっ、そうなのですか!? そんなことまで何故……」
「それに複数の強い気配もありますよ」
地中を掘っている気配を感じるが、その強さを探る限りデミリスの実力では厳しそうだ。
「強い気配!? もしかしてオレでは厳しいんですか?」
「残念ながら多勢に無勢というやつです」
「く、くそ……」
悔しがるデミリスには悪いが、戦いに不慣れな剣士に無理はさせられない。だが、砦の冒険者と交戦したことが今になって妙に気にかかる。ここで不安そうにしている二人を置き去りにするわけにも行かないので、デミリスたちとおれたちは砦の内部に入ることに。
「だぁれもいないですね~? どこに隠れちゃったんでしょう?」
「ウニャ……さっきはたくさんいたのだ!」
「わらわも見ていたなの。わらわたちと一緒にここで戦っていた冒険者たちが戸惑っていたなの」
砦の中は見事にもぬけの殻だった。外にあれだけ集まっていた冒険者の姿も、今は全く見当たらない。シーニャたちとデミリスは、少なくともおれと遭遇するまで砦の中にいたようだ。そこから外に出て来てから戦いを加味しても、大した時間は経っていないわけだが。
このだだっ広い広間のような空間から一体どこへ消えるというのか。
こういう時こそスキルの出番だな。おれは神経を集中させ、砦内部と周辺をスキャンした。すると、すぐ近くから強い気配を感じた。だが感じた気配は砦の真下からだった。
つまり、行き止まりに見える壁から地下へと続く道があるということになる。
「アック様~? 難しい顔をしてどうしたんですか~? もしも~し?」
「ウニャ? アック、どうしたのだ?」
「こういうアック様はわたしが一番よく知っているんです! アック様が難しい顔をしている時は、お腹が空いている時なんですよ!」
「シーニャもお腹が空いているのだ。ドワーフ、何か作れるのだ?」
ん? 見える名前はキニエス・ベッツか。確かアグエスタで戦った奴だった気がするな。奴はAランク程度の強さだからデミリスなら勝てそうではあるが、サーチに引っかからない奴が複数いるということは油断出来ない。
地下洞の先にいる気配の方がもっとやばそうだ。途中まで行って、引き返すので十分だろう。
「アック様っ! さささ、どうぞどうぞ! 特製の焦げ焦げパンですっ!」
「んごがっ!?」
不覚にも程がある。まさかおれがスキルを使って集中していたとこにいきなり食べさせ攻撃を喰らうなんて。
もしかしてわずかな時間でも不安を感じさせてしまったのか?
「ふっふっふ~分かっていますよ? アック様は焦げたパンがお好みってことを~」
「……よ、よせ、口に突っ込むな!」
【ルティ特製焦げ焦げパン 黒い気配を探れる】
な!? ちゃっかりと効果がついている?
ありがたいようなそうでないような。
「あ、あの、アックさん」
「ここはオレが言うよ。突然すみません、オレたちの頼みを聞いてくれないでしょうか?」
「……んぐ、もぐっ……何です?」
「何か嫌な感じがあるんです。もし砦内部に隠し通路があってそこからレイウルムに行けるとしたら、そうしたら手練れの冒険者、それも相当数の者たちが行くことになるんじゃないかと思うんです……」
スキャンで探った感じでは確かに隠し通路。というか地下洞があった。そこに連れて行くことは出来るがどうしたものか。
「ここには地下洞に繋がる道があると思います。行くには行きますが、おれたちは途中で引き返します。それでも良ければ……」
「そ、それでいいです。オレ自身がレイウルムに行けそうなら……」
「私も微力ながら、弟と共に!」
アクセリナとデミリスは不安そうにしている。しかし地下洞の存在に気付いた以上、行くしかない。それに途中で戻るにしても、キニエス・ベッツと遭遇する可能性があるのは確かだ。そして問題は、その先の気配に対し奴らが気付いているかどうか。
もしそれが地下に眠る魔物だったら厄介すぎるが、それでも進むしかない。
「お味はどうですか~アック様?」
「あ~……うん」