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家に帰るとすぐシャワーを浴び、制服を洗ってコインランドリーで乾かした。
けい子さんはきっと着替えに家に帰ってくるし、雨に濡れたと知られたら心配させてしまう。
思った通り、けい子さんは夕方に戻ってきた。
「今日はあいにくの天気ねぇ」
そう言いながら浴衣に袖を通すと、思い出したようにこちらを振り返る。
「あぁ、澪。
悪いんだけど、今日はレイとふたりで夕飯を済ませてくれない?
私は教室で食べるし、今日はパパも遅いから、適当にお願い」
「えっ」
私はうわずった声をあげてしまった。
「え、澪もどこか出かける予定だった?」
「あ、いや……。
わかった。なにか作るね」
私は乾いた笑みで頷くと、出ていくけい子さんを見送った。
玄関の戸が閉まると、思わずため息が漏れる。
(ほんと、今日は厄日だ……)
今日だけは絶対にレイと関わるつもりはなかったのに、けい子さんに言われたら仕方がない。
私は台所に向かい、冷蔵庫をあけた。
レイがこの家に滞在して、2週間。
どうやら彼は食べ物の好き嫌いがないようで、けい子さんの出したものを残したのを見たことがない。
(もう、パスタでいっか)
簡単に作って食べられるものしか作りたくない。
そう思ってベーコンを取り出した時、後ろで物音がした。
びくりと肩が跳ねたけど、そこにいる相手はひとりしかいない。
私は振り返らず、黙々と調理を始めた。
レイは私のとなりに立ち、冷蔵庫からコーラを取り出して部屋に戻っていく。
いなくなったことにほっとしたけど、パスタが出来上がると、また気が重くなった。
『……レイ、ごはんできたよ』
仕方なく部屋にレイを呼びに行くと、中から返事がなかった。
(あれ、いないの?)
さっき階段をあがる足音がしたのは、気のせいだったんだろうか。
ゆっくりふすまを開ければ、彼はそこにいた。
だけど彼は上半身裸で、まさに今シャツを着るところだった。
『ご、ごめん!』
私は咄嗟に謝り、急いでふすまを閉める。
(もう、なんなの……!)
謝ってしまったけど、着替えてたんなら「着替えてる」って返事をしてよ。
(ほんっと、信じられない!)
内心文句を並べて、逸る鼓動を逃しつつ階段を下りる。
やっぱりレイなんて大嫌い。
彼が下りてくる前にさっさと食べてしまおうと、私は先にフォークをとった。
だけどすぐにレイも私の向いに座るから、気まずすぎてパスタを喉に詰めそうになった。
それでも急いで食事を終え、席を立つ。
これ以上レイといたくないし、相手だってそうだろう。
後で洗い物をすればいいと、私は自分の部屋に逃げ戻った。
網戸越しの風で、部屋の中は湿った雨の匂いがしていた。
私はベッドに転がり、天井を見つめる。
無意識にため息をついた時、部屋のドアがノックされた。
反射的に飛び起きた私は、はっとして布団を引っ張って潜り込んだ。
話したくないし、顔を合わせたくもない。
なのに一呼吸置いて、ドアが開いた音がした。
『ミオ』
レイが私を呼ぶ。
だけど私は布団を被ったまま動かない。
もう一度『ミオ』と名を呼ばれた時、私は返事の代わりに『出てって』と叫んだ。
レイが私に話しかける時は、用のある時しかないってわかってる。
けど、どうしても今日はこれ以上レイと関わりたくない。
布団の中は暑くって、じっとしていても汗が体を伝う。
(もう、早く出ていってよ)
心の中で念じていると、しばらくしてドアが閉まる音がした。
警戒してしばらく動かずにいたけれど、彼が本当に出て行ったとわかると、布団を跳ね飛ばすようにして起き上がった。
(暑っつ……)
どっと吹き出た汗はひどくて、これじゃ拭き取るよりシャワーをしたほうが早い。
私は着替えを掴み、レイに気付かれないよう、そっと部屋を抜け出した。