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「ここは標高もあるので寒いでしょう? 今、暖炉に火を入れますから」
薪をくべて火が起こされると、パチパチという木の爆ぜる音が聴こえて、だんだんと部屋が暖まってきた。
──紅茶を飲みながら、
「先生は、好きな季節ってあるんですか?」
そんな他愛もないことが聞いてみたくなる。
「好きな季節……?」
考え込むようにしばらく黙った後に、
「冬が好きですね…私は」
と、彼が一言を答えた。
「冬ですか…どうして?」
「うん? 冬は寒いですが、空気がそれだけ澄んで清々しいような気がして」
そう口にして、彼は温かな紅茶にふーっと息を吹きかけた。
「清々しいですか……」
冬の澄んだ清々しさは、なんだかとても彼の纏う雰囲気に見合っている気がした。
「……先生に、ぴったりですね…」
そう呟いて、そっと彼にもたれ掛かると、
「そうですか、君にそう言ってもらえると嬉しいですね」
肩が抱き寄せられ、髪が指に巻き付けられスッと耳にかけられた。
寒さに冷えた耳たぶに唇で触れられて、「ひぁっ…」と声が漏れる。
「耳…感じやすいんですか?」
「そんなわけじゃ……」
「では、こんな風にしても?」
耳の穴に直に唇をあてて、
「……感じませんか?」
彼がフーッと声を吹き込んだ。
低い声音が耳の奥に反響してゾクリと体が震える。
「……やっ…」
耳を押さえようとする私の手を掴んで、腰に手をあてがい覆い被さるように口づけられると、
座っているソファーが、ぎしりと音を立てた……。
……ささやかなじゃれ合うような時を過ごして、いつしか日が落ちかけて夕方近くになった頃、
「そろそろ食事の用意を」と、彼がソファーを立った。
「あ…私も、」
いっしょに立つと、「誘ったのは、私の方ですから」と、両肩を押し下げるようにして、ソファーへ戻された。
「でも……」言いよどんで、「何も、しないでいるのは……」そう口にすると、
「ああ、何かをしていたいのなら、食材を切ってもらっていいですか?」
そう提案がされて、「はい」と返事をして、彼の後をついて自分もキッチンに入った。