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キッチンに立ち、彼と並んで料理の下ごしらえをする。
「このトマトも、お願いできますか?」
受け取って包丁を下ろそうとしたら、刃が皮膚を薄く削いで指を切ってしまった。
「痛っ…」
蛇口をひねり滲む血を水道で洗い流そうとすると、
「大丈夫ですか?」
咄嗟に、指を唇に咥えられた。
「あっ…」
指先にちゅっと吸い付かれて、顔が赤らんでくる。
「あの…先生…もう、いいので……」
恥ずかしさに引っ込めようとするも、
「まだ、血が出ていますから」
再び引き戻され目の前で口に含まれて、僅かに血が出ている傷口をぴちゃりと舌先で舐められた。
「先生…やっ…もう……」
電流でも走るようなビリッとした感覚が襲う。
そのまま指を上から下へ舌でなぞり、付け根を甘噛みをすると、ようやく唇を離してくれた。
「……もう、」
真っ赤になって抗議するように尖らせた口に、すかさず「ん…」と唇が寄せられて、顔がよけいに火照ってくる。
「……先生、料理が、まだ途中で……」
冷蔵庫のドアに背中が追い詰められて、
「少しだけ、おあずけにさせてください」
上向けられた顔に唇が重なる。
「……ん…っ」
「そんなにそそる顔をされたら、放っておけなくなる」
指の間が組み合わされ、両手の甲が冷蔵庫に押し付けられて、より深く口づけられ息もできない。
そこへ、鍋が噴くボコボコという音がして、
「……お鍋っ!」
声を上げると、彼が火を止めて、
「思わぬ邪魔をされましたね」
鍋の中身を掻き混ぜて、ふっ…と口角を引き上げた。
──二人で作った料理を食べながら、お酒を飲む。
「……どうして、ここに別荘を?」
この界隈はよく知られた別荘地だったけれど、此処は密集地からは少し外れていて、彼が言っていたように標高も割りとあるようだった。
「どうしてかは、いずれ……」
「まだ、秘密なんですか?」
行く前にも確かそんな風にも言っていたことが、ふと思い出された。
「そう…秘密です」
言って笑む彼の顔が、まるで秘密基地を隠そうとする少年のようにも、どこか垣間見えるようだった──。